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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第1話:美しき犠牲者たち

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8/28

違和感

綺麗に片付けられた、長島綾の遺された部屋。


「家事は主に綾がやっていたので、なかなか慣れなくて……。散らかっていて、すみません」


「いや……俺んちより、ずっと綺麗だわ」


「うんうん、見事に整えられているね。お邪魔するよ」


北条と虎太郎が、本宮に促されて室内に入る。

少し大きめのソファに腰を下ろすと、丁寧に淹れられた紅茶とクッキーが差し出された。


「僕たちの、食後のおやつだったんです。夕食を食べて、二人でこれを囲んで、テレビを見ながら他愛もない話をする。それが、僕たちの日常で、一番幸せなひとときでした。それなのに……っ」


俯いた本宮の顔が、赤く上気していく。


「どうして、こんなことに……! 犯人が、許せない。僕から……僕たちから幸せを奪った犯人が、絶対に許せない!!」


激情をぶつけるように、テーブルを叩く本宮。


「お、おいおい……。そんなに熱くなるなって。犯人は、俺たちが絶対に見つけてやるからよ!」


虎太郎が同情を込めて本宮の肩を叩く。

その様子を、北条は感情を削ぎ落としたような瞳で、ただじっと見つめていた。


「さて……いくつか訊ねたいことがあるよ。まず本宮さん、あなたの職業は?」


「僕ですか? 綾と同じショップ店員です。それは、既に調べているはずでしょう?」


「そうかぁ……。じゃあ、趣味の方かな。そのカメラ……一眼レフだよね? ただの趣味で持つにしては、随分と本格的過ぎる気がするけど」


北条がテレビの横に置かれた、重厚なレンズのついたカメラを指差した。


「……詳しいんですね」


「まあ、色んな事件で『真実』を見てきているからね。自然と知識は身に付くのさ」


実は、北条は玄関を潜った瞬間から、このカメラの存在が気になっていた。


「どんな写真を撮るんだい?」


「え……風景がほとんどです。お見せしましょうか?」


本宮は奥の棚から、数冊のアルバムを抱えて戻ってきた。


「へぇ……。そこいらの写真誌より、ずっと綺麗に撮れている」


「もともと、写真家になるのが夢だったんです。でも、写真だけで食べていくのは難しくて……。それで今の仕事を見つけた時、僕は気づいたんです。自分は、――『完璧に美しいもの』が好きなんだって。だから、綾と出会った時、運命を感じました。彼女は、本当に、欠点一つないほど綺麗だったから……」


「……なるほど。運命、ね。ありがとう。参考になったよ。よし虎、そろそろお暇しようか」


「えっ? ……まだ来たばっかりじゃねぇか!」


「これ以上、悲しいことを思い出させるのも可哀想だよ。『早く犯人を逮捕』しに行かなくちゃ……ね」


状況が飲み込めず抗議する虎太郎の手を引き、北条は強引に立ち上がった。


「何のお構いもできず、申し訳ありません……」


「いいや。こちらこそ、ずけずけと上がり込んじゃってごめんね」


申し訳なさそうに頭を下げる本宮に、北条はいつもの人懐っこい笑顔で手を振って見せた。


その笑顔の奥に、獲物を仕留める直前の鷹のような鋭さを隠して。



「なんだよ北条さん。わざわざここに来たのは、本宮の趣味を聞くためだったのか?」


僅か十数分の滞在で切り上げた北条に、虎太郎は隠そうともせず不満の色を露わにする。

だが北条は


「まぁまぁ」


と宥めるように、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「話を聞いただけじゃないよ。ちゃぁんと、確かめるべきものは確かめたさ」


「……あ?」


北条の自信たっぷりの横顔に、虎太郎の頭の中には疑問符ばかりが浮かぶ。

その時、北条のポケットでスマホが小刻みに震えた。


「お……きたきた」


画面には悠真の名。

北条は即座に通話ボタンを親指で弾く。


「もしもーし。もう調べ終わったのかい?」


『僕を誰だと思ってるのさ。……完璧にまとめてあるよ。今、北条さんのアドレスにデータを添付して送った』


「仕事が早くて助かるよ」


『……だけど北条さん。いつから目星をつけてたの? 調べていて、ちょっと恐ろしくなってきたよ……』


いつもは軽い悠真の声が、心なしか強張っている。


「年の功、ってやつさね。……じゃあ、後でじっくり見せてもらうよ」


『はーい。……あ、今度「蓬莱軒」のラーメンね!』


「はいはい。好きなトッピングを好きなだけ乗せていいよ」


『やった! じゃあね!』


悠真の現金な返事と共に通話が切れる。

それと同時に、着信通知の横に一通のメールが表示された。


「なぁ、何のメールだよ。見せろよ」


虎太郎が背後から画面を覗き込もうとするが、北条はそれを腕で制し、食い入るように内容を確認する。


「なんだよ、ケチくせぇな!」


だが、画面を見つめる北条の口元には、冷徹な笑みが浮かんでいた。


「見せるよ。……これから、嫌というほど『結果』としてね」


北条は踵を返すと、署とは反対の方向へ、迷いのない足取りで歩き出した。


「今度はどこへ?」


「あぁ……次は『葛西クリニック』に行こう」


「は? クリニック?」


「ああ。究極の美を求める女たちが集う――禁断の聖域さ」


何かを完全に射抜いたような北条の表情。

それが、虎太郎にはひどく不気味に映った。



長島宅から、坂を登ること徒歩二十分。


「タクシーとか使った方が良かったんじゃねぇの?」


「ちょっと『上司』がうるさくてねぇ……。特務課の予算には厳しいんだ、司ちゃんは」


「確かに。捜査は脚を使ってするものだって言いそうだな。ま、俺は何キロ走ったって平気だけどよ」


「ほんと、若さが羨ましいよ……」


少し小高い丘の上に、その建物はあった。


「葛西クリニック」。

清潔感のある白を基調とした、モダンな造り。

高い天井、洗練されたアロマの香り、並べられた高級誌……そこは病院というより、会員制のサロンのような趣だった。


「おぉ……。初めて来たぜ、『整形外科』ってやつ……」


虎太郎が、まるでお上りさんのように辺りをキョロキョロと見回す。


「こらこら、挙動不審はやめなさい。恥ずかしいだろ」


苦笑を浮かべながら、北条は迷わず受付へと向かった。

その背中には、もう「のんびりしたおじさん」の気配は微塵もなかった。

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