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45歳、静かな観察者は商店街を救う――地域再生コンサルタント拓実の逆転劇  作者: 乾為天女


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第24話_薫、実務を越える

 再開発関連会議の帰り道。日向坂市の市役所前、夏の夕暮れに染まる空の下で、薫は拓実と歩いていた。

  「……つまり、相手の弱点を突けってことですか?」

  「突け、じゃない。気づいてもらうんだよ、“穴”があると。指摘じゃなくて、提示する。君ならできるだろ、実務家だからな」

  拓実はポケットからメモを一枚取り出した。そこには〈リゾート企業・運営スキーム〉と書かれ、矢印と図形が複雑に交差していた。

  「これが、あの外資の基本オペレーションか……」

  薫はすぐにメモを覗き込んだ。食い入るような視線に、拓実も黙る。

  「中央指令型ですね。決裁が遅くて、現場裁量が小さい。現地に融通が利かない構造」

  「……見抜いたか」

  「これ、地元連携を仮装してるけど、中身は全部“直営型”です。つまり……外注化・地元活用のように見せかけて、実際は“現地消費型の観光モデル”」

  「よく分かったな」

  薫は小さく鼻を鳴らした。

  「会計資料に全部書いてあります。“固定費の圧縮”と“ブランド統一”。でもそれ、ローカル経済を弱体化させるリスクが高い」

  その場でスマートフォンを取り出し、指先で何枚かの資料をスクロールさせた。

  「リゾートの外注先候補企業、過去3件とも、2年以内に現地事業をたたんで撤退しています。撤退理由は“採算性不足”と“風土の違い”……本当は、本社判断での戦略撤退でしょう」

  拓実は満足げに頷いた。

  「つまり“持たない経営”を現地に押し付けてるだけか」

  「ならこちらも、“持つ地元”の強みを見せるべきです」

  薫の瞳はまっすぐだった。

  その翌日、薫はリゾート企業の説明会に出席した。現地事業責任者が壇上に立ち、流暢な日本語で“地域との共生”を強調していた。

  「……当社は、地元の文化と伝統を尊重し、永続的なパートナーシップを――」

  「具体的には、どういった連携計画ですか?」

  薫の声が、場の空気を切った。

  「えっ?」

  「具体的な数値と計画スケジュールをお願いします。協業範囲、地元企業への支払い条件、契約の持続可能性。一般論は不要です」

  責任者の笑顔が、わずかに引きつった。

  「い、いえ、まだ検討中で……」

  「検討中、では“共生”とは言えません。自治体はリゾート様に優遇措置を出そうとしています。それに見合う“義務”の明示が必要です」

  会場はざわめき、傍聴席から拍手が漏れた。

  終了後、控室に戻った薫は、アルトのぬいぐるみのような実物を膝に抱えながら、静かに笑った。

  「……ちょっと言い過ぎたかな」

  「いや、言うべきことを言った。お前は、もう“実務家”を超えてる」

  拓実の声が後ろから響いた。

  「やるべきことは、誰よりも分かってるんだな、君は」

  「ううん、分かってるから怖い。でも、私、逃げませんよ」

  アルトが「もふぅ」と短く鳴いて、薫の膝で体を丸めた。

  「この子たちの町、守らないとね」

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