第7話 レアスキル英雄遺伝子
オレが『英雄遺伝子』の内容を見たいと念じると、視界の中央に新たなウィンドウが現れた。
そのウィンドウには説明文が表示され、1行目から衝撃的な事が書かれていた。
『スキル英雄遺伝子とは、英雄遺伝子を生成する事が出来る』
「これはっ!?」
なんか……、読んでて恥ずかしくなるんですけどぉー。気を取り直して続きを読む。
『英雄から助言をもらう事が出来る』
「これはタケじいの事だな。英雄には見えないけどね」
そして最終行。
『レベルアップ毎にスキルを獲得できる。但し、英雄の進む道によって、Lv3以降の獲得スキルが変わる』
「うーむ、何か意味ありげな内容。しかし、英雄遺伝子はかなり優秀なスキルじゃないか!」
次は『異世界転移』のスキルを見る。
『異世界転移とは、異世界へ転移する事が出来る』
「異世界ってどんな所だろう? ゴブリンがうじゃうじゃいるのかなあ?」
まぁ、異世界の詳しい事は後でタケじいに聞くとして、今は続きを読もう。
『異世界人の言語互換が出来る。但し、転移時に装備品以外を転移出来ない』
「これは異世界で言葉が通じるという事だろう。そして、異世界には何でもかんでも持っていけないという事かな?」
それにしても、説明文だけではイマイチ現実味が沸かないんだが……。
オレは数ある疑問を棚上げし、次に書かれたジョブを見てみる。さて、オレは商人らしいが、一体どんな能力なのか?
『商人とは、物を売り買い出来る』
「……おーい、それだけかーい!」
気を取り直してカッコの中を見る。
『隠れた能力:アームズ・ディーラーとは、武器商人に特化した能力。武具や魔物のステータスを鑑定する事が出来る。頑張れば惑星を破壊する兵器の開発が可能!』
「わっ、惑星破壊って……いったい何!?」
最後に魔法障壁。これがあるからゴブリンを倒せない訳だが、どういう理屈なのだろうか?
オレはじっくりと内容を見る。
『魔法障壁とは、魔素濃度が高い異世界のあらゆる物質に蓄積された自然のバリア。意思または指向性によって障壁が展開される。魔法障壁は、レベルが同格で物理法則が有効になる。また、レベル差に乗じて障壁貫通力が変わる。レベル差を補うには武具に魔石を装着する方法がある』
ふぅーん、だから異世界の武器でないと魔法障壁に阻まれてゴブリンを倒せないのか!
だとすると、この世界にゴブリンって何匹いるんだぁー? それを、この短剣1本で1匹ずつ倒していくとしたら何年かかるんだあああー!?
「なぁタケじい、1800年前にゴブリンを退治した方法って、まさか……異世界から武器を調達したって事なのかあ?」
「ピンポンピンポン、大正解じゃ。武器を1000人分集めるのは本当に苦労したわい。カッカカカ!」
「マジかぁぁぁー!?」
武器が1本で、異世界転移のスキルを見た時からイヤな予感がしていた。だけど、最後まで聞けば凄い必殺技が出てきてゴブリンを一網打尽、なーんて事を期待をしていたが甘かった。
「創真よ、ひとつ大事な事をアドバイスしてやろう。英雄とは必ずしも勇者とは限らんのじゃ。手段を問わず、危機から人々を救うのが英雄なのじゃ! それにもう1つ。このまま放おっておくと、ゴブリンは瞬く間に繁殖して、日本はゴブリンに占領されてしまうじゃろう。そして、今の日本を救えるのはお主だけじゃ! しかし、事を成し遂げるには命懸けの試練が待ち受けておろう。どうするかは創真次第じゃ!」
「も、もうすぐバイトの時間だ。ちょっと考えさせてくれ……」
あまりに重い責任を受け止めきれず、オレは逃げる様にバイト先へ向かった。
♣♣♣♣♣
一方真壁家では、両親と娘の3人で今日の出来事を話していた。
「香織、何があったのか詳しく話してみなさい!」
「パパ、ママ、今日あった事は警察から聞いてる?」
「ああ、香織が変質者に襲われた所を大和君が助けてくれたと聞いてる」
香織は大きく横に首を振る。
「ううん違うの。警察の人達が何を言っても信じてくれないの!」
「香織、パパとママは香織を信じるわよ。だから、本当の事を言ってちょうだい」
香織は両親の顔を見つめ、大きく深呼吸をしてから話し始めた。
「今朝、私は公園の中で大和君が登校するのを待っていたの」
「ええーっ、香織はあの男と付き合っているのかあー!?」
「お父さん、黙って聞いてっ!」
香織パパが取り乱すが香織ママが制する。
「香織、続けなさい」
「うん。しばらく待っていると、後から誰かに抱きつかれたの。驚いて振り向くと、身長130cm位の緑の体をしたゴブリンだったの。私は叫んで助けを求めたんだけど、強い力で足を引っ張られて茂みに引きずり込まれそうになった時、創……大和君が助けに来てくれたのっ」
ここで香織は一息入れて紅茶で喉を潤す。
香織パパは目をうるうるさせて何か言おうとするが、香織ママに睨まれて娘の言葉を待っている。
「ごめん、続きを話すわ。大和君は私に気付くと走ってきて、手に持った短剣をゴブリンの胸に突刺したの。すると、ゴブリンはのた打ち回って、やがて動かなくなったわ」
「ゴ、ゴブリンを殺せたというのかっ!?」
香織パパが目を見開き驚いている。
「うん、しばらくするとゴブリンの体に靄がかかって死体が消えちゃったの!」
「なんという事だ。ゴブリンの死体が無いから、警察は信じなかったという訳か!」
「そうなの。その後は交番に移動して事情聴取を受けたの。それで、大和君が短剣所持を問い詰められた時にパパが来てくれたのよ。ナイスタイミングだったわ。ありがとう、パパ!」
「ハハハ、大和君にはお礼をしないとな。今週末にでも家の食事に招待しようか?」
「えっ、いいの? パパ大好きぃぃー!」
愛娘に抱きつかれた香織パパは嬉しそうに微笑み、その後に小さくつぶやいた。
「ゴブリンを倒せる短剣か、ぜひとも見てみたいものだ……」
【第7話 レアスキル英雄遺伝子 完】