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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第2話:燃え上がる想い

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バディ、捜査開始

「……酷いねぇ、これは……」


現場に到着した北条が、無残に崩れ落ちた家の(むくろ)を見上げ、溜息混じりに呟いた。


「これで何件目だい……。もう、放火事件として疑う余地はないだろう?」


「あぁ。さっき捜査一課の稲取さんと香川に確認したが、火の不始末の線は薄い。家はオール電化。亡くなった両親は非喫煙者。配電盤やブレーカーにも故障や漏電特有の痕跡はなかったそうだ。何より、外壁の燃えカスから見て、火は家の『外側』から一気に燃え広がっている」


以前までの、身体能力に頼り切りだった虎太郎の姿はそこにはなかった。

前回の事件で司を危険に晒したという悔恨が、彼を「情報」に対しても貪欲にさせていた。


『もっと俺の頭が回っていれば、被害を最小限に食い止められたはずだ』――


その自責の念が、彼を刑事として一段上のステージへと押し上げていたのだ。


「うん、よく調べたね、虎。成長が眩しいよ」


「へへん。まぁ、これくらい朝飯前だろ」


「なら、これに付け足すとすれば……被害者は皆『幼児のいる家庭』である、ということかな?」


「え? あ……」


手元のメモを見返し、虎太郎が短く声を漏らした。


「おそらく犯人は、狙い澄まして家庭を選んでいる。法医の雪ちゃんに聞いたけど、どのご遺体も肺の熱傷具合からして、生きたまま炎に包まれた可能性が極めて高いそうだ。……惨いことをするよね」


北条が悲痛な面持ちで、焼け跡の周囲へ視線を巡らせる。

庭の隅には、まだ新しかったのであろう、綺麗に磨かれた三輪車が横たわっていた。

その傍らには、砂遊びの道具。


「閑静な住宅街で、慎ましく、けれど幸せに暮らしていたんだろうね。子供と遊んで、しつけに手を焼いて、泣いて笑って……。言葉を覚え始めたばかりの幼い子がいて、未来には希望しかなかったはずなのにさ」


寂しげに語る北条。

だが、その瞳の奥には、犯人への容赦ない怒りの炎が静かに灯っていた。


「虎、聞き込みを始めるよ。どんな些細な証言も漏らすな。これ以上、外道に『最高のドラマ』なんて見せてたまるか。必ず引きずり出して、己の罪と向き合わせてやろうじゃないか」



「……了解!! あ、俺、稲取さんにこれからの方針を報告してくるわ!」


「あぁ、そうしな。……って、虎、いつの間に稲取くんとそんなに仲良くなったんだい?」


「まあ、いろいろ相談に乗ってもらってるんだよ。あんたのこととかな!」


「僕のことぉ?」


北条が首を傾げるのを余所に、虎太郎は勢いよく走り去っていく。

その逞しい背中を見送りながら、北条はぽつりと独り言を漏らした。


「僕……結構、優しいバディを自負してるんだけどなぁ?」


閑静「だった」この住宅街。

かつて地元住民たちが「一等地」と呼び、羨望の眼差しを向けていたエリアだ。

ここに居を構えることは、一つのステータスであり、成功の証でもあった。


「しかし……どいつもこいつも、いい家ばっかりだな。俺の実家がここに混ざってたら、間違いなく浮いてるぜ」


立ち並ぶ瀟洒な家々を眺め、虎太郎は小さく溜息を吐いた。


「身体を張って、命がけで犯人を捕まえて……あと何年働けばこんな家が建つんだか。――おっと、仕事仕事」


高級感の漂う穏やかな街並みに、一瞬だけ憧れを抱きながらも、虎太郎はすぐに意識を切り替える。


「ま、俺には俺の身の丈ってやつがある。今の生活に不満なんてねぇしな」


彼は一軒ずつ住宅を確認しながら、不審な痕跡がないか、植え込みに可燃物が隠されていないかを入念にチェックしていく。


「……特に、これといった収穫はなしか」


放火犯がそこまで迂闊なはずはないか。

そう諦めて引き返そうとした、その時だった。

住宅街の一角で、数人の女性たちが深刻な面持ちで集まっているのが目に入った。

この近隣に住む主婦たちだろう。


「ちっす。……あー、ちょっといいかな?」


虎太郎が歩み寄り声をかけると、主婦たちは一様に怪訝な表情を浮かべた。

その瞳には、得体の知れない大男に対する警戒心が露骨に表れている。


「あ……いや、怪しいもんじゃない。俺、警察のもんだ。最近この辺で続いてる火事について、少し話を聞かせてもらえないかと思ってさ」


「警察の……方?」


虎太郎が差し出した警察手帳をまじまじと見つめ、主婦たちはようやく少しだけ肩の力を抜いた。


「毎晩のようにこの近辺で火事が起きちゃ、皆さんも生きた心地がしないだろ。俺たちも、一刻も早くホシを挙げるために必死に動いてるんだ。何か些細なことでもいい。知ってること、気になったことがあったら教えてくれないか?」


不器用ながらも、真っ直ぐに協力を求める虎太郎。

その飾らない言葉と、被害者を案じる熱意。

それが伝わったのか、主婦たちの頑なな空気が、少しずつ解け始めた。

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