予感
「マジかよ……」
貸倉庫業者の社長から提供された顧客リスト。
そこに記された「ある名前」を目にした瞬間、虎太郎は言葉を失った。
「北条さん……あんた、いつからこのことに気づいてたんだよ」
「え? まあ……さっき、かな?」
「……嘘つけ」
北条は資料を一瞥すると、「やっぱりね」と小さく呟き、それを虎太郎に押し付けた。
その仕草は、答え合わせを済ませた解答用紙を放り出すかのように、迷いがなかった。
「くくっ。虎、僕の予想通りの反応をしてくれるねぇ」
「あんた……一体どれだけ先を読んでやがるんだ」
のほほんと笑う北条の隣で、虎太郎は得体の知れない鳥肌が立つのを抑えられなかった。
「それで……司令には、なんて伝えたんだ? ここまで分かってるなら、もう逮捕できるだろ」
「犯人逮捕の、一番大切なところを頼んだのさ。……いいかい虎、まだ僕の推理は『仮説』だ。物理的な証拠が何一つ挙がっていない。だから、司ちゃんにはその『決定的な証拠』を見届けてほしいと頼んだんだ。……でもね」
北条の表情から、一気に温度が消えた。
「それは同時に、司ちゃんに最大の危険が降りかかるということでもある。だから……」
北条が、虎太郎の肩を強く叩く。
「その時が来たら、虎。君の力を当てにさせてもらう。君の野性の直感、そして鍛え上げられた身体能力が必要になる時が、必ず来る。……いいな、必ずだぞ」
「お……おぅ……!」
北条の瞳に宿る真剣な光に、虎太郎の胸が熱く昂る。
単なるお荷物ではなく、一人の「捜査官」として、このレジェンドが自分を必要としている。
その時、静寂を切り裂くように北条の携帯が鳴り響いた。
「もしもし、司ちゃん?」
『お疲れ様です。……今夜、接触します。獲物が動きました』
「おぉ、さすがだね。場所はどこだい?」
『はい。とりあえず都内のレスト……っ!?』
受話器の向こうで、司の短い悲鳴が上がった。
「司ちゃん!? ……司ちゃん!」
『…………ッ』
ガチャン、という硬質な衝撃音の後、通話は無機質な切断音へと変わった。 みるみるうちに、北条の顔から血の気が引いていく。
「……やられた」
「え……?」
北条がこれまで一度も見せたことのない、剥き出しの焦燥。
虎太郎は心臓が跳ね上がるのを感じた。
「犯人が接触した。……いや、捕まったんだ。早く見つけないと、司ちゃんが殺される……!!」
「なんだと……!?」
北条はすぐさま司令室へと指を走らせた。
「志乃ちゃん! 司ちゃんの携帯のGPSを追って! 消失地点周辺の防犯カメラを片っ端からチェックするんだ。……司ちゃんが、犯人に拉致された」
『……司令が? 了解。すぐに悠真くんとリンクします。周辺情報を全力で洗います!』
志乃の返答は、驚愕を押し殺した冷静なものだった。
特務課の全員が、今、一つの命を救うためにギアを最大まで上げた。
「さあ……地獄の果てまで追いかけるよ、虎ぁ!」
「……了解!!」
二人は弾かれたように、夜の街へと飛び出した。




