事件解決、その後……
事件は解決した。
だが、被害者遺族たちの止まった時間が、再び動き出すわけではない。
「……やるせないねぇ」
被害者の身元を特定し、その家族へ事の顛末を報告するのも警察の重要な、そして最も過酷な職務の一つだ。
行方不明者届を出したまま、愛する人の帰宅を信じて待ち続けていた家族たちにとって、その結末はあまりに無慈悲なものだった。
「……全くだ。事件を解決しても、死んだ人は生き返らねぇ。犯人を捕まえりゃ、警察の仕事はそれで終わりだ。あいつは罪を償えば、いつかまた社会に戻ってくる。……どう考えたって、理不尽だよ」
虎太郎が、拳を握りしめながら悔しげに吐き捨てる。
その青臭いほどの正義感。
北条は、かつての部下たちが見せたのと同じ表情を、何度も見てきた。
『北条さん……あんな奴がまたのうのうと社会に出るなんて、納得できませんよ!』
『なんで、あいつが生きてて、被害者さんが死ななきゃならなかったんですか……』
『あいつが代わりに、死ねばよかったのに……!』
幾度となく投げかけられた、答えのない問い。
かつての自分も、その暗い情念の渦に身を焼かれたことがある。
それでも、北条は口を開いた。
「……犯人が逮捕されたことで、この先、同じ悲しみを背負う人がいなくなる。ずっと、暗く冷たい場所に置き去りにされていた被害者さんたちも、ようやくお家に帰れるんだ。……ほんの少しでも、それが遺族の方々の救いになればと、僕は願うよ」
悲しげな笑みを浮かべながら、それでも北条は虎太郎にそう語りかけた。
そう言ってやるしか、今の彼には出来なかったのだ。
「……そう、だな。そうだよな」
北条の言葉の裏にある、重苦しい諦念と祈りを察したのだろう。
虎太郎はそれ以上の怒りを口にはしなかった。
美しさを求めた男による、卑劣な犯行。
たった一人の歪んだ執念が生み出した悲劇は、一つの区切りを迎えた。
しかし、残された者たちの心に刻まれた爪痕が、癒える日は来ない。
「後味……悪いな」
「うん。だからこそ、僕たちは真剣に、必死に捜査を続けなきゃならないんだ。それしかできないけれど、それが僕たちに許された唯一のことだからね……」
また一人、目の前で遺族が崩れ落ちた。
これで何度目に見る涙だろうか。
我が子の、あるいは伴侶の遺骨を抱え、絶望の中で小さく丸まってしまった遺族の背中。
それを遠巻きに眺めながら、北条と虎太郎は並んで立ち、声にならない声を噛み締めていた。
夜は、まだ明けない。
だが、彼らはまた明日も、この暗闇の中で「誰か」を救うために走り続けるのだ。




