第84話 予測可能だった偽物?(Ghost)
22世紀となっては古めかしい部類に入る2台の空挺部隊車両。音無しと化しただけで一気に躍動してゆく。
その背後から到底人外に思えてならない青い男が次から次へ敵を雑草を刈る如く薙ぎ払ってゆく。さながら自律歩行機能付きの砲台といった処か。
空挺部隊元大尉、アル・ガ・デラロサ。同じく元少尉、マリアンダ・アルケスタ。
そして閃光を開花させたレグラズ・アルブレン。
この3名からなる元軍人組のみで敵を全て蹴散らすかに思えた。だが天斬の成り損ない様な輩に奇妙な連帯を感じるアルブレン。そう簡単に事が運びそうにない予兆を肌で悟り始めていた。
──此奴等動きが良くなりやがった?
まるでクロスカントリー競技の如く、階段も樹々も我が道として扱い、立体的な動きを見せるデラロサとその迷彩の鉄馬。
例えば樹の幹にワザと前輪をぶつけて跳ね、その反動を活かしつつハンドルを完全に手放した上で連続射撃を敢行する。強靭な膝でガソリンタンクを抑え込むのだ。
しかし此方の射撃精密度合いが落ちていないというのに敵の急所からはずれ始める。
加えて返す青い刀が次の道にする予定だった物体を斬り裂くのだ。先読み能力? 勘繰りたくなる勢いだ。
──此方の動きを読まれている?
まるで互いの心が通じ合っているかの如く、アルケスタとて同じ危険度を感じていた。二人合わせて千手とも取れる同じ動きが全くないのにも拘わらずだ。
カッ! ズガーンッ!、ズガンッズガンッ!
そんな敵の細かい手札なぞ圧倒的火力で蹂躙してゆくアルブレンである。両肩のバズーカ砲はお飾りでは決してなかった。撃ち終わり要らなくなれば無造作に捨ててゆく。
「あ、あのクソ野郎! ガキみたく調子に乗りやがって! 折角出来た施設を滅茶苦茶にするつもりかぁ!?」
周囲に微塵も手心を加える様子のないレグラズにアルが文句を垂れる。そこへ追いついたラディアンヌが冷静なる緑の瞳で戦況を観察している。
「──いえ、恐らくあんな派手目の攻撃は、もう通じなくなるのを悟っているか様に私には思えます」
バイクも火器も武器すら持たないラディアンヌこそ、最も過敏なる肌感覚を持ち合わせているらしい。
そう言う割に手刀で相手の剣を払い、文字面通りの手刀を扱い、涼やかな顔で首級を挙げる。
──や、やっぱぶっ飛んでやがんなこの姉ちゃんも……。
味方であった兵士の喉首を強化服毎、捻って圧倒された悪夢的初印象がどうにも焼き付いて離れないデラロサである。
「デラロサ様もお気づきの筈──これは剣士の読心の動きとは異なるという事を」
ラディアンヌが少し前の日本に於ける争いの情景を苦虫を嚙み潰す気分で思い浮かべる。
彼女の場合、天斬と直接立ち合いが皆無であり、どちらかといえばAI兵からファウナを守れなかった屈辱の思い出が大半を占める。
それでも閃光のレヴァーラと光束の剣を握ったスーツ姿の奇妙な男との立ち合いは印象深く今でも残っている。
天斬はレヴァーラの実験に全てを斬り伏せる光の剣を望み、そして勝ち得た存在。けれども剣技そのものは人の動きであったと思う。
特に研鑽を極めた天斬の剣捌きは天を堕とす名に恥じぬものを感じた。この場にぞろそろ雁首を揃えている出来損ないとて、その剣技を受け継いでいるのは確信している。
──だが違うのだ。人間が二手三手先を読んで盤上の駒を動かすのではなく、スパコンが瞬時計算で千日手を弾き出した不条理たる読みに似ている。
それこそラディアンヌが迂闊にも後れを取ったAI兵達の気配を読めない動き。
この偽物達は寧ろそちらに近いというのがラディアンヌの考察なのだ。
「──森の刃」
さらなる援軍の声が木霊する。森の女神候補生が不意に飛ばす木の刃がサクリサクリと敵を貫く。意外な程アッサリとだ。まるで『森の刃など知らぬ』と体現してるかの様な不様ぶりだ。
レヴァーラと共に一番最後に向かった筈のファウナ・デル・フォレスタが2番手で現れた。恐らく低空を飛び、戦乙女でさらに駆けたといった処か。
「やっぱりそうだったのね」
開口一番、ラディアンヌ等がアングリ口を開かずにいられないファウナの超ド天然発言。一体どんな意図が在るのやら。はたまた単なる純天然か。
とは言え矢継ぎ早に敵は攻めて来るので、手を止めゆっくり講釈を聴く余裕など在りはしない。
──やっぱり!? 死んだ筈の剣士が攻めて来るのを予見出来るってどういう……。
偶々耳に入れたマリアンダがバイクを駆りつつ脳の何割かを割いて部品集めに奔走してみる。
「──『火焔』!!」
炎舞使いの鋭き声が届くと同時に数多くの赤い燕が敵の目前に飛び交い、或る者は輝きと為りて敵の視覚を奪い、違う奴はそのまま飛び込み敵を火葬へ導く。
既に居る味方の邪魔はしない絶妙なる攻め込みだ。
「──我の風、雲を呼び雨と為りて起動を奪え」
「まぁぁったく! ファウナちゃんの誕生日を穢すだなんて絶対に赦さない!」
まるで魔法の詠唱か、はたまた何かに捧げる詩か? 黙秘で行使出来る能力を敢えて言葉に載せたNo7。気持ちを込めた方がやりやすいといった具合か。
一方、暗躍する気皆無のNo8が地面に降り注ぐ前の雨粒を凶器に変え落としてゆく。
偽物の天斬相手に一気呵成の援軍が強襲を掛ける。やはりこの偽物、初見の攻撃にやたらと弱者だ。
少し離れた場所では、普段と比べ余り大きくない白狼が喉笛を喰い千切ってるのが見えた。
後は元祖閃光のリディーナと、閃光の真祖と化したレヴァーラか。この二人だけは悠々自適に来る感じが目に見える様だ。
No9とNo10は、恐らく確認出来ないだけで戦闘には既に参加しているに違いない。
──しかしこれで少しは考える時間の余裕が生まれた。そう感じたマリーである。
あの敵は自衛隊員と共に居た。レヴァーラ・ガン・イルッゾが閃光と化して胸を穿って殺し……た?
マリアンダ・アルケスタは知っての通り、生粋の軍人上がりだ。そんな彼女が殺すという言葉に一抹の不安を感じる。
敵を殺る──。
それは軍人に取って死亡確認を取るまでを意味する。無論、止む無き戦闘中行方不明もあろう。しかし相手の胸を刺して殺したのだから在り得ない。
──本当にレヴァーラ達はNo3の死亡確認をしたのだろうか?
一瞬頭を過ぎるが意味が通らない。そもそも今此処に跳梁跋扈している敵は超多数。
そもそも生き死にを考えること自体、無意味だ。まあ強いて言えば恐らく死亡した。──が此処に複数体、似た様なのが存在する。
「ま、まさか!? で、でも辻褄が合ってしまった……」
冷静なマリーが思わず心の声を漏らした。連合軍……世界総てを意味する軍と化した自衛隊がもし横流ししたのであれば……。元自軍であった筈の闇深き暗雲を感じたマリーであった。




