第18話_イマニ、力こぶで搬入
祭り前日――午後一時。照り返しの強いアスファルトの上に、大型トラックが三台、会場裏に横付けされた。
機材業者が慌ただしく行き来する中、状況は早くも混乱していた。
「……まさかの積み下ろしスタッフ、二人しか来てないってどういうことよ……」
薫が片手で携帯を耳に押し当てながら、額に浮かぶ汗をぬぐった。
ヘイデンが眉をひそめて言う。
「この機材、ひとつ百キロはあるネ。照明スタンドだけで六本。間に合わないヨ」
拓実は腕を組んだまま、周囲を見渡していた。若いボランティアたちは手伝おうとするが、重量物の扱いに慣れておらず、かえって危ない。
そのとき。
「どきなさい、みんな」
静かだが凛とした声が響いた。声の主は、タンクトップ姿のイマニだった。
長い腕を振り上げ、彼女は一人でスタンドの一本を担ぎ上げた。筋肉の走る背中に、周囲は思わず見惚れる。
「これは“持ち上げる”じゃなく、“支える”の。重い物ほど、力よりバランス。私、やれる」
イマニは三歩ずつ慎重に足を進めながら、設置予定場所まで一つずつ照明を運び始めた。
その動きは、流れるようでいて力強く、誰も口を挟めなかった。
「イマニ、無理しないでくれ。誰か交代を――」拓実が声をかけかけたとき。
「わたし、こういう仕事、大好き。動けば、頭が静かになる。そして……みんなの顔が、輝いてくる。ね?」
彼女はニカッと笑った。その笑顔は、太陽よりも眩しかった。
イマニの動きは止まらなかった。次から次へと運び出される機材。大型スピーカー、鋼鉄製の支柱、発電機――いずれも重量と扱いづらさを兼ね備えた“猛者”たちだったが、イマニは怯まず、むしろ楽しそうに次々と対応していった。
その姿に、若者たちが動き始める。
「……あの人、やばくね?」「俺も持ってみるわ、これくらいなら」
最初はおっかなびっくりだった少年たちが、イマニの後に続く。彼女は一人ひとりに声をかけながら、荷の持ち方、重心の移し方、足の出し方まで教えていく。まるで即席のフィットネス講座だ。
「腰を落とす。腹で受ける。そしたら、怖くない!」
咲も現場に顔を出し、光景を見て驚きの声を漏らす。
「……なにこの筋トレ塾みたいな光景」
「人を動かすってのは、声じゃなく、背中なんだな」拓実がぽつりと呟いた。
やがて機材の大半が所定位置に並び、照明設置も開始される。
イマニは最後に一つだけ残っていた巨大な発電機を見て、少しだけ首をかしげた。
「これは……ちょっと、大きすぎる」
そのとき、背後から複数の手が伸びた。ヘイデン、海翔、そして遼平だ。
「四人でなら、運べるサ」「力は合わせるもんだろ」「俺だってたまには役に立たなきゃな」
咲が皮肉っぽく笑う。
「やっと“モフモフ要員”以外で評価されるわね、海翔くん」
海翔がむくれ顔で反論しようとするも、発電機が浮いたその瞬間、全員の顔が綻んだ。
会場の中心に、汗と笑いが混じる空気が満ちていく。
イマニはそんな光景を見つめ、ぽつりと言った。
「こうして働いてるとき……わたし、人間でよかった、って思う」
拓実はそれを聞きながら、そっと心の中で呟いた。
――力は、奪うためじゃない。支えるためにある。それを、忘れてはいけない。




