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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第7話:破滅へのドライブ

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真意

「……んで?お前が『神の国』の手先だってことはよく分かった。お前のポジションはどこだ?こんな風に使い潰されるってことは、やっぱり下っ端か?」


緊迫した沈黙が流れる車内。

浅草を離れてすでに10キロ。

虎太郎は、香川を挑発しすぎない絶妙なラインを探りながら、事態の核心を突こうと言葉を紡ぐ。


「僕も、桜川と一緒だ。『神の国』に三人いる幹部の一人だよ」


「お前も幹部かよ……。警察関係者に二人も幹部がいるなんて、この組織はどうなってんだ……」


虎太郎は思わず天を仰ぎたくなる衝動に駆られた。

正義を信じ、弱きを助けるために選んだ警察官という誇り。

だが、その組織の心臓部とも言える捜査一課に、冷酷なテロ組織の幹部が潜んでいた。


「ったく……お前が犯罪に加担してどうすんだよ。お前が守るべきは法だろうが」


「正義、とか言ったな?」


香川が虎太郎の前に立ち、氷のような瞳で見下ろす。


「警察が正義を守る組織だと思っているなら、それは大きな勘違いだ。そんな幻想を抱いて刑事を続けているお前は……本当におめでたい奴だよ」


「なんだと……? どういう意味だ!」


「警察には、救いようのない闇が存在する。それは今までも、そしてこれからもだ。その闇は決して消えることはない。警察とはそういう『仕組み』でできている組織だからな」


「……そういう、組織……?」


「この腐り果てた警察組織を一新するためには、国の枠組みそのものを変え、溜まりに溜まった膿を絞り出さなければならない。そして、そのためには――」


香川の表情から、一切の熱が消えた。


「多少の荒事はやむを得ない。多少の犠牲も、な。国民が今の国と警察に心底失望し、絶望する。それが新しい秩序を築くための唯一のトリガーなんだ。わかるか、長塚。『神の国』は、国民が目を覚ますための残酷な目覚まし時計に過ぎないのさ」


その薄い唇に、歪な笑みが浮かぶ。


「なーにを馬鹿馬鹿しいことを……!」


虎太郎は縛られた身体を震わせ、香川を射貫くような眼差しで睨みつけた。


「警察官が全員腐ってるなんて、誰が決めた。一人残らず闇に染まってるなんて、お前が決めることじゃねぇ。目の前の犯罪を減らそうと、困っている人を助けようと、泥にまみれて走ってる警察官だっているんだよ……俺みたいにな!」


真っ直ぐで、混じりけのない叫び。

それは、香川が捨て去ろうとした、かつての自分自身の鏡だったのかもしれない。



「お前たち数人にたとえ本当の正義があったとしても……『その他大勢』が悪ならば、その組織は悪なんだ。そんなことも分からないのか?」


「あぁ、分からねぇな! お前がどれだけ今の警察を恨んでるかは知らねぇが、そんなに悪い奴が多いってんなら、俺が……俺たちが内部から変えていってやる。それが筋だろ! 悪い奴が多いからってそいつらに染まるような、そんな薄っぺらい正義なんて、俺は持ち合わせてねぇんだよ!」


必死に身悶えし、拘束を解こうとする虎太郎。

しかし、縄は食い込むばかりでびくともしない。

乗客たちの安全を最優先し、自ら「加減するな」と指示して縛らせた代償は重かった。


「……まぁ、綺麗事はその辺にしておけ。お前がいかに高尚な正義感を持っていたとしてもだ。今のお前には何もできない。そうだろう?」


「ちっ……」


香川の言葉は、非情なまでに正論だった。

両手両足を完全に封じられ、座席に転がされている今の虎太郎は、皮肉にも彼が守ろうとしている「ただの人質」の一人でしかなかった。


「人質は人質らしく、のんびりと楽しんだらどうだ? 絶望のドライブを」


香川の冷ややかな嘲笑が車内に響く。

虎太郎は悔しさに奥歯を噛み締め、爆弾を抱えたかつての相棒を睨みつけることしかできなかった。


『――よーしよし、虎太郎くん。挑発に乗らずによく耐えたね。そのままどんどん、香川くんを喋らせちゃってよ』


その瞬間、ノイズ混じりの無線から、聞き慣れた、場違いなほど穏やかな声が届いた。

ちょうどその頃、警視庁の地下にある特務課司令室の重厚な扉が開いたのだ。


「北条さん!」


「待ってたよー、遅いよ!」


志乃と悠真が、砂漠で水を見つけたかのような表情で北条を迎える。


「稲取くん、お疲れさま。大変だろうけど、よく頑張ってるねぇ」


「あんたはそうやって、いつものらりくらりと……! うちの部下と、あんたのところの若造が、二人とも死にそうなんだぞ!」


モニターの前で血走った目をしている稲取が、北条に食ってかかる。

しかし、北条はそれを柳に風と受け流しながら、司令室のメインモニターに映し出された膨大な情報群に鋭い視線を走らせた。


「まぁ、ね……。確かに状況は最悪だ。でも――」


北条の指先がコンソールに触れ、いくつかのウィンドウを整理していく。


「どこかに必ず、彼が気づいていない『綻び』があるはずだ。それを探すよ。稲取くんはそのまま、香川くんとの通話と交渉を続けて。頼んだよ」


「はぁ!? 俺がやるのか? 北条さん、あんたが替わるために戻ってきたんじゃねぇのかよ!」


「電話を替わるために戻ってきたんじゃないよ。より情報が集約されているここ(司令室)で、虎太郎くんたち……人質を解放するための『最適解』を導き出すためさ。電話にかじりついてたら、肝心な一瞬の情報を見逃しちゃうかもしれないからね」


「しかし……俺にこれ以上の交渉なんて……」


不安に揺れる稲取の肩を、北条はいつになく強く、力強く叩いた。


「腹をくくろうや、稲取くん。どのみち僕たちが動けなければ、この事件は多大な犠牲を出して終わるだけだ。虎も、乗客も、そして香川くん自身もね……みんな死ぬ。そんな未来しか残されていない。その絶望的な未来を力ずくでねじ曲げるのが、僕たち刑事の役目だろう?」


「…………。……分かったよ、ちくしょう」


北条の瞳に宿る、静かだが逃げ場のない覚悟。

それに射貫かれた稲取は、小さく、だが確実に頷き、再び受話器を握りしめた。


特務課の頭脳と、捜査一課の意地。

バラバラだったピースが、北条の帰還によって一つに組み合わさり始めた。



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