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第57話 フォルテザ

 かくしてファウナ・デル・フォレスタ発案によるヴァロウズNo2、爆発の芸術師ディスラドに(くい)を指す作戦。


 加えてNo3天斬(てんざ)掃討(そうとう)作戦は、此方側の犠牲者を出す事なく無事成功を収めた。その後、世界はレヴァーラ・ガン・イルッゾと地中海に浮かぶ島の話題で持ち切りとなったのは言うまでもない。


 但し手放しでレヴァーラを支持かといえばそうとも言い難い。『詰まる処、あの踊り子が()いた種が悪い』と糾弾(きゅうだん)し続ける者も当然いた。

 まあ人は勝手な意見を述べるもの。それも自分に降り掛かってない出来事なら猶更(なおさら)だ。


 さらに結局の処『元連合軍2拠点を瞬時に墜としたあの金髪優男(エルドラ)こそ最強だ』とする意見も未だ()えない。

 当然だ、現状それが真実なのだから。


「───まさかファウナちゃん(回復要員)同伴(どうはん)させた貴女達が此処まで手酷(てひど)くやられて帰って来るなんてね。こっちはあの馬鹿野郎(爆弾魔)を相手にしたのよ」


手厳(てきび)しいなリディーナ…………。それよりファウナの容態(ようたい)はどうだ?」


 レヴァーラ陣営とリディーナ陣営。


 互いに無事帰って来られたとはいえ、胸を穿(うが)れたレヴァーラと腹を斬られたファウナ・デル・フォレスタは、およそまる2日程、未だベッドの上だ。


 一度覚醒(かくせい)したものの、再び意識を失ったファウナの隣で安静にしているレヴァーラ。自分を差し置きファウナの様子を気にしている。


 その言葉を聞いたリディーナが「はぁ…………」と(たま)らず溜息(ためいき)一つ。


「───ファウナ、ファウナって貴女最近入れ込み過ぎじゃなくて? 怪我の具合だけなら貴女の方が余程重体なのよ」


 リディーナに顔を覗き込まれ指摘を受けたレヴァーラが、珍しく自嘲(じちょう)気味の笑いを浮かべる。


「フフッ………傷よりも痛い事を言う。───だが我々はファウナのお陰で命を拾ったのだ」


「そんなの私の方が重々(じゅうじゅう)判っているつもりよ。この子、出血過多と魔力(マナ)の使い過ぎだから意識が中々戻らないのよ」


 今回の戦いに於いて余り活躍の場がなかった様に思えるファウナ。しかし(かえり)みると彼女の裏方(うらかた)があったればこそレヴァーラは勝利に至った。


 天斬戦との序盤(じょばん)、レヴァーラの援護(えんご)に回り輝きの刃(マディラス)で打ち合った。その後、AI兵達との争いでも魔法を使い倒れた彼女。


 しかしながらNo10音無しのジレリノに(たく)した人数分の蜘蛛の糸(フィディラガノ)は健在で在り続けた。地味だがとんでもない事をやってのけた。


 リディーナは実に抜け目ない行動を取った。


 意識が無いのを口実にファウナの生体検査(スキャン)を強行した。No持ち(ヴァロウズ)の様な特殊変化を探した訳だが、遂に発見出来なかった。


 結局の処、ファウナの能力に於ける根源(こんげん)を探り当てるに至らなかった。そういった意味合いでもレヴァーラが酷くこの娘に肩入れするのを危険に感じている。


 レヴァーラとファウナ───力の有り様がまるっきり異なるこの二人。レヴァーラはこの少女に自分にはない希望(片思い)を感じている模様だが、水と油が最後の最期まで混じり合うとは考えにくい。


 今、こうしている間もベッドから伸ばした左手でファウナの右手を握っているのだ。この大の人間嫌い(レヴァーラ)がこれ程一途(いちず)と化けるのは計算外である。


「──うっ……。こ、此処は?」


 緩々(ゆるゆる)開くファウナの碧眼(へきがん)、白い天井が映り込み(まぶ)しさに(まばた)きする。


「ファウナ、ようやく目覚めたか。此処は我等が居城、お前2日も寝ていたのだ」


 声の質こそ(おだ)やかだが、あからさまな歓喜の入り混じっているレヴァーラである。


「──ふぅ……じゃ、後はどうぞごゆっくり」


 ──何だアレは? ()いているのか。


 リディーナがこの場を去る。目覚めたファウナに(ねぎら)いの一言はおろか、皮肉の一つも言うことなく背中を向けた。


「──れ、レヴァーラ。わ、私……」


「言うな、弱気しかない言葉なぞ聴きたくない。飛行機の中でのやり取りをもう忘れたか? 貴様のお陰で我は命を失わずに済んだ」


 天井を向いたままの姿勢で弱気な声を吐くファウナ。実の処、レヴァーラの方を向けない程、怪我の後遺症(こういしょう)は残っていない。


「で、でも……」

「お前、このレヴァーラに幾度(いくど)、礼を要求すれば気が済むのだ? 私に取って貴様という存在は、まさしく神が()らした蜘蛛(くも)の糸だ」


 あの高飛車(たかびしゃ)なレヴァーラが、これだけファウナの事を()千切(ちぎ)っているのだ。堂々と正面切って声を掛けてやれば良いのに、此方も天に向けて話しているのが滑稽(こっけい)である。


「……う、うぅっ」


「何だ(うれ)し涙というものか? 我は感涙(かんるい)にむせる事を知らぬ。感情が希薄(きはく)で済まんな───今はこうして強く握り締めた片手だけで(ゆる)してくれるか」


 レヴァーラから身に余る言葉を受け取ったと感じたファウナ、涙と嗚咽(おえつ)がどうにもならず、熱でもあるかの如く全身の火照(ほて)りを感じる。


 その様子をさぞ愛おしく見つめるレヴァーラとて、本来なら今直ぐその身を起こし、この胸に強く(いだ)きたい衝動(しょうどう)を抑えているのだ。


 実にじれったくて仕方がない。指を(から)めて強く握るのが、今出来る精一杯の愛の形(愛情表現)であった。


 お互いの温もりがその一点に集中する。それこそ()の証であり、幸せを共有出来る至福(しふく)の時間。手が溶け合い繋がるのではないかとさえ感じた。


「──れ、レヴァーラ。つ、()は何をすれば良いの?」


 気恥(きは)ずかしさをどうにか払い、ファウナの方から沈黙を(やぶ)る。ファウナの告げる『次』とは間違いなく、()()()()()という謎掛け。


「この街を『フォルテザ』と命名すると決めた」


「──えっ?」


 レヴァーラの応えは如何にもワザとらしい肩透(かたす)かし。遂に我慢(がまん)し切れずファウナが右を向いた。


「イタリア語のForza(勢力)と、この街に世界が知らぬ新たな(文化)を吹き込む試み(Test)を込めた名だ。何れこの島の名すら我が変える」


 地中海最大とはいえ、所詮(しょせん)はただの島。世界の広さと比較したら笑い者となりそうな場所でこの女は、世界を牛耳(ぎゅうじ)風呂敷(ふろしき)を開く。恐らく彼女の頭の中には、この島を中心とした地球儀(ちきゅうぎ)が回っている。


「気がふれたとでも思っているか?」


 此方もようやく左側を向く。地中海の如き蒼き瞳の底が、緑の瞳を(とら)えて離さない。


「リディーナは世界最高水準の人工知能技術を引き継いでいる。それにこの間、仮にも配下と化したアル・ガ・デラロサ。奴は傭兵稼業(ようへいかぎょう)と背後に巨大な後ろ盾(コネクション)が在る」


 リディーナが連合国軍の(すい)を集めたものさえ超えた能力を扱えるのはファウナも理解している。しかし頭脳だけはどうにもならない。


 それを活かす地盤が重要だ。銀髪と迷彩色(めいさいしょく)の混じる頭の男が、それに応じられるとレヴァーラは言う。


「──資金も有る。我を創りし(じじい)が残したものだ。文句は言わせぬ」


 何もかも見透かす蒼い瞳の前で嘘を告げるは愚行(ぐこう)。人の子はではない本質(サガ)をサラリと言ってのけた。


「ただ大陸と結ぶ橋は(つい)えた。寄って自活(じかつ)も必須……」


「それはお前のフォレスタ家の威光(いこう)に一任すると言って下さいっ!」


 ファウナの声色にようやく戻る活力。今度はレヴァーラに喰って掛かる番であった。台詞を(うば)われたレヴァーラが思わず「フフフッ……」と緩み、続いてファウナも笑顔に変わった。

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