対策
一方、司令室ほか特務課のメンバーたちは、各自、迅速に事態の掌握に取りかかる。
「志乃さん、大至急一課に応援要請を。悠真くんはあさみ・辰川さんと連携してバスの移動経路を先読みして!」
「了解しました!」
「はーい、やってるよー」
司の凛とした指揮のもと、志乃のタイピング音が響き、悠真の指が複数のモニターを躍るように叩く。
「あさみ、辰川さん……聞こえてた?」
『ああ、また面倒なことになったもんだぜ』
辰川の重厚な声が無線から漏れる。
『虎のやつ……復帰早々、足引っ張るなっての!』
あさみがエンジンを吹かす音が背後に聞こえた。
「二人はそのままバスを追跡して。下手に挑発や威嚇は行わないこと。乗客の安全を最優先とします。バスの燃料が尽きるまでが勝負よ。それまでは無線を活かして、距離を保ちながら追って」
司が的確な指示を飛ばしていた、その時だった。
「バカ野郎! ガセネタ流して応援要請なんてするんじゃねぇ、特務課ぁ!」
司令室のドアが勢いよく開き、怒鳴り込んできたのは捜査一課長・稲取だった。
「稲取課長……」
「おい新堂! 一課は事件解決のために香川を送ってるんだ! その香川を確保するための応援要請ってのは、一体どういうことだよ!」
血相を変えて司に詰め寄る稲取。
彼のプライドと、部下への信頼が激しく揺さぶられていた。
「かつての同僚だと思って大人しく聞いてりゃぁ、おい……!」
「稲取さん、私も耳を疑いましたが……これは事実です。……悠真くん、捉えられた?」
「うーん、まだちょっと遠いけど、『彼』が見えるくらいにはなったかな」
「それじゃ、映して。同時に虎太郎くんの無線に入る音声も、できる限り拾って」
興奮する稲取を遮り、司は極めて冷静に指示を出す。
「了解。出すよー」
悠真の返事と共に、メインモニターに上空からバスを俯瞰で捉えた映像が映し出された。
「これ、超高高度からの遠隔操作ドローン。上手くいったよ、ここまで安定して操作できるようになるまで、もう三……」
「ドローンの自慢はいいから、早く中を映せ!」
稲取の怒声に悠真は肩をすくめ、カメラの倍率を上げる。
ドローンは香川に気づかれない高度と角度を保ちながら、死角を縫うようにバスへと接近していく。
そして、スピーカーから、車内の音声が鮮明に流れ始めた。
『……どこまで向かうんですか?』
怯えた運転手の声。
『それは僕が指示する』 冷徹な、あまりに聞き慣れた声が響く。
『私たちは……どうなってしまうの……』
『お前たちに質問する権利はない。僕の指示に素直に従えばいい。それが生き残る唯一の術だ』
「まさか……!」
稲取の顔から血の気が引いた。
同じ一課で、手塩にかけて育ててきた部下の声を、聞き間違えるはずがない。 香川が紛れもない「犯人」として振る舞う現実を突きつけられ、稲取は力なく近くの椅子に崩れ落ちた。
「香川……お前、本気なのか……?」
特務課の司令室に、重苦しい沈黙が広がった。




