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第9話 ゴブリン増殖

 オレは香織に連れられて真壁家の座敷に通された。


 テーブルの上には、重箱に入った高級なお寿司が並べられ、中央には高そうなオードブル。伊勢海老がオレを睨みつけている。

 香織に勧められた座布団に正座すると、隣には香織が、対面には香織パパとママが座った。


「大和君、ビールはいけるかな?」


 香織パパが口火を切った。オレは断るのも失礼と思い一杯だけもらう。しかし、コップにビールを注がれそうになった時、香織が口を挟んだ。


「パパー、ダメよぉ。創真君は高校生なんだからー」


「いいじゃないかぁ。リクもカイもソラも高校の時から飲んでいたじゃないかぁー」


「じゃあ1杯だけよ」


 香織はあっさりと引き下がった。真壁家に未成年の飲酒は、あまり抵抗がないようだ。

 それにしても、リク、カイ、ソラってお兄さん達の名前の様だが、ネーミングが自衛隊みたいで安直過ぎだろー!


 オレと香織パパはビール、香織とママさんはお茶を注がれた所で香織パパが挨拶を始める。


「大和君、この度は香織を助けてくれて本当にありがとう。君がいなかったらと思うと、香織は、香織は、うううっ……」


 香織パパが目に腕を当てて泣き出した。


「パパ、脱線し過ぎぃー!」


「大和君、今日は遠慮せずに沢山食べていってね。お父さん乾杯しましょ!」


「あ、ああ、では乾杯!」


 夕食という名の宴会は、なし崩し的に始まった。

 オレは最初にお寿司をつまむ。母親がいつも貰ってくるスーパーの売れ残りのお寿司とは別格、本物のお寿司だった。続いて伊勢海老。甘くてとろけるような高級品の味わい、生まれて初めて食べた。

 回りを見ると、座敷の壁上段に軍服を着た多くの老人が額に飾られている。


「大和君、彼らは真壁家のご先祖様達だよ。我が家は代々軍人の家系でね、息子達も今日は来れなかったが自衛隊に所属している」


「もしかして、先程名前が出てきた人達ですか?」


「ああ、長男は陸自、次男は海自、三男は防大生、そして香織も……」


「お父さん、私は防大なんか行かないからねっ!」


 香織パパは冷や汗をかきながら話を変える。


「大和君は進学するのかい?」


「いえ、うちはお金がないので高校を出たら働こうと思っています」


「大和君は成績が良いのに、もったいないわぁー」


 一応オレの成績は中の中、奨学金を貰えるレベルには届いていない。


「それなら防衛大学はどうかな? お金はかからないし、少しだが給料も出るぞ。一度考えてみてはどうかな?」


「は、はい、考えてみます」


 お金をかけずに大学へ行けるのかぁ、今度母さんに相談してみよう。


 その後はゴブリンに襲われた時の事や学校の事など、主に香織が話して夕食が終わった。

 帰りには、結婚式の引出物の様に、お菓子や缶詰や果物が詰められた大きな袋、いわゆる籠盛を持たされて真壁家を後にした。


 家に帰ったあと、籠盛を見た母親が大喜びをしたのは言うまでもない。


♣♣♣♣♣


 翌朝、香織パパの元に自衛隊情報部から連絡が入る。


「真壁室長殿、桜島のゴブリンの数に異変が起きております。至急ゴブリン対策室へお越し下さい!」


 ゴブリン対策室。ゴブリン殲滅作戦が失敗に終わってから設置され、真壁はその室長となっていた。


 真壁が到着すると、自衛隊幹部の面々が会議室で敬礼をして待っていた。その中には真壁陸佐の姿もあった。

 彼は真壁陸。30歳にして佐官である。関東第1師団の中隊指揮官だが、ゴブリン対策室の設置に伴い出向していた。


「皆、座ってくれたまえ。それで、桜島の異変とはどういう事かね?」


「はい、まずはこれを見て下さい」


 情報部の責任者が正面に立ち、スクリーンに桜島全体の衛星画像を映し出す。その後、ピントが徐々に拡大されると、出席者からどよめきが漏れ出した。

 最初は小さな虫が蠢いている様に見えたのだが、拡大するに連れて、その全てがゴブリンである事が分かった。


「皆さん、これが今朝の映像です。数にして、およそ500匹。昨日までは数十匹単位の動きであり、ゴブリンの総数を最大100匹と見積っておりましたが、今朝の観測で大な誤りである事が判明しました」


 出席幹部の誰かが得意げに質問する。


「これは、数が増えたという事ではないのかね?」


「まだ結論付ける事は出来ませんが、恐らくその通りだと推測されます。情報部で試算した所、1ヶ月で5倍に増えており、来月には2500匹になると予想されます」


「なっ、何だってぇぇぇー!?」


 想像を遥かに超える数に、会場のどよめきが更に増した。再度ミサイル攻撃を主張する者。核を主張する者。対岸に防壁の建設を主張する者。

 真壁はしばらく皆の意見に聞き入り、その後ゆっくり立ち上がると、会場は静まり返った。


「皆の意見は分かった。まず核攻撃だが、非核三原則がある限り核は使えないので却下だ。次にミサイル攻撃だが、既に効果がない事が実証済でこれも却下だ。残るは防壁建設による封じ込めになるが、ゴブリンが1万匹を超える頃には島から溢れ出す可能性が高い。よって防壁建設の猶予は今から2ヶ月として総理へ上申する!」


 ゴブリン対策室の方針を決めた真壁は、詳細を詰めた後、河田防衛大臣と共に総理官邸へと向かった。



【第9話 ゴブリン増殖 完】

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