表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/234

第58話 狂気と狂気の狭間で揺れる

 暗い、暗い、何処までも暗い闇の中にある小部屋。


 たったこれだけの説明だと監獄(かんごく)かと思われるやも知れない。しかしそこにはベッドが在り、短い金髪の男が割れた腹筋を(さら)しながら親指を(くわ)えていた。その足元を白い子猫が幾度(いくど)も回る。


 この部屋、窓こそ無いが実は母なる星(青い地球)を上から見下ろす位置に存在するのだ。


 この部屋(コロニー)の主、ヴァロウズの圧倒的No1、エルドラ・フィス・スケイルである。闇しかないこの部屋に於いて、彼の輝く金髪と白い毛並みのジオはやたら目立つ。


「───レヴァーラ…………ウチらと本気でやるみたいやな」


 また暗闇に光る影が増える。No4でエルドラと恋仲であるパルメラ・ジオ・アリスタだ。嫌気の差した声色でエルドラの隣へ座る。その(ひざ)の上にピョンッと飛び乗るジオであった。


「全く以って困った話だよ。僕はねパルメラ、レヴァーラ・ガン・イルッゾは人を進化させたいという純粋たる(こころざし)が在るって信じていたんだ」


 パルメラはジオの顎下(あごした)(もてあそ)びつつ、愛する男の言葉に耳を(かたむ)けている。まるで子供をあやすかの様に何度も(うなず)きを返す。


「せやな…………。せやからこそ彼女の元に()(さん)じた力ある連中(ヴァロウズ)やった筈なのに。要らんゆうて斬って捨てる。随分(勝手)なもんやでホンマ(本当に)


 パルメラが『斬って捨てる』を仕草で表現する。実に腹に()えかねたその態度。


「ま、せやかてあの外連味(けれんみ)たっぷりのレヴァーラはんも、そして例の魔法少女(ファウナ)も貴方の足元にも及ばんやろ?」


 憤怒(ふんぬ)したかと思えば次は首を(すく)めてヤレヤレ───慌ただしく情緒(じょうちょ)が働く。


「───それはどうだろう…………。()()()のレヴァーラは兎も角(ともかく)ファウナという娘は人間。人には伸びしろ(不確定要素)が必ず存在する」


 比較的能天気なパルメラとは一線を(かく)す明確なる態度。これが星を落とせし者の真なる恐ろしさ。圧倒的自信の上で胡座(あぐら)をかこうとはしない。


「───ただ、それはそれとして少し仕置(しおき)が必要かな」


 エルドラは静かに立ち上がり白いシャツと緑のマントを着衣した。加えて緑色のオーブを左掌の上に浮かべる。そのオーブ……あくまで緑なのだが、まるで地球そのものを()べている様に映らなくもない。


「この辺か………」


 とても適当にオーブの表面を軽く触れる。たったそれきりの何気(なにげ)ない行い。


 ◇


「───な、何この揺れ!? じ、地震?」


「いや、そうではあるまい。こんな表面的は揺れは在り得ない」


 一方、二人っきりの医務室で愛を謳歌(おうか)していたファウナとレヴァーラ。レヴァーラが何も無い宙を指で軽く小突(こづ)くと不意に小さなモニターがその場に出現した。


「───派手にやってくれたわ。エルドラが島の西南部に星屑(ほしくず)を落とした。今、周囲を監視させてるドローンの映像に切り換えるわ」


 それはそれは壮絶(そうぜつ)な光景である。この島の西南部といえば本来更地(さらち)。けれどもその平地が例外なく海に沈み、山であった場所が海に突き出す(みさき)と化した。


 ファウナの顔が青ざめている。自分の魔法の威力と比較しているのだろうか。


「派手? これ程なら派手とは言わん。落とされた(デブリ)(いく)つだ?」


 レヴァーラの方は随分(ずいぶん)落着き払ったものである。これしきの被害、エルドラに取っては児戯(じぎ)に等しいと認識している。


「恐らく3つね。まあ確かに貴女の言う通りだわ。これは私達に対する(おど)しって処かしら?」


「そういう事だ。奴に取っては(ごみ)にすらならんチリを落としたお遊びだよ。こんなもので我が(おく)するなどと思っているまい」


 素早い手つきでカチャカチャとキーボードをリディーナが叩いている。被害状況を数値化しているらしい。寝たままの姿勢でレヴァーラが独りニヤつく。


「それにしても軍の連中が迎撃の暇もなかったというのは(うなず)けるわね。光ったと同時に落とされては撃ち落とす何て到底(とうてい)不可能(ふかのう)


 相棒(バディ)であるレヴァーラが笑っているのでリディーナもすぐさま落着きを取り戻した。


「なぁに………物事には打つ手が必ずあるものだ。それにこれは具合の良い()()()()をしてくれたものよ。丁度この辺りは入り組んだ地形に直して、港町を建造するつもりであった」


 レヴァーラが途方もないことをアッサリと言ってのけた。『地形を直して港町を建造する』爆発の芸術師であるディスラドならいざ知らず、今のレヴァーラにそんな力が潜在(せんざい)するとは思えない。


「ククッ………。この500mはある崖、実に良い景観(眺め)でないか。黒い竜(ドラゴン)を降ろせばさながら暗黒の島。愚物(ぐぶつ)から見ればさぞや恐怖の坩堝(るつぼ)であろうぞ」


 ───ドラゴン? 暗黒の島?


 何かに取り()かれたかの如くレヴァーラが口角(こうかく)を挙げている。ファウナは大変珍しく───いや初めてかも知れない。レヴァーラに恐怖を(いだ)いた。


 フォルテザは人の(すい)を集約した先進都市を目指している。しかし暗黒の島とは何とも古めかしき物言い。


 ファウナの想いが及ばぬ処でこの黒髪の女は、その緑の瞳の先に何を思い描いているのであろう。


「───いつまでもこうして(寝ている)はおれぬ(訳にはゆかぬ)。ファウナよ、もう()()()か?」


 怪しげな笑顔のままでレヴァーラがファウナを(あお)る。一刻も早く魔法で怪我を治せと要求しているのだ。


「───は、はい…………。『森の美女達の息吹(レクプレーノ)』」


 慌ただしい返事のファウナ。目を閉じて自分の怪我に意識を集約する。森の樹々の枝達が腹の傷を(おお)った様な不思議な喧騒(けんそう)。ファウナの傷は完全に()えた。


 後は身体を起こしてレヴァーラに同じことを(ほどこ)すだけだ。天斬(てんざ)が命と引き換えにした置き土産の傷は完璧に一掃(いっそう)された。


「おおっ、こうもアッサリとは。森の癒し(レクプレーノ)の効果は絶大だな」


 自身の胸元を覗き込み、さらに手足も動かして完治したことを確認するレヴァーラである。その行為の中途、ファウナの視界にレヴァーラの胸元が飛び込んで来た。


 迂闊(うかつ)でかつ不謹慎(ふきんしん)な自分を恥じたファウナであった。そんな乙女心など露知(つゆし)らず。再びレヴァーラは目前にモニターを呼び出す。


「デラロサ、アル・ガ・デラロサは出られるか?」


 このモニターは音声認識機能が在るのか。モニター越しに銀髪と迷彩色を混ぜた頭の男が映る。


『───これはこれは我等が女神レヴァーラ嬢。お加減はもう(よろ)しいので?』


 やけに減り下ったデラロサ現る。うざがれらそうな程の犬っぷりを披露(ひろう)してきた。この機械馬鹿は格納庫に居る模様。この間、奇跡を呼び込んだマリアンダの姿も見えた。


挨拶無用(あいさつむよう)。貴様のツテとやらに物資の調達を頼みたい、頼めるか?」


 (うやうや)しく頭を下げるデラロサを軽くいなす(スルー)レヴァーラ。それはさておき食い入る態度で頼みごとはしっかりやるのだ。


 先程ファウナにフォレスタ家の威光(いこう)頼みで、この島の自活を(うなが)したとはいえ、そんなもの直ぐさま機能する訳がない。


 現時点で外部との接点と言えば、このアル・ガ・デラロサを置いて他は在り得ない。


『頼めるかとはまた(さび)しきことを(おお)せになられる。何時如何(いついか)なる時でもこのデラロサ、貴女の言いつけとあれば順守(じゅんしゅ)するのが当然の役目』


 遂に片膝を付いて恭順(きょうじゅん)の意すら示す。その後ろでマリーが(そむ)れた顔をプィッと(そむ)けた。他の女にこうも肩入れしているのを見てて面白い道理がない。


 そんなやり取りをファウナ・デル・フォレスタは全く気にも留めない。彼女は星屑が落ちる瞬間の映像を頭の中で反芻(はんすう)するのに躍起(やっき)であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ