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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第8話:東京の最も長い1日

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回想

こうして、長かった都庁ジャック事件は幕を閉じようとしていた。


「大山さん、あなたの気持ちはよくわかる。悔しかったでしょう。さぞかし無念だったはずだ。でもね……あなたのしたことは、決して許されることじゃない。復讐というのはね、達成したところで誰も喜ばないんだ。そこには、悲しみと後悔しか残らない。それを……忘れないでほしい。」


二日後。

都庁で人質となっていた青年三人を襲撃した、大山新の取り調べが北条によって行われた。

現行犯で逮捕された大山は、一切の否認をせず、静かに北条の言葉に耳を傾けていた。

幸い、被害に遭った青年の傷は浅く、大山自身も深く反省している。

法の下での裁きは、情状酌量の余地が大きく認められるはずだった。


「はい……馬鹿なことをしました。復讐をしたところで、みさきが喜んでくれるとは到底思えない……」


「うん。」


「でも……どうしても、あの日のみさきの笑顔が忘れられないんです。『お父さん、今日はお腹、空かせておいてね』って……笑って家を出ていった、あの時の笑顔が……」


大山の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。


「忘れなくていいと思うよ。あなたにはそんな優しい、笑顔の素敵な娘がいた。それを忘れてしまったら……それこそみさきさんが可哀想だ。でもね、大山さん。悲しいことばかりを覚えていてはダメだ。みさきさんのためにも……楽しかったこと、嬉しかったこと、そして彼女が生まれてきた時の喜びを、大切に胸にしまっておくんだよ。」


「はい……。はい……!」


北条の取り調べは、もはや尋問ではなく、一人の人間としての対話だった。

罪を認め、娘を奪われた絶望の中にいる父親を、これ以上追い詰める必要はない。

それが北条の出した結論だった。


「じゃあ、行ってらっしゃい。少し経って出てきたら……思い出を大切に生きるんだよ。」


「はい。ありがとうございました。本当に……」


連行される大山の表情は、逮捕時とは異なり、憑き物が落ちたように晴れやかだった。


「お疲れ様でした、北条さん。」


取調室の外で待っていたのは、司だった。


「うん……なんともやるせないね、今回の事件は。首謀者は口封じに殺され、人質は卑劣な暴行魔で、娘を奪われた父親が加害者として逮捕される……。悔しいけれど、誰も救えなかったという思いが強いよ。」


「ええ……。ですが、都庁爆破という最悪の事態は防げた。それは紛れもない事実です。」


「……そうだね。」


特務課司令室までの短い廊下を、二人はゆっくりと歩く。

北条の足取りは、事件の重みを引きずるように少しだけ重かった。


だが、司令室の入り口で、一人の少年が声を荒らげた。


「北条さん、司令! ヘリの中にいた男の顔が、ようやく映ったよ!」


画像の解析を死に物狂いで続けていた、悠真だった。


「本当かい!?」


「すぐにみんなを集めましょう。あさみ、虎太郎くん、辰川さんも!」


北条と司の顔に、瞬時にプロの緊張感が戻る。

事件は終わったのではない。

あのヘリに座っていた「漆黒の男」こそが、すべての悲劇の元凶へと続く道標なのだ。


二人は顔を見合わせると、まだ見ぬ強大な敵と対峙するため、司令室の重い扉を押し開いた。



司の呼び掛けで、全員が息を呑んで見つめる特務課司令室。


「飛び去るヘリの動線上にあるカメラの映像を手当たり次第に集めて解析したよ。その結果、鮮明じゃないけど、狙撃手と一緒にヘリに乗っていた男の姿を捉えることができた」


悠真が自慢げに、しかしどこか緊張を含んだ面持ちで告げる。


「それで、画像は?」


「うん、いくつかあるけど、些細なことでも手がかりになるかもしれないから、全部出すね」


悠真がキーを叩くと、司令室のメインモニター一面に、無数の映像と静止画がタイル状に展開された。


「これはまた、よくこれだけ集めたねぇ……」


「すごいわ、悠真……」


メンバーたちが感嘆の声を漏らし、それぞれのモニターに映し出されたノイズ混じりの「影」を注視し、手がかりを貪欲に探していく。


「……嘘……」


静寂を切り裂いたのは、司の震える声だった。

彼女は真っ青な顔で、モニターの端にある一つの映像を凝視していた。


「……司ちゃん?」


その異変に真っ先に気づいた北条が、静かに彼女の隣に立つ。


「何か、見つかったのかい?」


北条は極力、他のメンバーの視線を集めないよう、低く穏やかな声で尋ねた。だが、司の瞳に宿る動揺は隠しきれなかった。


「北条さん……」


司は一度だけ北条の顔を仰ぎ見ると、掠れた声で答えた。


「あの、一番左上の映像に……」


「一番左上……あれかな?」


映像はループ設定されており、リピートされるたびに荒い画質の「男」が繰り返し映し出される。

北条は、司が指し示したその一点のみに神経を集中させた。


「…………あ。」


そして、北条の時も止まった。


「……どうして、『彼』が……」


「ええ。彼は『あの時』、私たちの目の前で亡くなったはず……」


二人の間に流れる空気は、もはや困惑を通り越し、忌まわしい過去に引き戻されたかのような重苦しさに支配されていた。


「ん? どうした司令。北条さんも、なに二人でこの世の終わりみたいな顔してんだよ」


虎太郎が怪訝そうに二人を覗き込む。

凍りついたように動かない司に代わり、北条が力なく、しかし確かな拒絶を含んだ苦笑いを浮かべて答えた。


「まさか、ここでも『8年前の事件』が絡んでくるとはね……。恐らくだけど、狙撃手と一緒にヘリに乗っていた人物は……8年前の事件で亡くなったとされる、犠牲者の一人だよ」


メンバーたちの視線が、一斉に北条へと集中する。


「正確には、香川くんのお母さんの事件と同時刻に起こった事件だ。二つの事件は別々の場所で起こったけれど、奇しくも深い場所で繋がってしまったんだよ」


「言っている意味が、分からねぇよ……。死んだ人間がヘリに乗ってるってのか?」


虎太郎が苛立ち混じりに問いかける。

当事者以外、誰にも把握できない事件の断片。


「必要なことだから、これから話すよ。当時の……8年前のことを。いいね、司ちゃん?」


北条が決意を秘めた瞳で問いかけると、司は祈るように小さく頷いた。


「時は、8年前。……すべては、あの日から始まったんだよ……」


窓の外では夜が明け、冬の澄んだ光が差し込み始めていた。

だが特務課を包む空気は、これから語られる「死者の真実」を前に、より深く、暗い闇へと沈んでいった。

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