特務課の決意
奈美の葬儀から、一週間が過ぎた。
「今日も、虎太郎くんは休み?」
「うん。……やっぱり、ね」
奈美は病院へ搬送されたものの、到着を待たずに息を引き取った。
最後まで失われた下半身は見つからないまま、先日、身内のみで葬儀が執り行われた。
「やはり、刑事の貴方に奈美を託すのではなかった!」
「奈美を……娘を返して! お願いだから……っ!」
葬儀への参列すら拒まれ、遺族から投げつけられた血を吐くような言葉。
虎太郎はそれを無言で受け止め、亡霊のように自宅マンションへと消えた。
それ以来、彼は一度も部屋から出ていない。
北条が何度かドアを叩き、声をかけたが、返ってきたのは、かつての彼からは想像もつかないほど枯れ果てた声だった。
『……悪い。気持ちはありがてぇけどよ、北条さん。奈美が殺されて……今の俺には、もう守るべきものが何一つねぇんだ』
その言葉に、北条は引き下がるしかなかった。
「気持ちは痛いほどわかるよ。新しい家族になるはずだった女性を、あんな無惨な形で奪われたんだ。誰よりも正義感が強く、守るために刑事になった男が、最愛の女性一人守れなかったと自分を責めている。それは……想像を絶する絶望だろうね」
北条が静かに語る横で、志乃と悠真が沈痛な面持ちで俯く。
「虎太郎くん……大丈夫かしら。戻ってこられるの?」
「……大丈夫なんてことは、絶対にない。あんな、魂がちぎれるような絶叫を、俺たちは聞いてしまったんだから……」
辰川が忌々しげに壁を叩いた。
あの叫びが、今も司令室にこびりついているような気がしてならなかった。
「どちらにしても、私たちにできることは一つだけよ」
静寂を破ったのは、新堂司の凛とした声だった。
「一刻も早く、この事件の犯人を……いいえ、それだけじゃないわ。一連の事件の黒幕を突き止めること。こんな不条理を、二度と誰にも味わせないために」
「そうね。私も引き続きパトロールを続けるわ……って、ねぇ、ちょっと」
自分の責務を果たそうと決意を新たにしたあさみが、ふと、ある「違和感」に気づき、眉を寄せた。
「私……ここ数日、深夜は港区を重点的にパトロールしてたの。……虎太郎の家って、港区の駅前マンションだったわよね?」
「ああ。人通りの多い、セキュリティもしっかりした場所だ。あからさまな拉致が起こるような場所じゃない」
北条の答えに、あさみがさらに踏み込む。
「だとしたら、奈美さんは一体どこで犯人に捕まったのかしら……。他の被害者の足取りは掴めていないけれど、私たちの身内なら、彼女が何時に家を出て、どこに立ち寄るか、ある程度の予測は立てられるはずよ」
あさみの言葉が、停滞していた空気の中に鋭い風を吹き込んだ。
「それだ……。灯台下暗しだったね。まずは事件前数日間の、奈美ちゃんの足取りを徹底的に洗おう」
北条の瞳に、静かだが激しい怒りの火が灯る。
「必ず引きずり出してやる。奈美ちゃんのためにも……そして、あいつを地獄から連れ戻すためにも!」
特務課のモニターが、一斉に港区周辺の防犯カメラ映像を吸い上げ始めた。 止まっていた時間が、復讐という名を持って再び動き出した。




