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第88話 地球上で最上たる幸福と吊り橋の魔法

 レヴァーラ・ガン・イルッゾに反旗(はんき)(ひるがえ)した元ヴァロウズNo1からNo5までの面々(めんめん)


 日本で台風の如くその猛威(もうい)(ふる)ったNo3天斬(てんざ)を無事討ち()り、イギリスの占い師No5アビニシャンは、その力を喪失(そうしつ)してシチリアに(かえ)った。


 残るはNo1、星を落とせし者エルラド・フィス・スケイル。そして彼の全てを愛し、その身も心さえ(ささ)げているNo4、インド神話の神々の力を引き出せる神聖術士(しんせいじゅつし)パルメラ・ジオ・アリスタ。


 そしてNo2、芸術を爆発と()(たが)えたる男。ディスラドである。


 早い話、残るはあと二組という訳だ。説明を加えるのであれば、この二組が結託することなど、現時点では在り得ない。


 特にNo1(エルドラ)No2(ディスラド)は、多勢(たぜい)無勢(ぶぜい)では()(はか)れぬ実力を有してはいる。No4(パルメラ)とて未だ本気を出しているとは認め難い。


 だがシチリアの最北に拠点(きょてん)を構えるレヴァーラ・ガン・イルッゾ達が確実にその勢力を伸ばしつつある。レグラズ・アルブレンという覚醒(かくせい)した異能者すら手に入れた。


 レヴァーラに(くみ)しない連中(No持ち)がシチリアの物量で押し切られる可能性も否定出来ない情勢(じょうせい)と化した。


 (むし)ろ不気味な存在たるは連合国軍である可能性を否定出来ない。


 今後も彼等がNo3から異能の根源(こんげん)(てい)よく()ぎ取り、量産でもしようものなら世界は(かつ)てない異常者による戦争へ巻き込まれるかも知れないのだ。


 しかし今のシチリアは壮絶(そうぜつ)な争いを終えたばかり。取り合えず()は、彼等彼女等にひと時の安らぎ(恵み)をもたらすことをお許しになられた様だ。


 ◇◇


「──あ、アル……」


 戦いを終えたばかりの新妻(マリー)──。


 もう彼でなく夫に為った男(アル・ガ・デラロサ)の部屋で一糸(まと)わず、ベッドの上で身を(よじ)り恥じらいつつも、初めての(とき)を心待ちにしていた。


「──ま、マリー。何故お前はこんなにも美しい? 俺はこの瞬間()の為、これまで生き()びて来たのかも知れん」


 その上から(たくま)しい男の手で妻と為った女の髪に触れ、頭を()で……やがて肩から首へとゆっくりと静かに()()させて征く。


 この一瞬が流れ落ちるのを愛おしくもあれど、勿体無いとも感じる二人だ。それは二度とやって来ない極上の時間()


 愛し合う二人の初めてとは、すべからずして地球上で最上(さいじょう)たる幸福を得ている。そんな身勝手なる確信を(いだ)くものだ。


 二つの()重なる時くらい、そんな嘘の河で互いに流され(溺れ)ようとも構いやしない。それが人という感情を持ち得る生物の本質(サガ)なのだから……。


 ◇◇


 パシャンッ。


 同じ頃、No7フィルニア・ウィニゲスタとNo8のディーネ、いつもの二人組(仲良し)。戦いの(けが)れを清めるべく竜の口から注ぐ湯に、その身を(あず)け深夜の談笑(だんしょう)(うつつ)を抜かしていた。


「──結婚かぁ、あの二人ずっと一緒だったらしいからねぇ」


「フフッ……まあだからといって何も映画の様に戦場の()只中(ただなか)で愛を叫ばなくてもな」


 18歳のディーネがポカンッと口を開いて天井を見上げている。苦笑するのはフィルニアである。


「あら、そうかしら? だからこそじゃないの? ()り橋効果って貴女知らない?」


「吊り橋!? いや知らんな初めて聞いた」


 ボケていたディーネが湯船に沈む身体(全裸)を捻り、フィルニアの方へ興味を注ぎ込む。怪訝な顔で返すフィルニア。『吊り橋? 橋がどうした?』そう言いたげな表情を向ける。


「え、知らないのォ!? あれって世界共通じゃないのかなぁ。あのね吊り橋ってさ、揺れて危ないじゃない? そんな場所を一緒に渡ると好きになっちゃうって話なのよ」


「嗚呼──成程。早い話、身の危険を感じたら命を繋ぐべく()()()()()使()()()()()()って話だな」


 真顔で『生殖機能』と応じる実に痛い美女フィルニアにディーネが思わず唖然(あぜん)。『ど、動物(オスとメス)の話じゃない!』と言いたくなるが余計(こじ)れそうなので(あきら)めた。


「はぁぁぁぁ……。(もぅ)、いいよ判った、それでおけ(OK)。ま、大体(だいたい)合ってるし」


 大きな溜息をつくディーネである。そして(しばら)くしてから再び(ほう)けた顔して天井を向く。


「僕さぁ……。恋愛ってしたことないって言うか、正直良くわっかんないんだよねぇ」


()を好きに為った試しがない?」


 宙に浮く湯気を(いじ)仕草(しぐさ)をしてみるディーネ。未だ(つか)んだ事ない恋愛と想いを重ねているらしい。フィルニアの問いに腕を組む。(はさ)まれた胸がさも窮屈(きゅうくつ)そうだ。


「うーん……それ聞かれると増々判んないのよ。だってさ僕、フィルニアだって好きだからこうして一緒に入っているんよ。ファウナちゃんなんて妹みたくて大好き! ──だけどさ、それってさっきのデラロサ達(あの二人)とは違うっしょ?」


 独りLike(好き)Love()の違いに悩む若いディーネの悩み処を見てクスリッと笑うフィルニアなのだ。6つ歳下の女の子の可愛げ(たま)らなく心(くすぐ)る。


「ディーネ。……お前の身体が起こす湯の波風はいつも心地良いぞ。今宵(こよい)は特にな」


「ふぃ、フィルニアさんッ!? それ何かすっごくはずい(恥ずい)んですけどォォ!!」


 不意にいつも良い声が何倍にも色濃(いろこ)くディーネの耳に飛び込んで来た。『お前の身体』の(くだり)が特にヤバい。エコーとリピートの両方で脳内(女性向け)再生(ASMR)を停止出来ない。


「これも好意の形なのだよ。Like(好き)Love()紙一重(かみひとえ)表裏一体(ひょうりいったい)の存在だ。フフッ、こればかりは口じゃ言い表せない。お前にもきっと判る時が来る」


 フィルニアが『表裏一体』と言いつつ自分の(てのひら)(つか)んだディーネの掌を半ば強引に合わせた。そうやって微笑みを手向けるフィルニアは相も変わらず美男(イケメン)のそれだ。


 ──な、何よコレ? たった今僕、どっかに()()()気するんですけど!?


 独り、心此処に(あら)ず──。そんな夢心地のディーネであった。

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