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──仲秋・コガレ───
夜は長く、月は澄んでいた。
風に揺れる穂が、白い波のように広がる。
その中で、僕は声を重ねる。
澄んだ響きは闇に溶け、君の耳に届くはずだった。
「きれいな音ね」
君が微笑んだ瞬間、胸の奥に熱が走る。
この心を掴むのは僕だ。
誰よりも澄んで、誰よりも深い声で。
遠くで、他の声も重なっていた。
互いに夜を競い合うように。
だが僕には分かっている。
君の瞳が追っているのは、この響きだけだ。
ススキが揺れる。
白銀の波が、月を映して煌めく。
その穂先に恋を託すように、僕は鳴き続ける。
──やがて人は知るだろう。
秋の夜長に澄んだ音を響かせるのは、鈴虫だと。
けれど僕にとってはただひとつ、
君の心を射止めるための恋の炎だった。