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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第2話:燃え上がる想い

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聞き込み

「捜査の役に立つかどうかは分からないけれど……」


主婦たちの警戒を解き、その輪に加わることに成功した虎太郎は、次々と飛び出す街の噂話に耳を傾けた。


「へぇ……不審な男か」


「そうなのよ。最近、夜な夜なこの辺りをうろついてるらしいって。本当に怖いわよねぇ」


「誰か特定の家でも狙ってるのかしら。嫌になっちゃうわ」


井戸端会議で得られた最も具体的な情報は、「深夜に出没する不審者」というものだった。

だが、それも「誰かが言っていた」レベルの噂話に過ぎず、確証はない。


(うーん、主婦の噂話なんて、所詮こんなもんなのかな……)


参考程度に留めておこう。虎太郎がそう結論づけようとした、その時だった。


「いやぁ、さすがは情報通! 街の隅々までよく見てるねぇ」


「……北条さん?」


いつの間にか背後に立っていた北条に、虎太郎は肩を揺らした。

北条は人当たりの良い笑みを浮かべながら、主婦たち一人ひとりの反応を鋭く観察している。


「……あ、ついでにこんな話も聞きたいなぁ。今回被害に遭ったご家族の共通点、何かないかな? ――例えばさ、みんな同じ歯医者に通ってるとか、そういう些細なことでいいんだ」


「共通点……?」


北条の問いに、今度は虎太郎が目を丸くした。


(聞き込みって……あんな風に掘り下げていくのか……)


怪しい人物の有無だけを追っていた自分に対し、北条は事件の「核」となる繋がりを探っている。

これが、数多の修羅場を潜り抜けてきたベテランの経験値なのかと、虎太郎は舌を巻いた。


「あ、共通点……あるわね。みんな――」


「……あぁ、そういえばそうね!」


北条の投げかけた「餌」に、主婦たちが顔を見合わせて頷く。


「亡くなったあのお家も、その前のお家も……みんなお子さんが同じ幼稚園に通っていたわ。このすぐ先にある、あの幼稚園よ」


「もしかして、あの園が狙われてるのかしら?」


「でも、あんなに評判の良い幼稚園が、誰かに恨まれるようなトラブルなんて聞いたことないわよ?」


再び熱を帯び始める井戸端会議。

その喧騒をBGMに、北条が虎太郎の耳元で囁いた。


「……虎。次の目的地、決まったみたいだね」


北条の瞳の奥に、獲物を見定めた猟犬のような光が宿る。

二人の次の足先は、幸せの象徴であるはずの、その幼稚園へと向けられた。



「幼稚園も大変だろうな。この一ヶ月で三人も園児が亡くなったんじゃ、現場は地獄だぜ……」


主婦たちから聞き出した場所へ向かいながら、虎太郎が重々しく口を開いた。

この一ヶ月で発生した放火は六件。

そのうち三件で、幼い命が炎に焼き尽くされていた。


「ホント……何が楽しくて放火なんてするんだか」


手帳を見返し、虎太郎が深い溜息を吐く。


「そうだねぇ。まずは園に行って、被害に遭ったご家族の様子や、最近の周辺環境に変化がなかったか、詳しく聞いてみようか」


北条もまた、小さく息を漏らした。

感情を剥き出しにする虎太郎とは対照的に、その表情は凪いでいる。

だが、その静けさの底には、冷徹なまでの怒りが澱のように溜まっていた。 一刻も早く、この悪夢を終わらせる。

その一心で、二人は一分一秒を惜しんで捜査を継続していた。


「無線も有効に活用しよう。どんなに些細な違和感も見逃さないようにね」


北条が、無線のイヤホンを虎太郎へ手渡す。


「いけね、忘れてた。サンキュ」


「普通の刑事の捜査なら、足だけで稼ぐのも手だけどね。僕たちは特務課だ。各分野のスペシャリストの頭脳を使わない手はないよ。――志乃ちゃん、聞こえるかい? 例の不審者情報だ。火災発生時刻以外でも、周辺の防犯カメラを洗ってみてくれないかな」


北条が襟元のマイクに静かに語りかける。即座に耳の奥で、志乃の落ち着いた声が返ってきた。


『……その件ですが、既に三件ほどヒットしています。ただ、旧式のカメラで画像が荒く、現時点では性別すら判別不能です』


『だから今、僕がトリミングして解析に回してるよー。あと三十分待って。僕の自作ソフトで予測復元をかけるから』


司令室では悠真が軽快なキーボード音を響かせ、主婦たちの「噂」を「証拠」へと変える作業を既に始めていた。


「さすがだねぇ。ほら、見たかい? うちのメンバーは最高に優秀だよ」


「お、おう……。相変わらず仕事が早えな」


特務課の圧倒的な手際の良さに、虎太郎が改めて感心した、その時だった。


「お、あれが幼稚園だね。……休園になってなきゃいいけど」


北条が、前方に建つパステルカラーの可愛らしい建物を指さした。


「いかにも幼稚園って感じの建物だな。嫌でも目につきやがる……」


二人が近づくにつれ、フェンスの向こうから子供たちの無邪気なはしゃぎ声が風に乗って聞こえてくる。


「良かった。どうやら開園しているみたいだね」


「まぁな。犯人が園の関係者でもない限り、急に休園にする方が不自然だろうしな」


幸せな喧騒に包まれたその場所へ、二人の刑事は足を踏み入れた。

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