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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第4話:命の価値

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逃げ延びた男

「やはり空港は封鎖ですか……。日本の警察というのは、どうにも根回しが早すぎて困りますね」


羽田空港へと続く国道の脇。

そこには、一人の男が立っていた。

隙のないスーツを纏い、磨き上げられた革靴。

手にはビジネスバッグと旅行用スーツケース。

どこから見ても、出張を控えた品の良い「紳士」にしか見えないその男こそ、忽然と姿を消した犯人Fであった。


彼の手には、一冊のファイル――あの『シナリオ』が握られている。


「さすがですね……。銀行からの脱出までは読めていましたが、まさかその先まで予見されているとは」


シナリオの最後の一ページには、こう記されていた。


【逃走を選択した場合、警察は直ちに空港を封鎖し、捜査員を配置する。民間人への呼びかけも強化され、国外逃亡は自殺行為に等しい】


選択肢は二つあった。

逃走、あるいは「自首」。

ちなみに自首を選んだ場合の結末は、こうだ。


【勾留五日目、差し入れのボールペンの芯に仕込んだ毒物で自害せよ。貴方の名は同志の間で神格化され、永遠に刻まれるだろう】


「まだ、私は死ねません。まだ、何も成し遂げていない……!」


家庭では邪魔者、会社では使い捨ての駒。

そんな「空っぽ」だった人生に、初めて与えられた役割(ロール)

神格化などという死後の名誉よりも、彼はこの組織――『蠍』の中で確かな地位を築くことに執着していた。


「厄介払いされてたまるものか。私はこれからもこの組織のために働き、いつか幹部の一人となってみせる……」


ようやく見つけた、自分が「必要とされる場所」。

Fは、自分を「個」として認めてくれたこの組織に、魂の底から心酔していた。


【逃亡に成功したならば、この場所へ向かえ。――群馬県、某山中】


最後のページの裏側、そこには一つの座標が記されていた。


「群馬の山奥ですか……。そこに何が待っているのかは分かりませんが、私に残された選択肢は、もうこれしかない」


路肩に用意されていた、至極ありふれた国産車に乗り込む。

エンジンをかけると、カーナビにはすでに目的地がセットされていた。

警察の追跡をあざ笑うかのような、完璧な「お迎え」だ。


「ここまで周到とは。この組織のリーダーがどんな方なのか、ますます興味が湧いてきましたよ……」


すべてを捨て、平凡を脱ぎ捨てた男が、狂気の希望を抱いて加速する。


都心で起きた大手銀行立てこもり事件。

二人の死者を出し、警察の威信を粉々に打ち砕いたその首謀者は、夜の帳に紛れて、さらなる闇の深淵へと姿を消した。

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