表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第0話:警視庁特務課

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/29

警視庁特務課

警視庁庁舎の最奥、人目を避けるようにしてその『職場』は存在した。


『特務課』


重厚な扉を開けると、そこは警察署の喧騒とは無縁の別世界だ。

最新の通信設備が整然と並び、幾つものモニターが冷たい光を放つ指令室が広がっている。


「ただいまーっと」


まるで自分の部屋に帰ってきたかのように、虎太郎が野太い声を上げた。


「……お疲れ様。確保まで、予定より早かったわね」


二人を真っ先に迎えたのは、二十代半ばの女性だった。

隙のない制服姿、きっちりとまとめられた髪。

その佇まいからは、若さに似合わぬ峻厳しゅんげんたる意志が滲み出ている。



「お疲れっす、司さん」


特務指令課司令官、新堂司。

警視庁きっての才媛であり、未来の女性初・警視総監候補と目される彼女は、自らこの部署の設立を提案し、その座に就いた。



一課へ行けば最短距離で出世の階段を登れたはずの彼女が、あえて茨の道を選んだ理由。

それは、各課の間に存在する硬直した『壁』だった。


――もっと、連携が取れてさえいれば。


かつて司が手掛けた重要事件。

部署間の手柄争いや縄張り意識が邪魔をしたせいで、失われなくていい命が失われた。

その悔恨が、彼女を突き動かしている。


『各方面のエキスパートを集め、聖域なき捜査を行う』――。


司にとって、目先の階級より、目の前の悪を根絶することの方が遥かに価値があった。



「はいはい、お疲れ様……っと。司ちゃん、今度から追跡任務の時は、最初から最短ルートを教えておいてよ」



虎太郎から数歩遅れて、北条が肩を落としながら入室する。


「お疲れ様でした、北条さん。犯人の心理が読み切れ次第、随時お知らせするようにします」



司の武器は、冷徹なまでのプロファイリング。

臨床心理士をも凌駕する分析能力で、犯人の呼吸、声の震え、僅かな仕草からその内面を暴き出す。


「二人ともお疲れ様でした! かっこよかったですよ、連携!」


司の背後から声をかけたのは、線の細い美女、皆川志乃だ。

道路交通情報センターから引き抜かれた彼女は、情報の海から真実を釣り上げる天才である。

彼女の情報網に一度捕まれば、いかなる逃走経路も無意味な迷路と化す。



「お疲れさま。今回は確保のタイムレコード、更新しちゃったかもねぇ」


志乃の隣、モニターの明かりを浴びて飄々と笑うのは、浅川悠真。

司自らがスカウトしてきた男だが、元ハッカーであるということ以外、その経歴は一切謎に包まれている。



「あれ? 辰川さんは?」


虎太郎が、指令室のさらに奥へと視線を巡らせた。

特務課には、まだ『もう一人の怪物』がいるはずだ。


「あぁ……辰川さんなら今、奥の部屋よ。どうしても今回のレースは外せないんですって」


司が苦笑混じりに答えるのと、その『怒声』が響いたのは同時だった。


「くっそォォーー!! 馬の調整をしっかりやるのが調教師の仕事だろうが! 残り百メートルで失速しやがって、この……!」


部屋の奥から、地響きのような唸り声が漏れてくる。

虎太郎が呆れ顔で呟いた。


「辰川さん……曲がりなりにも勤務中だろ。ギャンブルとかやってる場合じゃ……」


「あちゃぁ。辰さん、またスッたね。くくく……」



北条が、必死に笑いを噛み殺しながら奥の部屋を見つめる。


「……ったく。今の日本の若者は、根性がなくていけねぇ。人も馬もな」


ほどなくして、紫煙を纏い、不機嫌を絵に描いたような顔で男が現れた。

口には、消えかけた煙草が一本。


「やぁやぁ辰さん。まーた負けたみたいだねぇ」


「なんだよ北条。勝ってもお前には絶対に奢らねぇからな!」


「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ……」



男の名は、辰川功。

定年を過ぎてなお、かつて「爆弾処理班のカリスマ」と畏怖された伝説のスペシャリストだ。

爆発物に関する知識は右に出る者がおらず、僅かな残留薬物から入手ルートや殺傷能力を瞬時に特定し、犯人の足取りを割り出す。

その手は、これまでに数えきれないほどの命を救ってきた。



「辰川さん。競馬はいいけど、指令室内は禁煙よ。守ってちょうだいって、何度も言っているわよね?」



北条と辰川の小競り合いに、司が冷ややかな笑みを浮かべて割って入った。


「おぉ、すまんすまん。どうしてもレース中は口が寂しくてな……」


「だから、ガムにしてって先日もお話ししたばかりでしょう?」


「がみがみ言うなよ。美人が台無しだぞ?  司ちゃんはスタイルだっていいんだから、もう少し淑やかにしてりゃあ、結婚相手だって……いてててて!!」


調子に乗って司の腰に回そうとした辰川の手を、彼女は電光石火の速さで捻り上げた。


「辰川さん。今の時代、そういう行動は即座に『排除』の対象になるの。あなたが生まれた昭和とは、もう違うのよ?」


にこやかに諭す司の瞳は、一分いちぶの隙もなく、そして一切笑っていなかった。


北条、虎太郎は現場の牙として。

司は、この組織を統べる核として。

志乃と悠真は、情報の海を泳ぐナビゲーターとして。

そして辰川は、死線を解体する匠として。


この六人。


それが、警視庁が解き放った異端の組織――『特務課』の全貌だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ