第83話 Fake(偽物)に期待する男
謎の敵集団による襲撃。
これを暫くの間、デラロサ、アルケスタ、アルブレンの3人だけで抑えねばならない。魔法使いや異能者が1人も居ない──いや、いない訳ではないのだがレグラズに至っては全くの未知数である。
「──んっ? あの敵勢力、良く考えてみりゃお馬ちゃんの仕掛けた罠を潜り抜けて来たってのか?」
以前誰からかそんな話を聞いた記憶を辿るデラロサ。
「罠? どんなものかは知らんが暗視カメラ位装備してるんじゃないか?」
如何にも兵士らしく、さも当然といった態度な基準点的答えを流すレグラズである。そんな些細、興味すら湧かない。
「そ、そんな都合の良い物装備してる様には見えません──そ、そんな事より奴等、Tokyoで倒して来たと聞いている青い剣を所持している模様……」
──そうなのだ。しかもあろうことか独りでなく奴等である。
マリアンダに取っては、敵が如何にして罠を潜り抜けたか? そんな結果なぞどうでも良くなる現実に目を見張って震えているのだ。
「な、何だとマリー!? じゃあ何か? アレは幽霊か、はたまたゾンビとでも言うつもりか!?」
「わ、判りませんよ……そ、そんなの私が聴きたいです」
既に強化服で全身を包んでいるアルが震えるマリーに喰って掛かる。高いコクピット越しから弱々しい声で文句を告げるマリアンダが痛々しい空気を醸し出す。
「無駄話はそれ位にしておくことだ。そろそろ覚悟を決めろ……そうだフフッ…お前達、先に飛び出し囮になれ」
すべらからずして関心のない態度のレグラズが不意に笑って二人を煽る。しかもただの脅しではない。本気で提案しているのだ。
「はぁっ!? 何勝手言ってやがんだ手前!」
「フッ、安心しろ。流石に背後から撃ち殺したりはしないさ。勿体ないからな。それに早くしないと私の閃光のタイムリミットが来る」
思わず文句を垂れるデラロサ。各武装の動作確認をしながらレグラズ・アルブレンが『今は殺らない』と含みを持たせた。
『──おいっ、そこの流しの軍人共。俺の声が届いてるか?』
出撃待ったなしの元軍人組に突然響く女の声。傭兵上がりが『流しの軍人』とは中々エッジの効いた冗談。
「そ、その声ひょっとしてお馬ちゃん? ──って事はまさか既に?」
『だ、誰が馬じゃこのメカジャンキーがぁ! へッ! 残念ながらまだそちらまで距離は在る。だがな──俺様の糸の結界を、魔法少女の蜘蛛の糸へ張り替えておいたって寸法よ』
紛う事無きジレリノの声。張り切った蜘蛛の糸でデラロサ達へ伝言する。蜘蛛の糸はあくまでファウナの御業。
けれども此処まで使い熟せばまるでジレリノの専売特許だ。しかも離れた場所から心の声を伝える使い道。ファウナの想定を恐らく超えている。それにしても汎用性の高い術だ。
「──では大好きなジレリノちゃんにデラロサさんからお願いが在る。なあに……俺が依頼する相手は必ず出来る奴。これは外れなき持論だ」
堂々とニヤけるデラロサ。蜘蛛の糸の向こう側。ジレリノが変な顔で首を傾げた。
それから僅か1分といった処。
音がしない訳のない22世紀としては古めかしい乗り物に跨るデラロサが威風堂々と現れた。
「そんな玩具で攪乱出来るのか。この暗闇でライトも点けずに走れるのか貴様?」
「事務方上がりが何言ってやがる。俺は腐っても空挺部隊だぜぇ。此奴は俺の手足も同…然! マリー、お前の分も奥に用意してある──急げ!」
立てた親指を自分へ向け、相手を見下すデラロサなのだ。「──にしても音が出ねぇバイクってのはどうも気が削がれんな」と我儘な苦笑い。
それにしても蜘蛛の糸をバイクへ張り直した上での音消しをするジレリノの演出。余りにも小憎らしい。
直ぐにアルケスタも厳つい軍人の顔でデラロサの真横に並ぶ。震え上がってた少女の仮面は脱ぎ捨てた。
2台同時にアクセルを吹かし、ウィリーしつつ別方向へ飛び出してゆく。ド派手な癖して音無しなのがやはり不気味だ。
「行っくぜオラァッ!」
バイクの前輪で敵の横っ面を容赦なく殴るデラロサ。暗闇かと思いきや、御丁寧にも敵自身が青い剣で主張していた。これがアルにはペンライトに思え、心の嗤いが止まらない。
一瞬グラついた敵が無音で蜂の巣と化し、撃たれる都度に踊り狂う。此方は暗視カメラとやはり音無しを活かしたレグラズの離れ業だ。
パンッパンッ!
マリーはワザと銃声を鳴らし敵へ撃ち込んだのは軽めの照明弾だ。それを悠々と20mm対物ライフルの銃弾が敵の上半身を粉砕に追いやる。
──雑魚だ此奴等。まあ所詮元々ただの人斬り。頭数揃えた処で連携何て出来やしねぇよ。
──あの青く光る剣……流石に光を収束した刃じゃないようだな。
アルとマリーがアクセル全開。後輪滑らせ互いの位置を入れ替えた。
連合時代、特Aクラスと評された空挺師団のエース2人。異能なんぞ知るかとばかりに縦横無尽で闇を駆ける。
圧倒的な敵の数。その身を隠せぬ戦場である。ならばやるべき事はただ1つしかない。多大に動き、2台という有利を最大限の活かせるべく、互いに同じ動作は二度と見せない。
──ほぅ……流石にやってくれるな。だがこれでは呆気なさ過ぎやしないか?
サーカスでも観てる思いなその一方で、虚弱過ぎる敵に不信を抱くレグラズの冷ややかな目。これら雑魚が惹き合う相手として終わるのは不謹慎だが腹立たしいのだ。
またもアルケスタが目印を付けた相手に全く同様の20mmで撃ち抜こうしたレグラズ。
──ムッ?
またも命中──そう、当たりはしたのだ。だけどもほんの数cm、何故だか狙いを逸らされていた。にも拘わらず笑いを浮かべた。
──自立思考型のAIか……或いは私と同じく成長している?
やはりこのままで終わる道理がない。しかしそれでも覚醒の先駆者として負けるつもりなど毛頭ないレグラズなのだ。
ジャキッ!。
本来ならそんな音をワザとさせる勢い。両手持ちであるべきマシンガンを2丁構えて派手に撃ち鳴らす。
──何アレ!? バッカじゃねぇのっ?
スピンターンしながら背後の化け物じみたレグラズにチラリッと視線を送るアル・ガ・デラロサ。幾ら強化服を着ていようが、銃の反動に耐え切れる処が気色悪い。
「──はぁぁぁぁッ!!」
真っ先に現れた援軍。それは短い金髪と花の髪飾りを揺らし、風と為り得る。
掌底で相手の喉笛を的確に捉えた。暗闇を翠眼が光の筋で色鮮やかに貫く。
レヴァーラ配下に於いて最も射程の短い武器を体得している自然体の武術家。ラディアンヌ・マゼダリッサが緑のルージュで爽やかに笑った。




