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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第7話:破滅へのドライブ

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交渉

再びバスの車内。



「要求を呑んでいただかなければ、ここにいる方々が多かれ少なかれ死ぬことになる。それは僕の気持ちが変わろうと、変わらないこと。そう……『あの方』が決めたのだから……」


香川の声には、どこか投げやりな、それでいて逃れられない呪縛に囚われたような響きがあった。

もう、自分ひとりの意思ではこの歯車を止められない。

香川はそう、稲取に告げる。


「その『あの方』っていうのがお前たちのリーダーなんだな? 名前は……誰だ?」


少しでも情報を引き出そうと、稲取が躍起になって問う。

しかし、返ってきたのは空虚な響きを持つ答えだった。


「ジョーカー。……僕たちは、そう呼んでいます」


「……本名さえ知らないのか」


稲取が苦々しく頭を抱える。

巨大な組織において、末端が幹部の素性を知らないことは珍しくない。

しかし、幹部である香川ですら実名も顔も知らないとなれば、それは徹底した秘匿(コンパートメント)化がなされている証拠だ。


(かなり頭の良い人間がトップに立っているみたいだね……)


北条は冷静に分析しながら、稲取の手元に一枚のメモを置いた。

そこには『コードネームを引き出せ』と簡潔に書かれている。

稲取はそれを見、再び受話器を握り直した。


「じゃあ、お前は何と呼ばれていた? 幹部同士、互いをどう認識していたんだ」


「僕は……『シャドウ(影)』。文字通り、影に潜んで警察の情報を引き出すのが役目だ」


「じゃあ……桜川は?」


「彼女は『ドクター(医師)』。そのままだな。……バスは間もなく都庁に向かう」


バスは次々と警察の封鎖を擦り抜け、新宿のビル群を目指す。


「あと、幹部は何人いるんだ?」


「それは……分からない。他に僕が知っているのはひとり。『スナイパー(狙撃手)』がいるらしい、としか……」


「いる『らしい』、か……」


北条は稲取のメモに、『OK。これ以上は無理に聞き出さなくていい』と殴り書いた。

深追いは警戒を招く。稲取も小さく頷き、話の矛先を変えた。


「香川。犯人の引き渡し場所が決定した。東京都庁だ」


「……え?」


その瞬間、香川の声に明らかな動揺が走った。


「確かなんだな?」


「あぁ。お上の判断だ。今、北条が犯人たちを乗せた車に同乗して、都庁に向かっている。犯人と引き換えに、必ず人質を全員解放してもらう。それが条件だ。いいな?」


「あ、あぁ……。ええ、そうするように言われている」


香川の返答には、戸惑いが隠せていなかった。


(……なるほどな。コイツ、作戦が「失敗」した時の行動しか指示されてねぇんだ。だから「予定外の成功」に脳が追いついてねぇ……)


最後尾の座席で、虎太郎は香川の僅かな狼狽を敏感に感じ取っていた。

刑事として優秀だった香川にとって、警察がこれほど容易く屈するという「異常事態」は、計算の外だったのだ。


(少しずつ、噛み合わせが狂ってきてるぜ。だが、まだだ。俺は「その時」まで死んだふりをしてやるよ……)


自由になった両手を隠し、虎太郎は獲物を待つ獣のように目を細めた。

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