捜査四課
「駄目です……ビル周辺、近隣施設のどこにも、鬼神会構成員の姿は確認できません……。」
一方、ビル周辺を封鎖している捜査四課――通称「マル暴」の精鋭たちは、関東最大の組織・鬼神会の足取りを完全に見失っていた。
「どういうことだ……。情報筋は確かだったはずだ。本庁上層部からの指示なんだからな!」
四課長・熊田が苛立ちを隠さず、太い指で頭を掻く。
現に、ビルには麻薬密売に関わった連中が立て籠もっており、その人数も報告通りの8人だ。
「これほど正確な情報を流しておいて、鬼神会の動向だけが誤報? んなわけあるかよ……」
「課長、私……ある仮説があります」
混乱する現場で、新堂司だけが冷徹なまでの冷静さを保っていた。
「もしかしたら、鬼神会は最初から『動いていない』のでは」
「なんだと? じゃあ俺たちは、ガセネタを掴まされたってのか?」
「いいえ。ビル内にいる犯人たちの情報が正確である以上、100%の嘘とは考えにくいです。だとしたら……情報の『一部』だけが、意図的に歪められたと考えるべきです」
司の脳内で、バラバラだったピースが急速に形を成していく。
犯人たちが鬼神会の構成員であるなら、「鬼神会」という名前はもっとも強力な「カード」になるはずだ。
「鬼神会の名前を出すことで生じる、我々の大きな動き……。……そうか、そういうこと……!」
「どうした、新堂?」
司は、この事件の裏に隠された、あまりにも周到な「台本」に気づいた。
「まず、ビル内の8名の素性を隠し、単なる密売組織とすることで、四課ではなく『捜査一課』を現場に急行させる」
「ああ、確かに。一課が先に着いてたな」
「次に、後追いで『鬼神会』の名を出す。そうすることで、四課である私たちが後から動かされる」
「そりゃ、俺たちが出ていかないわけにゃいかねぇよ。マル暴なんだから……あ。」
熊田も、自分たちの動きが誰かに「管理」されていたことに気づき、戦慄した。
「一課と四課、両方を現場に引きずり出した。でも、一体何のために……?」
その時、熊田の携帯電話が震えた。稲取からの着信だった。
「こちら四課。……稲取か。何かあったか?――――了解だ……。だが、何で電話なんだよ。無線で話せばいいだろ』
『……分からないよ。北条さんに「無線を使うな、電話で話せ」と厳命されたんだから』
電話越しの稲取も不満げだった。
だが、それを聞いた司の表情が、一気に強張った。
「課長、電話を替わってください……! 北条さんが無線を禁じたのは、警察内部に『筒抜け』だからです! 無線を使えば、私たちの動きはすべて黒幕に知られる!」
司の叫び声が、冷え切った湾岸の空気に響いた。




