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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第8話:東京の最も長い1日

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北条の怒り

「……ふん、なるほどね」


北条は物陰で小さく、だが確信に満ちた笑みを漏らした。

仲間に武器の手入れを任せ、自らの負担を減らそうとした犯人たちの油断。それが致命的な隙となる。


(司ちゃん、君の仕込みは完璧だよ。あの5人が潜入捜査官なら、今この瞬間に敵の戦力は無力化されたも同然だ……)


北条の頭の中で勝利の方程式が瞬時に組み上がる。

そのとき、静寂を切り裂くようにあさみの無線が飛び込んできた。


『合図が来た! 出入り口と窓、計5ヶ所から煙幕! 侵入経路を確保したわ!』


志乃が間髪入れずに通信を全部署へ同期させる。

司の凛とした号令が、都庁を包囲する全捜査員に響き渡った。


「突入班、総員突入! 人質の避難誘導と、犯人グループの制圧を同時に開始して!」


その合図で、都庁周辺の熱気は爆発的に高まった。

稲取率いる一課が人質の救助へ、古橋のSITが制圧へと雪崩れ込む。

あさみが外壁を駆け、辰川が爆発物の解除へと動く。


この怒涛の反撃は、すぐに内部のFへと突きつけられた。


「……何事ですか! なぜ警察が侵入できている!」


「見張っていた出入り口から次々と……!」


「馬鹿な、応戦しろ! 武器はどうした!」


「それが……補充のために、さっきの5人に渡したまま……」


Fの表情が、見る間に青ざめていく。


「くっ……同志の中にスパイを紛れ込ませていたというのですか。ふざけた真似を……!」


「どの口が言ってるのか……」


苛立ちを露わにするFのもとへ、北条が悠然とした足取りで歩み寄る。


「あ……貴方は。まぁ、大人しくしているとは思っていませんでしたが」


Fは一瞬驚きを見せたが、すぐに歪んだ優越感を取り戻し、両手を広げて見せた。


「よくもまぁ、こんな『ふざけた真似』をしてくれたものだね。一度ミスをした立て籠もり事件で、また同じ失敗を繰り返すなんて」


「……あの時の私はまだ未熟だった。完全に『あの方』のシナリオ頼りでしたから。ですが、今は違う。この都庁ジャックは、私が描き、実行した最高傑作だ。……どうです? 壮大な景色でしょう?」


崩壊が始まっていることすら美学にすり替えようとするF。

その瞳には、狂信的なプライドが宿っていた。


「……三文芝居を堂々と披露して、笑わせてくれるねぇ。」


北条は表情一つ動かさず、冷徹に言い放つ。

その声には、凍てつくような殺意すら混じっていた。


「なんだと……?」


「何度でも言ってやるよ。君のシナリオなど、壮大な歌劇には遠く及ばない。人の人生を壊し、踏みにじり、信じた者たちの思いを砕く……下衆が書いた、下手な落書き帳レベルだ。馬鹿馬鹿しいと言っているんだよ」


北条の口から漏れる、かつてないほど鋭い言葉の刃。

Fの余裕は剥ぎ取られ、その端正な顔が怒りで赤黒く染まっていく。


「なぁ、北条さんって……あんなキツいこと言う人だったっけ……」


「私も、あんな声は初めて聞いたわ……」


「俺も長いが、あんなに感情をむき出しにするあいつは見たことがねぇ……」


無線越しに聞く虎太郎、あさみ、辰川の三人も、北条の変貌に戦慄していた。


(あの時……桜川を逮捕した時と同じね。北条さんは、普段それほど感情を表に出さない。でも……本来の彼は、特務課の誰よりも、いいえ、警視庁のどの刑事よりも熱い心を持っている……!)


司令室でモニターを注視する司だけは、その激昂の正体を理解していた。


北条が一歩、また一歩とFに迫る。

その圧倒的なプレッシャーに、あろうことか「主導者」であるはずのFがたじろぎ、後退りした。


「さぁ……もう終わりだ。くだらない劇は、この辺で幕を引かせてもらうことにするよ。君はもう……」


北条の手が、流麗な動作で懐のホルスターへと伸びる。


「……チェックメイトだ」


引き抜かれた拳銃が、寸分の狂いもなくFの眉間を捉えた。

銃口の奥の黒い闇が、Fの死を予感させる。


「う、くぅぅ……」


Fの膝が、小刻みに震え始める。


「おかしな真似はしない方がいい。僕は『ちゃんとやれば』射撃は上手いんだ。それに、もうすぐここは完全に制圧される。今更人質をどうこうできる状況でもない。何より……いかに君が訓練した仲間を揃えようと、こちらにもいるんだよ。『死ぬほど訓練を積んだ仲間たち』がね」


欠片も容赦しない北条の瞳。

Fは、自分が描いた「劇場」の主人公ではなく、ただ追い詰められた「ネズミ」に過ぎないことを思い知らされる。


「く……くそぅ……! なぜお前はいつも、いつも私の邪魔をするんだ……!」


沸き上がる憎悪と殺意。

だが、この男に引き金を引かせる勇気すら、今のFには残されていなかった。


「……ッ!」


気が付くと、Fは無様に背を向け、走り出していた。

制御室を奪還されたため、エレベーターは死んでいる。

Fは非常階段を使い、酸素の薄い上層階へと、必死に、惨めに逃げ上がっていく。


「はぁ、はぁ……!」


階下からは、仲間たちが制圧され、手錠をかけられる怒号が聞こえる。

同時に、沸き起こる大歓声。

それは、人質たちが地獄から解放された喜びの産声だった。


「こんな……こんなはずでは……!!」


Fの腸は、屈辱と敗北感で煮えくり返っていた。

完璧なはずの最高傑作が、たった一人の刑事によってゴミ溜めに叩き落とされたのだ。

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