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45歳、静かな観察者は商店街を救う――地域再生コンサルタント拓実の逆転劇  作者: 乾為天女


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第12話_えまの迷い

 夜の市役所。窓の外にはビルの明かりがまばらに灯り、空には月が滲んでいた。

  えまは自席に座り、祭り復活プロジェクトの進行スケジュール案を前に、動かないペンを握りしめていた。脇には、前回開催された夏祭りの中止決定通知。その左上に赤ペンで走り書きされているのは、かつて彼女が担当課に提出した再開案。

 「……あのとき、私は間違ってなかった。でも……」

  自分に言い聞かせるような声が、静かな部屋に溶けた。

  理論では完璧だったはずの企画。しかし、現場との乖離、市民感情の無視、予算配分の不自然さ……それらが積み重なり、結果は大反発と中止。当時の上司にも「机上だけで走るな」と釘を刺された。

  その過去が、今になって胸の奥を掴んで離さない。

 「……また、あのときと同じになるんじゃないか……」

  目を閉じれば、当時、市民説明会で浴びた厳しい言葉が蘇る。「市役所の都合で進めないでくれ」「現場のこと、何も見ていない」――

  ふと、ドアがノックされた。

 「……まだ、いたのか」

  拓実だった。手には缶コーヒーと、何か小さな茶封筒。

 「夜は、冷えるな。腹に何か入れてるか?」

 「……いえ。考えがまとまらなくて」

  えまの表情を見て、拓実は缶コーヒーを置いたあと、茶封筒を手渡した。

 「それ、咲がくれた。中身は、商店街の“収支表”……じゃなくて、“感想アンケート”のコピーだ」

  えまは封を開け、中を覗く。そこには、子どもの拙い文字で「まつりやってくれてありがとう」「つぎもたのしみ」「やきそばおいしかった」の文字が並んでいた。

 「……理屈で攻めるえまさんも、現場に出るとちゃんと“人”を見るようになった。あのときの説明会で黙ってた俺からすると、今の君はずっと強い」

  拓実は窓の外を見ながら続けた。

 「失敗を恐れることはない。だが、“失敗した自分を否定する”のは違う。失敗は、次に生きれば資産になる」

  えまは、じっと紙を見つめていた。

 「……資産、ですか」

 「そうだ。失敗を“どう処理したか”を他人に示せれば、信頼につながる。人は、完璧より“回復力”に安心するもんだ」

  沈黙のあと、えまは深く息を吐いた。そして、スケジュール案の紙を一度ぐしゃりと丸めた。

  その上で、新しい白紙を広げる。

 「……では、私もひとつ、“失敗を資産化”してみます」

  夜の市役所に、カリカリとペンの音が響く。

  再起は、静かに始まっていた。




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