──初夏・コイ───
今日も歌う。
「歌上手いね、君」
その一言が、僕を燃やした。
誰にも言われない、聞かれる事が無かったこのウタを褒められた。
だから決めたんだ。毎日ウタおう、と。
この場所で毎日。
一声ごとに胸の奥の炎が削れていく。
けれど構わない。
君に届くなら、それでいい。
思えばこの時からアナタに、コイをして居たのかもしれない。
コイは命を削るとは言われて居たけれど…
それでも聞いて欲しかった。
今日も明日もウタを。
けれどそれは突然終わった。
何時もの場所に来て今日もウタう。
でも途中でアナタは地面へと落ちた。
翅がアスファルトを叩く音が最後の拍のように響き、
それきりキミは動かなかった。
命の尽きる姿を目の当たりにした。
なんで?アナタが?
まさか…恋をして居たのか?
恋をしたら命が削れてしまうと言うのに。
……あぁ、そうか。アナタは恋をしたのか。
ここで、この場所で。
僕の声に。
僕という命に。
その瞬間、僕は鳴いた。
その鳴き声は大きく響き渡った。
空を裂くように、ただ君に届けと。
そして僕も静かに翅を閉じる。
ゆっくりとアスファルトへと背を預けた。
もう、何も聞こえない。
灼ける太陽の下で、二匹の影だけが重なっていた。
今日と言う日は 二度とやってこない。