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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第6話:人間の可能性

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特務課の絆

桜川雪の逮捕から、三日が過ぎた。


「虎太郎くん、今日も来ませんね……」


司令室に志乃の溜息が漏れる。

幸い、その後大きな事件は起きていない。

だが、身内に『神の国』の幹部が潜伏していた事実は警視庁を震撼させ、内部はかつてない緊張感に包まれていた。


一課の稲取が各署との連携に奔走する中、特務課もまた、独自に過去の事件の背後関係を洗い直していた。


「猫の手も借りたい状況だが、まあ仕方ねぇ。あいつの気持ち次第だ」


辰川が書類をまとめながら言う。


「そうだよね……精神的な傷は、目に見えない分だけ治りが遅いものだし」


悠真も同意し、あさみは虎太郎の机にどっかりと腰を下ろした。


「ま、あいつの分まで私が働くし、問題ないっしょ。なーんか、いじめたつもりもないのに勝手に不登校になられて悪者にされた気分だわ。退屈だし、また押し掛けて今度は徹底的に散らかしてやりましょうよ」


あさみが大きく伸びをした、その時だった。


「……おい。俺の机は椅子じゃねぇ。そのデカいケツを早く退けろ」


「……んだとぉ!? ……って、えっ」


背後から響いた聞き慣れた低い声に、あさみが飛び上がる。

そこに立っていたのは、少し痩せたが、確かな眼光を取り戻した虎太郎だった。


「おぉ、虎太郎くん! いつの間に?」


「ああ、たった今」


「司令、見えてたんでしょ! 教えてよー!」


「ふふっ。みんながあまりに夢中だったから、面白いと思って」


司だけが、入室してきた虎太郎と静かに視線を交わし、笑顔で迎えていたのだ。


「……もう、大丈夫なの?」


司の問いに、虎太郎は短く息を吐き、真っ直ぐに彼女を見つめた。


「大丈夫かと言われれば、正直まだキツいっす。でも、このまま腐ってたら奈美に愛想を尽かされる。あいつは、正義のために働く『警察官』の俺を信じてついてきてくれたんだ。……無職の俺じゃ、あいつに顔向けできませんから」


虎太郎はメンバーに向き直ると、腰が折れんばかりに深く、深々と頭を下げた。


「長い間、多大な迷惑をかけました! 今日から戦列に復帰します。死ぬ気で働くんで、こき使ってください!」


司令室の壁を震わせるほどの、張りのある声。

一同の顔に、言葉にならない安堵と喜びの笑みが広がった。


「よし、虎。ならこれ、全部処理しておいて。忙しくて手がつけられなかったんだ」


絶妙なタイミングで、北条が山のような紙束を虎太郎のデスクに積み上げる。


「……これ、全部領収書か?」


「うん。事件中の交通費に手配費用、薬剤の調達、それから先日の買い出し費用……」


「買い出しは自腹だろうが! そもそも私用の飲み会が経費で落ちるわけねぇだろ!」

「まあまあ。ついでだよ、ついで」


「……絶対、会計で跳ねられるぞ、これ!」


北条と虎太郎の、以前と変わらぬ軽妙な掛け合い。

それを見守るメンバーたちの笑い声が、司令室に響き渡る。


窓から差し込む朝の光が、七人のエキスパートたちを照らしていた。

悲しみを抱えながらも、彼らは再び歩き出す。

東京の闇を暴き、小さな正義を守り抜くために。


この日、特務課は本当の意味で「全員」が揃った。



「ちょっと、経理に行ってくる!!」


弾かれたように司令室を飛び出していく虎太郎。

その背中に、北条が鋭く、けれど柔らかな声を投げかけた。


「虎ぁ!」


足を止めた彼に、北条は一言、噛みしめるように告げる。


「……ゆっくりで、いいから」


その短い言葉には、北条の祈りにも似た想いが込められていた。

最愛の人を喪った彼が、使命感に急かされて壊れてしまわないか。

自棄になり、その魂を濁らせてしまわないか。

北条はずっと、それだけを危惧していたのだ。


「俺……北条さんがバディで良かったよ。そして、特務課で良かった。みんなのお陰で、北条さんのお陰で、俺はなんとかやっていけそうです」


虎太郎の瞳には、かつての迷いはない。

犯人を断罪し、自分のために「居場所」を守り続けてくれた仲間たちへの、深い感謝が宿っていた。


「……奈美が言ってたんです。俺に惹かれたのは、困った人にはいつだって真っ直ぐに向き合っていたからだって。だからさ、これからも刑事として、一人の人間として、誰かの苦しみに真っ直ぐに向き合おうと思う。そうじゃねぇと……天国の奈美に、愛想尽かされちまうからな」


「……うん。僕もそれが一番、二人のためだと思うよ。これからは、今まで以上に自分を大事にするんだ。君の身体には、奈美ちゃんの想いも宿っているんだからね」


虎太郎の揺るぎない言葉を聞き、北条は心底安心したように、優しい笑みを浮かべた。


「北条さん……いろいろ、サンキュ。俺、足を引っ張らないように、これからもっと頑張るから」


「いいよ別に。足を引っ張った日は、その日の晩酌を奢ってくれればね」


「お、おぅ……って、引っ張らねぇよ!」


「ま、期待しないで見てるよ。じゃ、お使いよろしく~」


手をひらひらと振りながら司令室へ戻る北条。

その足取りは、いつになく軽やかだった。


「虎ぁ、帰りに太陽堂のチョコカステラ買ってきて~!」


「あ、僕マカロンがいいな」


「俺は島田屋の豆大福一択だ」


「えっと、私は……」


二人のやり取りを扉の陰で聞き耳を立てていたのか、メンバーたちが一斉に身を乗り出して注文を飛ばす。


「経理に行くだけで、なんで土産の話になるんだよ!!」


元気なツッコミを入れ、虎太郎が声を立てて笑う。


「……ま、外出許可が出るなら、帰りに買ってきてやるよ」


こうして、法医・桜川雪の狂乱が招いた一連の惨劇は、静かに幕を閉じた。 多くの悲しみと、癒えぬ傷を遺したこの事件は、同時に一人の若手刑事を、より強く、より高くへと押し上げる契機となった。


虎太郎の成長。

それが今後、東京を揺るがす巨大な闇……『神の国』との決戦を左右する決定打になることを、この時の彼らはまだ、知る由もなかった。

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