石ころ
私はある石にどうにも惹かれてしまったのである。どこにでもあるような、少々不格好な、普遍的な石ころである。ただ、どこか、妙に興味を唆られてしまっていた。
普遍的というのはどうにも抽象的で曖昧な表現であると痛感する。手のひらには小さく収まるが目視するには少し大きい。表面に特別光沢もなく、ただ肌触りは良く感じる。つまり、どうにもこうにも言い尽くしがたいただの河原の石ころである。ただふと、そこらにありふれた一つの石ころという称号こそがこの石の特異点であり普遍性であるのだと、私は思った。
特に理由もあったわけではない。久々に散歩でもしようかと錆びた鉛のように重い腰をあげ、とある河川敷へと出向いたのである。散歩というのは清々しいものであった。仕事や人間関係、将来への焦燥など、人間の信念に酷くこべりついた不安が少しずつ剥がれていくように感じた。なにか普段の日常に不満を抱いていたわけでもない。ただ謎の焦燥感に駆られて日々に急かされるように働いていたのであった。
石ころを拾い上げ、手のひらで転がす。冷たく感じた表面には2つの黒い斑点があることに気がついた。
あぁそうか。なにも深く特徴のない、普遍性の象徴とも捉えていたこの石ころにも生涯がある。
私の焦燥感とは何だったのだろう。
「なにかに特別にならなくてはいけない」という潜在的な意識に動かされていたのかもしれない。
石ころを私のポケットへ入れ、持ち帰った。
ただ、家に着く頃には石ころの黒い斑点は消えてしまっていた。




