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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第9話:記憶の彼方に

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思惑

「こりゃぁ……まずいぞ……」


北条との通話を繋ぎっぱなしにし、静かに、しかし鮮明に送り込まれてくる「死の宣告」を聞いていた稲取の顔が、土気色に染まる。


「おい、一課全員動け! 近場の派出所、交番、消防も全部引っ張り出せ! 湾岸ビル周辺の建造物にいる人間を、一刻も早く全員退避させるぞ!!」


稲取の咆哮が現場を震わせる。


「了解!!」


洗練されたエリート集団である捜査一課が、一糸乱れぬ動きで散っていく。

ある者は怒号を上げて避難誘導に走り、ある者は無線にかじりついて全部署、消防署、救急車を呼び寄せる。


「とは言え、呼んですぐに来るもんじゃねぇ……。もう少しだけ粘ってくれよ、北条さん。頼むから……自分たちが逃げる隙を作ることを忘れないでくれよ!」


稲取がビルの外壁を凝視する。

まだ、外見上の異変はない。

だが、一階入口のガラス越しには、数名の人影が揺れているのが見えた。


「あれが……北条さんと灰島、それに犯人グループだな……」


今すぐにでも突入し、全員を外へ引きずり出したい。

だが、その一歩が引き金を引くことになる。

捜査一課のエースたちの命と、周辺住民の安全。

その天秤が、稲取の肩を重く沈ませた。


『家族が殺されて、自棄になる気持ちも分かるよ!』


その時、スマホのスピーカーから北条の切迫した声が漏れた。


「……家族が殺された……?」


稲取の背中に冷たい汗が流れる。

ビルの中に潜んでいた「悪意」の深さが、想像を絶するものであることを悟った。

銃声一つ立てずに、遠隔地で家族を始末する。

それはもはや抗争のレベルではない。


「くそ……やり取りが出来ないってのが、ここまで不便とはな! 一方通行の地獄だぜ……」


もどかしさに舌打ちをする稲取のもとへ、荒々しい足音が近づいてきた。


「稲取! 状況はどうだ!?」


捜査四課の熊田と、その後ろを必死についてくる司が到着した。


「中にはまだ北条さんと灰島が取り残されている。犯人の一人が爆弾を持っていて、ビルごと吹き飛ばす構えだ。周辺の避難誘導には取り掛かっているが……。そっちは?」


「おう、鬼神会が周辺に展開しているという情報自体が、巧妙に仕組まれたデマだった。あいつら、本部でのんびり茶をすすってやがったよ」


「……嵌められたな。一課も、四課も」


二人の猛者が顔を見合わせる。

この場に「精鋭」を集めること自体が、何者かの目的だったのだ。


「俺と新堂以外の四課員も、全員避難誘導に回らせる。人命優先だ」


熊田が速やかに部下たちを散開させる。


「あの、私は……?」


司が不安げに熊田を仰ぎ見る。

四課員として動くべきか、それとも恋人のもとへ駆け寄るべきか。

その葛藤を見透かしたように、熊田は鼻を鳴らした。


「お前は……そうだな、俺の『助手』だ」


「……助手、ですか?」


「ああ。俺がぶちギレて一人で突入しちまわないように、横で見張っておく係だ。いいな?」


あまりにも不器用で、出鱈目な理由。

だが、そこには「大切な男の最期になるかもしれない声を、そばで聞いていろ」という、熊田なりの不器用な優しさが込められていた。


司は、震える手で自分のスマホを握りしめ、ただ一点――灰島と北条がいるはずの、あの暗いビルを見つめ続けた。

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