第20話_嵐のち、歓声
午前四時。風の音で目を覚ました拓実は、寝床代わりの仮設本部テントから外へ出た。空は灰色。雲の流れは早く、頬に触れる風が冷たい。
「……判断のときか」
すでに会場には、えま、薫、咲、遼平、海翔、ヘイデン、イマニ、皆が集まっていた。重苦しい沈黙を破ったのは、咲の静かな声だった。
「気象庁のデータでは、台風は北東に逸れてる。風速も最大12メートル、ぎりぎり開催圏内」
「ただし、撤収の準備は同時進行でやるべきです」と、えまが続ける。
拓実は深く息を吐き、皆の顔を順に見渡した。
「リスクはゼロじゃない。それでも……今日という日を待ってた市民がいる。来るかどうかは彼らが決める。でも、俺たちは……“迎える準備”をしよう」
その言葉に、一瞬の間を置いて頷きが連なる。誰も反対はしなかった。
午前十時。祭りの幕が、静かに上がった。
天候は曇り空。しかし予報よりはるかに穏やかで、午前中からぽつぽつと人が集まり始める。イマニは子どもたちの手を引き、綿菓子の列を整える。海翔はキッチンカーの音楽を軽快に変え、ヘイデンは太鼓のリズムで人の流れを導くように演奏を始めた。
「どうなってんの、これ……」咲が計上表を見て目を丸くする。「午前だけで黒字域に……?」
「なにせ“腹が減る”という本能には、景気も台風も関係ないさ」と、遼平がどこか誇らしげに言った。
午後になると空は次第に明るくなり、やがて陽も差し始める。拓実は裏方として全体の流れを見守りながら、目立つことは避けていた。
「なぜですか?」えまが尋ねた。「今日の主役は、あなたですよ」
「いや……主役は、ここに来てる皆だ。俺は、観察して、信じて、背中を押しただけ」
えまは笑って首を振った。「それができる人は、案外少ないです」
夕刻。盆踊りが再び始まり、櫓の上に今度は若者たちが立つ。地元高校生の演舞が喝采を浴び、子どもたちの声が会場に響く。老若男女の輪が広がる中、拓実は一歩、静かに後ろへ下がった。
「世代が交わる場が、生まれたな……」
その背中に、ヘイデンがそっと言った。
「Mr. Takumi, あなたが蒔いた種は、ちゃんと芽を出してますよ」
夜。灯がともり、笑顔と笑い声に包まれる中、祭りは成功裏に幕を下ろした。
そして拓実は、新たな戦いへと歩を進める――第3章「外資という影」へ。




