表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳、静かな観察者は商店街を救う――地域再生コンサルタント拓実の逆転劇  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/40

第10話_夜明けの商店街

 翌朝六時。商店街アーケードの天井越しに、白んだ空が透けていた。シャッターの隙間からは、柔らかな朝の光が差し込み、前日までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

  だが、その静けさの中に、確かな“余韻”が残っていた。

  拓実は、まだ誰もいない通りをゆっくりと歩いていた。前夜の仮設マーケットの撤収は深夜までかかったが、ゴミひとつ残さずに終えることができた。

  張り出されたポスターの隅に、誰かの手で「また来たい」と書かれた付箋が貼られていた。

 「……悪くないな」

  彼は立ち止まり、かつて井筒文具店だった場所に視線をやる。そこにも、仮設イベントで一時的に開放されたベンチがあり、昨日は子どもたちが落書きをしていた。

  そのとき、背後から足音が近づいた。

 「おはようございます、拓実さん」

  えまだった。手には温かい缶コーヒーが二本。彼女は無言で一本を差し出した。

 「昨夜、全員分のレポートを読みました。海翔くんのSNS反響、咲さんの収支報告、薫さんの現地運営記録……数字も感想も、すべて“動き出した”って内容でした」

 「人が集まる場所には、意味が生まれる。意味が生まれれば、記憶になる。記憶になれば、また来ようと思う。それが“再生の条件”だ」

  拓実の言葉に、えまは静かに頷いた。

  そのあと、二人はアーケードを歩きながら、今後の展開について話し合った。だが言葉よりも大きく響いたのは、通りの一角で、昨日来ていた子どもが母親と一緒に歩いている姿だった。

 「ここが“昨日の場所”だよ」

  その言葉を聞いたとき、拓実の脳裏に一つの言葉が浮かんだ。

  ――“昨日の場所”が、“明日にも残る場所”になればいい。

  仮設だったイベントは、確かに“仮”だった。だが、“仮”を続ければ、それはやがて“日常”に変わっていく。

  そして、通りの突き当たり、最後のシャッターの前で、拓実はふと立ち止まった。

  そこには、空き家情報提供の貼り紙が剥がれかけていた。その隅に、えまが小さなマグネットを付け加えた。

 「“夏祭り、ここから始まります”」

  文字は手書きだった。

 「次は――“街の記憶”を、もう一度揺さぶってみようと思います」

  そう言ったえまに、拓実は小さく笑って返す。

 「……いい着眼だ。“思い出”は、未来への灯にもなる」

  そして彼は、ポケットから一枚の紙を取り出し、壁に重ねるように貼った。

 《再生は、ここから。観察から行動へ》

  貼られたその言葉の向こう、空の雲がゆっくりとほどけていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ