表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/234

第64話 不発弾の閃光

 余りの戦力差に絶望する浮島の主、レグラズ・アルブレン。


 けれども味方の兵がひっきりなしに押し寄せて来る。外は敵のビクロス(人型兵器)とやらに牛耳(ぎゅうじ)られたし、何しろ此処は自分(司令官)敵の親玉(レヴァーラ)が未だやり合う最前線。


 無駄だから敵前逃亡? 

 そんな思考、21世紀最大の戦火を(くぐ)り抜けた連中には在り得ないのだ。


 それでも独り気を吐くオルティスタのダガー2刀を止める(すべ)を誰も知らない。多勢に無勢とは無縁の世界線。(たぎ)る刃が黄泉(よみ)へ送って御丁寧(ごていねい)火葬(かそう)まで面倒を見るのだ。


 そんな火祭りの主催(しゅさい)と化したオルティスタだが、服装は以前とまるで異なっていた。


 くノ一の様な姿ではなく、緑のダルっとしたパーカーに(そろ)い色のキャミソールが胸元を大胆に開いている。さらにホットパンツという、普通に都会を流していそうな良い女の()で立ち。


 キチンと髪の手入れをしてる妹分(ラディ)と異なり肩までだった金髪も少々伸びて乱れている。


 ───それがどうだ。

 戦いの野性を取り戻した彼女が短いアサルトナイフ2本を振るうその様、無駄のない戦闘の玄人ぶりをかえって引き立たせているではないか。


 伸びた髪が自由に振る舞い、男勝りな女をより際立(きわだ)たせる。相手が銃だろうが長剣だろうがお構い無しに蹴散(けち)らす(さま)。シチリアの女マフィアを彷彿(ほうふつ)させる。


 ───短い2刀……初めのうちは物足りんと思っていたが、これはこれで組み(やす)いな。


 オルティスタ当人もすっかりその気が始まっていた。偶然の産物(さんぶつ)が今後、板に付きそうな流れが来ている。


「───『閃光(エンツォ)』………フフッ、我らしくなく血が(たぎ)って来たわ」


 戦うつもりなど微塵(みじん)もなかったレヴァーラが此処で横槍を入れる。無数とはいえただの雑兵(ぞうひょう)相手に手出し無用と思っていた。オルティスタの獅子奮迅(ししふんじん)ぶりに火を()けられた。


「───え、いやアンタ武器が…………」

「武器ぃ? それなら踊り子の体幹(たいかん)を活かしたコレ(全身)だよ」


 争いながら驚くオルティスタを他所(よそ)に置き、レヴァーラが兵士相手に踊り始める。回し蹴りからの裏拳。例の緑の輝きがこの舞踊(ぶよう)をより美麗(びれい)と為す。


「───こ、これは…………な、何と美しい」


 味方の兵達が無様(ぶざま)に殺られる様を()ながらレグラズ・アルブレンは魅了に()ちた。特にレヴァーラの死の舞、まるで映画の殺陣(たて)の如き(なめ)らかさだ。


 ───嗚呼…………自分もあんな風に動け(戦え)たら。沸々(ふつふつ)と湧き上がるその欲望。


「…………エン…ツォ(En…zo)


 (あこが)れから吹き出したレグラズの何気ない(つぶや)き。この一言以降、舞台(戦場)がひっくり返る。レグラズの全身から蒼き輝きが一挙に噴出(ふんしゅつ)した。


 細かった筈の目がグワッと()き出しと化す。瞳の白すら青へと染まった。雁字搦め(がんじがら)にしていた森の束縛(フォレアビッツ)を無造作に引き千切(ちぎ)る。


「「───なっ!?」」

「何事だアレは!?」


 ファウナ、オルティスタ。そして真似された体のレヴァーラが一番動揺(どうよう)をきたす。

 無理もない。レグラズとはただの男。何よりリディーナお手製の戦闘服(バトルスーツ)着装(ちゃくそう)していない。


 閃光(エンツォ)の発動条件を何一つして満たしてないのだ。驚くなと言う方が無理な話であろう。


「ウガァァッ!!」


 レグラズがホルスターから2丁同時に自動小銃を抜き、それを敵味方関係なく全て撃ち尽くす。弾倉(カートリッジ)装填(そうてん)し直すかと思いきや、何と小銃の角で手近な兵の脳天を殴り陥没(かんぼつ)させた。


 ───此奴、自我(じが)を失っている!?


 リディーナやレヴァーラの扱う閃光(エンツォ)とは様相(ようそう)がまるで異なる。憤怒(ふんぬ)形相(ぎょうそう)で暴れ狂う狂戦士(バーサーカー)と化したレグラズ。冷静(クレバー)な彼はもう何処にもいない。


「───ファウナッ!」

「…………」


 レヴァーラの呼び掛けに首を横に振るだけのファウナである。森の束縛(フォレアビッツ)流転(アルディビラ)も術者の精神力が相手を凌駕(りょうが)する場合のみ有効となる術式。

 暴走したレグラズにファウナは直感で結論を出した。───とても届くものではない………と。


 レグラズの暴走ぶりが止まらない。


 殺した味方のマシンガンを(うば)い、これまた2丁を構えて生きた砲台と化す。そんな荒くれ弾に当たる()を犯すことはないが、止めようにも近寄り難い。


 彼の肉体が限界を迎える時間切れを待つしかないのか?


「───『重力解放(ヴァレディステラ)』」


 此処でファウナが空を飛ぶ為の呪文(スペル)を唱えた。だが(せま)い部屋で宙に浮いて何とするのか?


「ガッ!?」


 何と此処で宙に浮いてゆくのは狂戦士化したレグラズであった。これなら精神力の優位性が不要だ。宙で水に(おぼ)れたかの様に足掻(あが)くレグラズ。

 そのまま天井に届くが駄々(だだ)っ子の如く暴れ散らすしか能がない。何しろ判断力(自我)を失っているのだ。どうすれば脱せられるか、考える行為が出来る訳ない。


 ───(うま)い! 

 ───これで後は残兵を狩るのみ!


 魔法少女(ファウナ)のファインプレイを心で称賛(しょうさん)し、再び雑兵狩りに切り替えるオルティスタとレヴァーラ。これにて完膚(かんぷ)なきまで勝敗は決した。


 全身の筋肉繊維(きんにくせんい)と関節を(くま)なく限界突破させてしまったレグラズは、息こそあれど動けなくなった。そのまま気を失い魔法も切れて床にへばり付く。


 残兵の首級(くび)を全て奪取(だっしゅ)する勢いのオルティスタとレヴァーラであったが、ファウナの蜘蛛の糸(フィディラガノ)によってあえなく拘束(こうそく)され捕虜(ほりょ)と化した。


 レグラズの暴走以外何もかもが最年少、ファウナ・デル・フォレスタの策略(さくりゃく)通りに事が運んだ。


 大事な使用人兼娘の様な存在である連中を解放して貰ったア・ラバ商会の女将(おかみ)。アル・ガ・デラロサの雇い主、レヴァーラ・ガン・イルッゾに揺ぎ無い契約を誓った。

 加えて西欧(せいおう)である本拠地とアジア・ロシアを結ぶ重要拠点である浮島を手中に収めた。


 ただ一つの不確定要素。

 レグラズ・アルブレンという危険な香り(ただよ)う不発弾。これはリディーナの出番、彼の解析(かいせき)は最重要事項となった。


 彼の力の根源(こんげん)はファウナ等と同じ自然体(ナチュラリスト)なのか? (ある)いは未知なる領域なのか? ───そもそも自然体(ナチュラリスト)すら解明出来ていないのだ。


 ◇◇


「───ふぅ……」


 誰もが床に付いているであろう深夜2時。独りファウナが全てを(さら)して、竜の口が注ぐ湯に身体を(あず)けている。


 初めての裸の付き合い以来、彼女は誰も居ない時間帯を見計らって湯に疲労を(ゆだ)ねるのだ。未だあの羞恥(しゅうち)払拭(ふっしょく)出来ずにいる。一応タオルを取る礼儀(マナー)だけは(わきま)えた。


 今回の浮島奪取(だっしゅ)

 オルティスタの再覚醒こそ()()()()に事を為したが、あの男(レグラズ・)の暴走(アルブレン)だけは想定外であった。


「何の()()も無しに発揮出来る力…………」


 風呂に浸かりながら源泉などと無駄口を(のたま)うファウナ。 

 頭を浴槽の(ふち)に預け全身の力を抜いて湯に肢体(したい)を浮かせている。『人類の力には紀元前からの歴史が在る』そんな世界の真理すら知り得た風な口を()く彼女にも判らぬ不思議は当然在る。


 好奇心───人を成長させる原動力。されど過ぎたる追及は時として不幸を呼び込む。


 ───ギィ………バタンッ。


「───えっ!? こ、こんな夜更(よふ)けに誰?」


 浴室の扉を開き、勝手に閉じる音が響く。浴室内の空気の流れが変わり、湯気が強制的に動き、ファウナに取っての(まね)かれざる客を呼び込んでゆく。


 だらけていた身体を(すく)(ちぢ)こませるファウナであるが、それがかえって湯音を立てて相手に気付かせる要因になるのを忘れている。


「だ、誰だ? そこに居るのは…………?」


 ───え………そ、その声。


 相手もあからさまな狼狽(うろた)え声だ。こんな時間を狙って来たのだ。向こうも独りの心地良さを望んでいた。


「れ、レヴァーラ…………」

「ふぁ、ファウナ…………か」


 心赦す相手だと知る安堵(あんど)と、それが故の緊張が入り混じる声が同時に発せられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ