帰り道
「しっかし、北条さんは本当に体力がねぇなぁ。刑事なんだから、少しは鍛え直してくださいよ」
ホシを署に放り込んだ帰り道。
虎太郎が呆れたように、隣を歩く北条を横目で見た。
「あのねぇ、虎……。人間というのは、緩やかに、しかし確実に老いていく生き物なんだよ。いつまでも君みたいに、知性より先に筋肉を動かしていられるわけじゃない。君も今のうちに教養を身につけておかないと……」
「必要ねぇ。何歳になろうが、犯人を追い詰めて、叩き伏せて、捕まえる。俺のデカとしての生き方は、それだけだ」
「やれやれ。いつか君が警部や警視になって、部下を駒として操らなきゃならない時が来たらどうするんだい?」
「……北条さんだって警部なのに、現場で這いつくばってるじゃねぇか」
「僕は……ほら、署内のカーストから外れて、自由気ままに生きたいだけだよ」
特務課――新たに結成されたその組織で、二人がバディを組むようになってから数か月。
経験豊富な元捜査一課の「古強者」・北条と、元マル暴で信念剥き出しの「若獅子」・虎太郎。水と油のようだった二人の噛み合わせは、今や特務課の強力な武器となっていた。
猪突猛進する虎太郎を、北条が老獪な経験でカバーする。
体力の衰えた北条ができない力技を、虎太郎が腕一本でねじ伏せる。
それは、欠けたピースが重なるような、絶妙な均衡だった。
「あ、北条さん! お疲れ様です!」
署の廊下を歩けば、若手警察官たちが次々に足を止める。
「はいはい、おはよう。今日も元気で何よりだ」
「北条さーん! 今日は食堂行くんですか? 楽しみにしてたんですよ!」
「あぁ、ごめんねぇ。今日は奮発して買っちゃったんだ。特製牛めし」
「えー、残念! 次こそは一緒に食べましょうね!」
すれ違う誰もが、北条に親しげな笑顔を向けていく。
「北条さん……無駄に人望、あるよな」
「これこれ、虎太郎くん。『無駄に』が余計だよ」
「ま、『捜査一課の伝説』と呼ばれたバディの一人だ。人気があるのも、仕方ねぇか……」
「だから、『仕方ねぇ』も失礼でしょ。虎くん、君はもっと私のことをリスペクトしてもいいんだよ?」
直情的な虎太郎を、北条がのらりくらりとかわし、迷う虎太郎の背を北条が静かに押す。
かつての北条が築いたという『伝説のバディ』には、まだ届かないかもしれない。
だが、警視庁内では既に、彼らは「正反対の最強コンビ」として、静かにその名を轟かせ始めていた。




