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第44話 陽出突きと箒星の如き剣

 ヴァロウズNo3の剣士、天斬(てんざ)を倒すべく日本へやって来たレヴァーラ達とファウナ一行。


 しかし気が付けば日本の兵士、自衛隊員を相手取る羽目に(おちい)辟易(へきえき)するオルティスタとラディアンヌである。


 恐らくこの連中は氷山の一角に相違(そうい)ない。


 今時、自衛隊と忠義(ちょうぎ)(かたまり)である武士を履き違えている連中なぞ、そうそういる訳ないのだ。第一、彼等を斬った天斬ですら『この国に武士道など在りはしない』と言った程だ。


 寄ってこの連中……余程自意識高いか、(ある)いは真実の阿呆(あほう)なのかも知れない。


「──グッ!? ば、馬鹿な? 音もなく足元からッ!?」


 二人を取り囲んでいたそんな隊員の人影から黒づくめの女が飛び出し、親指目掛け正確に得物(えもの)を当てた。すぐさま他の影に飛び込み消え失せる。


 No9(アノニモ)仕業(しわざ)で間違いないのだが、隊員の結末に難がある。普段、彼女が扱う武器はダガー。本来ならその親指、ズバッと斬られていた筈なのだ。


 なおアノニモの効果音は、全てジレリノ(音使い)が音量をゼロとしているので音無しが当然なのだ。


「──ハッ!」

「そ、そうかっ! 何て簡単な理屈っ!」


 アノニモの行動の意味する処にすぐさま気付いた二人である。相手を殺せない、それ処か無力化するにも生身相手じゃ手や腕を叩き斬る訳にもいかない。


 そんな事をすれば悪行(あくぎょう)とみなされ、天斬と同じ側の連中だとあっという間に世界中へ拡散するだろう。だが指や手を弾き、武器を持てなくしてしまえば良い。


 アノニモは(さや)に納めたままのダガーで相手の親指をへし折ったのだ。実にシンプルなやり方である。次の標的の人影から海豚(イルカ)の様に跳ね出ると、次は手首の辺りを痛打した。


 そんな動揺の(すき)を突いたラディアンヌがとある隊員の背中に回り込み、手刀で首筋に当身(あてみ)を入れる。悲鳴を上げる(いとま)も与えず気を失わせる事に成功した。


 オルティスタは己の得物に通わす熱源をすぐさま消してから、相手を殴打(おうだ)し始める。()の入ってないこの剣(ヒートソード)なんて所謂(しょせん)鈍器(どんき)だ。これで相手を殴る位なら、世間(報道)とて認めてくれるだろう。


 ──クッ! ならば我等が!


 ライフルを構えていた自衛隊員が発砲した直後、そいつの足元から出現したアノニモ。次は(からだ)でなく、その得物自体を激しくダガーで(みね)打ちした。


 ライフルが暴発し使い物にならなくなる。加えてトリガーに掛けていた指をへし折る。これでこの兵士も使い物にならないであろう。


 なれどアル・ガ・デラロサの経験則(けいけんそく)通り、守る一点に()けて、彼等は引くことを知らぬ筋金(すじがね)入りの戦士なのだ。


 これが傭兵(ようへい)徴兵(ちょうへい)とは異なる処だ。此方側の不利と知るなり、早々に壊乱(かいらん)し散り散りと化して逃走するのが関の山。

 だが国を、家族を、己が正義を守ると腹を(くく)った自衛隊は、逃げ打つという思考が働かないのだ。


 隊員の1人がライフルを(いさぎよ)く捨て、すぐさま自動小銃に持ち替え、自らの足元を銃弾が無くなるまで撃ち尽くした。


「う、ウグッ!? や、やってくれた()


 凄腕(すごうで)暗殺者(アサシン)、アノニモの気配を察知(さっち)出来たとは考えにくい。ただいち早く影から影へ移れる敵だと判断するや、(いち)(ばち)かの()けに出たのだ。


 左腕を撃たれ血を流しつつもアノニモは、ダガーの峰でそいつの顎下(あごした)を叩き割り気絶させた。これは名もなき一兵士の判断と勇気を(たた)えるより他ない。


「──ほう、No9(アノニモ)を傷物にした? その意気や良し! だがやはりそこ迄だな……ムッ?」


 (しばら)く遠目にその様子を観察していた天斬。お目当ての()を今さら探し当て口角を上げる。ツギハギの跡が残る(ほお)(ゆる)ませた。


 ──あの(剣士)が居るではないか! よもや向こうから訪ねて来るとは何たる強運!


 天斬、自分が余りに日和見(ひよりみ)が過ぎた事を自覚し、興奮と同調させた自嘲(じちょう)の笑いも共に浮かべた。手合わせを願った紅い剣を握る女剣士。


 自衛隊を()()()()()()で叩いている彼女に気付けなかった自分を恥じた。


 音もなく立ち上がる否や、例の不思議な剣の(つか)を握る。しかし光の収束が見えない、此方は峰処か何も無いのだ。


 ──刹那(せつな)、オルティスタの前に立ち(ふさ)がる隊員の背中に、その柄を向けると蒼い輝きが瞬時に放たれ、隊員の背中毎、オルティスタの頬を(かす)めた。


「な、何だコレは!?」


「天斬、いざ、尋常(じんじょう)に参るッ!!」


 ドォッと命を失った隊員がオルティスタに()し掛かる。オルティスタには自分の顔を傷物にされた感傷(かんしょう)(ひた)る時間すら与えられない。


 ──しかもだ。

 笑い死にしている自衛隊員の顔がオルティスタを不快にさせる。自分の命を()した見返りに敵へ傷を負わせたことがそれ程嬉しいのか?


 これでは武士処か第二次戦時中の特攻隊(バンザイアタック)狂気(きょうき)である。彼等は望んで()()に命を捧げた訳では決してないのだ。


 派手な名乗りを挙げる天斬。

 脚運びが実にしなやかでジレリノの力を借りた訳でもないのに最小の足音で迫り来る。けれどそんな優位性よりも、彼はこれから剣を(まじ)える相手への敬意を優先したのだ。


 遂に蒼白き光の刃を抜いた(出した)天斬。オルティスタが「邪魔だ!」と言いつつ、ただの重りと化した身体を蹴飛ばし天斬に対する盾と為す。


 この行為、流石にSNS上では『不可抗力(ふかこうりょく)』とか『正当防衛(せいとうぼうえい)』と呟いて(Postして)欲しい処だ。ふとそんなどうでも良い事が頭を()ぎった。


 光だけの剣、(すなわ)ち実体の無い剣。

 当然だがオルティスタの赤い刃(ヒートソード)で斬り結ぶ。何て事は望めやしない。


 ──なれば此方から先に踏み込む! 炎舞(えんぶ)・『昇緋(しょうひ)』!


 相手がほんの(わず)か自衛隊員の遺体へ気を取られたものと判断した上で、これ迄見せた事のない鋭き突きを無音で見舞う。


 炎が急に立ち昇り、見る者を驚かせる勢いになぞらえた技名なのだ。


 それに対する天斬とて同じ思考を(めぐ)らし、突きを繰り出す。どちらの剣が先に相手を()くか? 実に単純なる勝負だ。


 オルティスタの(たぎ)る刃。長さだけなら此方が上だ。だが天斬の剣、伸縮自在であるのを既に認知している。それ故、勝負の行方が見た目通りだとは言い難い。


 ──ぐぅっ!

「──ご、互角とはやってくれる!」


 天斬の光を収束した刃がオルティスタの左脇腹を貫く。オルティスタの滾る剣(ヒートソード)は、天斬の右肩辺りを刺し貫いた。


 当たったタイミングで言うなら確かに互角。けれど負傷の度合いはオルティスタの方が明らかに重度に映る。吐血しながら距離を取るオルティスタ。


 回復が期待出来ないとすれば、これ以上の戦闘は出血死に繋がりかねない。普段勝気(かちき)()く彼女だが、無駄な命の張り合いなどしない。一旦、ラディアンヌに代わって貰う策を講じた。


 だが言うまでもなくラディアンヌは無手の使い手。単純な間合い(リーチ)は圧倒的に天斬が上。それでも決して怯まず軽快なる足取りで(ふところ)(うかが)う。


「──そこ迄だッ! その勝負、このレヴァーラ・ガン・イルッゾ御自(おんみずか)ら買って出るッ!」


 曇天(どんてん)の空から突如(とつじょ)降り注いだ黒き人影。その声だけで相手をひれ()す迫力がある。それは天斬とて良く見知っている声であったが、着衣に異様な違和感を覚えた。


 両肩、両脚を黒い硬質な何かが(おお)い、その(くせ)関節部等は柔らかな素材で融通(ゆうづう)が利きそうだ。黒く長い髪の毛を後ろで(たば)ねているのは昔と何ら変わりがない。


 右腕にはインドのパタ※を彷彿(ほうふつ)させる腕からそのまま伸びた直刀。左手にはこれまた珍しい柄の先端に輪っかが付けられた短刀を握っていた。


 ※籠手(こて)の中に持ち手があるタイプの剣。腕の力をそのまま載せられるが、手首の動きが意味を成さない。


「レヴァーラッ!? まさか貴様自ら討って出るとは!?」


 姿形こそ良いが宙に飛び出しては恰好(かっこう)の的と成り得る愚かな行為だ。しかしそんな理屈など吹き飛ぶ程の圧に満ち(あふ)れていた。

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