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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第6話:人間の可能性

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司令室の異変

「……ったく、なんなんだよ最近の事件は……」


泥のように疲れ果てた様子で司令室に戻ってきた虎太郎と北条、そして白衣をなびかせた桜川。

その重苦しい足音に、司令室の空気が一瞬で引き締まる。


「ホントっスよ。私の検死史上、一、二を争う奇っ怪っぷりっス」


「シンプルに『誰が誰を殺した』っていう次元じゃないもんねぇ……」


北条は深い溜息と共にコーヒーメーカーへ向かい、熱い液体を喉に流し込んだ。

その苦みが、現場の生々しい記憶をわずかに押し流してくれる。


「おかえりなさい。相当、難解な事件のようね」


司がデスクから顔を上げ、二人を労う。

その瞳には、すでに戦況を見据える冷徹な光が宿っていた。


「さて、それじゃあ情報を整理しましょう。志乃さん、周辺の動きは?」


「不審車両・不審人物、ともに該当なしです。被害者の死亡推定時刻前後の防犯カメラを徹底的に洗っていますが、物理的な侵入の形跡すら見当たりません」


志乃の報告に、司は眉を寄せる。


「悠真くん、ネットやSNSは?」


「なーーんにも。それっぽいワードのヒットも、犯行声明もなし。あるのは現場を見た人の悲鳴じみた投稿くらいだけど、過激すぎて運営に即削除されてるよ。不気味なほど、犯人側の足跡が見えないんだよね」


悠真も、キーボードから手を離して両手を上げた。

続けて辰川が、住民の声を代弁するように口を開く。


「近隣の連中も『最近は何もおかしなことはなかった』ってさ。逆に、何の前触れもなかったから余計に怖いって怯えてる」


「……私、今夜から近隣のパトロールに出るわ。警察の姿が見えない深夜は、人々の不安が一番の『餌』になるから」


あさみの申し出に、司が頷く。


「助かるわ、あさみ。けれど無理はしないで。相手の狙いがまだ見えないから」


各自が淀みなく現状を報告し、次の方針を固めていく。

その光景を、桜川はうっとりとした表情で見つめていた。


「はぁ……カッコいいっス……これが、特務課……」


「……で、センセー。なんであんたまで付いてきてるんだよ?」


虎太郎が呆れたように問うと、桜川は慌てて背筋を伸ばした。


「え?……いや、私は今日から特務課に……なんて、嘘っス。ここ数ヶ月の『神の国』絡みの事件と、今回の二件。その被害者の死因データをまとめてきたっス。これを渡しておこうと思って」


桜川が手渡した資料を、北条が受け取り、鋭い視線で追う。


「連続女性殺害、連続放火、連続爆弾テロ……。ここまでは、従来の猟奇事件や凶悪犯罪の延長線上にあった。『神の国』は、実行犯に道具と手口を与え、爆発的な破壊を引き起こしていたね」


資料を捲る音が、静かな室内に響く。


「そして、前回の通り魔事件と集団自死。これはネットを通じた『洗脳』による、より直接的な支配だ。けれど……」


桜川が、今回の「生け花」と「水族館」の資料を力強く指差した。


「これまでの死因はシンプルだったっス。失血、焼死、爆死……。けれど、今回の二件は明らかに毛色が違うっスよ。なんというか……殺すことそのものよりも、その後の『見せ方』に全力が注がれている。医学的に言えば、効率が悪すぎるっス」


その言葉に、司の表情が一段と険しくなった。


「破壊から、洗脳。そして次は……『芸術』という名の冒涜かしら」


『神の国』のフェーズが、明らかに変わった。

司令室に、冷たい緊張感が再び走り抜けた。



「……今回の二件、被害者が『神の国』と接触した形跡もなければ、自宅に『蠍の贈り物』が届いた形跡もなかったっス。もしかしたらこの二件は、これまでの事件とは全く別の、未知の犯人による犯行かもしれないっス……」


公園での凄惨な「生け花」と、水族館での「沈む彫刻」。

その二つの異常な資料をデスクに並べ、桜川雪が慎重に口を開いた。


「なるほどね……。しかし、これほど猟奇的な犯罪が同じ街で立て続けに起こるかな。もし犯人が別人だとしたら、この街にはとんでもない怪物が二人、同時に潜伏していたことになるけれど」


北条は自身の手帳を広げ、険しい表情で文字を追う。


「これほどの殺しをする人間が、今まで誰ともトラブルを起こさず、のうのうと社会に紛れ込んできたこと自体、僕にはどうしても解せないんだ。これだけの手間と情熱をかける犯行だ、何らかの精神的な予兆がどこかにあってもいいはずなんだが……」


北条は『同一犯』を疑い、桜川は『別個の可能性』を提示する。

二人の思考が平行線を辿り、司令室に重い沈黙が落ちた、その時だった。


「お世話になってまーす! 首都急便でーす!」


快活な声と共に、運送会社の配送員が大きな荷物を抱えて司令室に入ってきた。


「あら……特務課にお届け物?」


「ええ……こちらで間違いないですよね?」


司の目配せを受け、志乃が受け取りに立つ。

彼女は荷物の配達票を注視したまま、ふと動きを止めた。


「送り主の記載が……ないんですね?」


「はい。営業所に直接持ち込まれたそうで。受付が確認したんですが、『届けばわかる』とだけ言い残して去っていったそうです」


「届けば、わかる……?」


「ええ。二十代半ばくらいの、若い女性だったそうですよ」


北条のペンが動き、その会話のすべてをメモ帳に刻み込む。


(二十代半ばの女性……。そこに犯人の手がかりがあるのか?)


「……あら?」


慎重に荷物をチェックしていた志乃が、何かを見つけたように声を漏らした。


「じゃ、確かに届けましたよ!」


「あ、はい、ご苦労様です……。虎太郎くん、これ……見て」


志乃が、配送票のお届け先欄を指さす。


『警視庁特務課 長塚 虎太郎 様』


「……あ? 俺に?」


虎太郎が身を乗り出し、自分の名前に目を凝らす。


「二十代半ばの女性、か……。奈美の友達かなんかかな? ……いや、だったら俺の自宅に送ってくれればいいよな」


虎太郎は首を傾げながらも、自分の名指しで届いた荷物に、どこか気楽な調子で歩み寄った。


「なんか悪いな、私事でよ。みんなの前で開けちまうぜ?」


虎太郎が大きな段ボールの天面に手をかけ、封を剥がそうとした――その時である。


「――待て! 虎太郎、それに触るな!!」


北条の、これまでに聞いたこともないような鋭い絶叫が司令室に響き渡った。

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