司の決意
「……分かりました。でも、私にその大役が務まるかどうか……」
北条からの電話を受けた司令室で、司は僅かに声を震わせた。
引き受ける決意は固めたが、選ばれた『条件』があまりに特殊だった。
「大丈夫だよ、司ちゃん。君が一番の適任だと思ったからお願いするんだ。僕の目に狂いはないよ」
「ですが……『絶世の美女』だなんて、私には荷が重すぎます」
「まぁ、犯人のお眼鏡にかなわなければ、それはそれでいいさ。司ちゃんの身の安全が保障されるってことだしね」
「しかし、それでは犯人を逮捕できない……。私で事足りるのなら、それが一番ですけれど」
完全な『快諾』とはいかないまでも、司は犯人を引きずり出すための「毒」になることを選んだ。
「なぁ、司令に何をお願いしたんだよ」
通話を切った北条に、虎太郎が堪り兼ねたように訊ねる。
「あぁ……犯人逮捕のために一肌脱いでもらおうと思ってね。おぉ、あの司ちゃんが一肌脱ぐなんて、なんだか色気を感じるねぇ」
「ふざけるな。本当にそれで犯人が捕まるのか?」
のらりくらりと躱す北条に、虎太郎が厳しく釘を刺す。
「虎、君も司ちゃんは美人だと思うだろう?」
「え? ……あぁ、まぁ。日本人離れした、整った顔立ちだとは思うけどよ」
「そうだろう? まるで劇画から抜け出してきたような完成された美貌だ。……それが、ここから先に踏み込むために絶対に必要な『鍵』なのさ。僕たちのような野郎二人じゃ、逆立ちしたって犯人のテリトリーには辿り着けない」
北条の視線は、既に事件の結末を捉えているようだった。
「さて、行くよ虎。裏付け作業だ。貸倉庫の業者へ向かう。司ちゃんには、これからもう一度、被害者の周辺を『目立つように』回ってもらうからね」
「……了解」
虎太郎は、黙って北条の後を追った。
悔しいが、この男の捜査能力は自分とは比較にならない。
何枚も、何十枚も上手だ。
(この人の捜査から、全部盗んでやる。刑事としてのノウハウも、その執念も。……そして、俺もいつか伝説になってやる!)
一課を追われたロートルだと思っていたのは、自分の浅はかさだった。
北条という男は、特務課という新しい組織の「核」として、必要不可欠だからこそここにいるのだ。
「ほらぁ、急ぐよ虎ぁ!」
ずっと先の方で、北条がひらひらと手招きをしている。
「……ああ、今行くよ! クソ、待ってろよおっさん!」
虎太郎は、迷いを振り切るように北条の背中を目指して駆け出した。




