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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第3話:恨みの花火

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新たな標的

虎太郎が豊洲へひた走る、ほぼ同時刻。

辰川の掌の中で、端末が震えた。

届いたのは、地獄からの招待状だ。


『――今度は、お前の一番大切なものを爆破しようと思う。お前にも娘がいるな? もうすぐ大学卒業だそうじゃないか。めでたいことだ。私が盛大に祝砲を、……花火を打ち上げてやろう』


「な……なんだと!?」


血の気が引く。

指先が震える。

だが、その文面を見た瞬間、辰川の胸中の疑惑は、揺るぎない「確信」へと変わった。


「……中山、貴様なのか……!」


脳裏をよぎるのは、十年前のあの日から今日まで、自分たち親子を支えてくれた親友の笑顔だ。

辰川が爆弾処理という命懸けの職務に就くことを拒絶し、反抗期真っ只中だった娘・紗良。

彼女を説得し、親子の絆を繋ぎ止めてくれたのは、他ならぬ中山だった。


『紗良ちゃん。お父さんの仕事は、唯一無二なんだ。警察官は市民の安全を守る。だがな、爆弾処理班ってのは、その中でも特に『命』を守るために存在する。大勢の人間を一度に救い出せる、本物の英雄なんだよ、君のお父さんは……』


中山のあの言葉があったから、今の親子関係がある。

あの時、中山が背中を押してくれなければ、自分は今頃、孤独の中で酒に溺れるだけの惨めな男だっただろう。


「……感謝してるんだぞ、中山。本気で、お前には……!」


辰川は震える指で、紗良へメッセージを送った。

日常を装い、父親としてのぎこちない誘いを、最大限の虚勢で包み込んで。


『昼休み、外で食おうと思うんだが、何がおすすめだ? 今仕事で台場に来てるんだが、近くにいるならどうだ?』


数分の沈黙が、永遠のように感じられた。 やがて、通知音が鳴る。


『パパが外食なんて珍しい!! テレビ局の向かいにお洒落なカフェがあるんだけど、そこのパンケーキ絶品だよ。あーあ、卒論に追われてなければすぐに行きたいんだけどなぁ。……もちろん、パパのおごりでしょ?』


『娘と割り勘なんて恥ずかしい真似するかよ。卒論ってことは、学校か?』


『うん。学食で皆とランチしてから、図書館で続行。パパ、また誘ってね!』


画面の向こうで笑う娘の顔が目に浮かぶ。

彼女は何の疑いもなく、自分の居場所を、そして未来を語ってくれた。


「まったく……素直な子で、親父は幸せもんだぜ」


今の世の中、年頃の娘とこれほど軽やかに言葉を交わせる父親がどれほどいるだろう。

中山が守ってくれた、この暖かな日常。

それを中山自身が壊そうとしている。


「……行かせねぇ。お前の絶望を、俺の娘で晴らさせるわけにはいかねぇんだ」


辰川の瞳から、父親としての「情」が消え、爆弾処理官としての「烈火」が宿る。


「絶対に……死なせはしないからな」


辰川は愛車に飛び乗ると、サイレンを鳴らす間も惜しむように、娘の待つ大学へとアクセルを踏み込んだ。


「今度は、辰川さんの娘さんが狙われた……!?」


大学へ急行するという辰川の無線を聴き、虎太郎の思考が激しく火花を散らす。


(どうする? 今すぐ大学へ向かって学生を避難させるべきか。それとも、このまま西尾さんと合流するか……)


目前の危機は、間違いなく大学の爆弾だ。

だが、この終わりのない「死の鬼ごっこ」を終わらせるには、中山の潜伏先を叩くしかない。


「司令、俺は……」


『虎、こっちは気にするな。西尾と合流してくれ』


虎太郎の葛藤を見透かしたように、辰川の鋭い声が割って入った。


『大丈夫だ。誰も死なせやしねぇ。俺がその場ですべて解除しちまえば、済む話なんだからな!』


「辰川さん……」


『何度も鼬ごっこを演じられるほど、俺たちは暇じゃねぇんだ。犯人は、俺が右往左往する無様な姿を特等席で楽しんでやがる。俺を狙うのは勝手だが、関係ねぇ連中を巻き込むのだけは許せねぇ。だから虎、頼む。西尾に会って、奴の居場所を……尻尾を掴んでくれ!』


辰川は、一度として「中山」の名を口にしない。

目の前の爆弾がどれほど中山の指先を証明していても、心の一角では、まだ彼を「親友」の棚に置いたままにしている。


(辰川さん……。もう中山さんの罪は消えない。だけど……)


「了解!! 最速でホシを割り出して、確保に繋げるぜ!」


(少しでも早く捕まえれば、これ以上あいつの罪が増えることはねぇ。……辰川さん、それが俺にできる精一杯の友情だ。いいだろ?)


刑事としての義務と、相棒への献身。

虎太郎の決意に、辰川が短く応える。


『あぁ……サンキューな、虎』


「さて、俺は大学に急ぐ! 志乃ちゃん、大学側に緊急連絡! 状況報告と学生の完全避難を最優先で依頼してくれ!」


『了解しました。近隣の捜査員も数名、先行して現地のバックアップに回しています。辰川さんの到着まで、現場を孤立させません!』


志乃の声が、チェスのグランドマスターのように的確に駒を配置していく。


「すげぇな……。これが志乃さんの本領か」


単に情報を送るだけではない。

現場の孤独と不安を消し去るために、必ず三名一組のユニットを組ませる緻密な采配。

捜査員からすれば、これほど心強いナビゲーターはいない。


「司令! 俺の合流ポイントは!?」


『豊洲駅前のロータリーよ。そこで待機してもらうように伝えてあるわ。服装と特徴は……』


司から「最強の助っ人」の詳細を受け取ると、虎太郎はアクセルを限界まで踏み込んだ。


大学に向かう辰川、豊洲へ走る虎太郎。

特務課の二人の刑事が、中山という悲劇の連鎖を断ち切るために、それぞれの戦場へと突入した。

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