第34話 No6の本気と欠番の出撃
己が口の中に備えた砲台で、あの高飛車な神聖術士を少しからかってやろう。
ヴァロウズのNo6、機械仕掛けの生命体に化けたチェーン・マニシングはそう閃いた。しかしアッサリ、パルメラに見破れ、──面白くない! と遠吠えを吐く。
だが同時に──此奴伊達にNo4を張っていないなと、見縊っていた自分を認めた。
「──おい、そこのデカブツッ! そう、お前だお前っ! このデカいライオンの相手飽きたわ。後はでっかいお前に任せたっ!」
「は、はぁッ!?」
一番巨大な奴から不意に『デカブツ』と呼ばれ、可動域ギリギリまで頭を捻らすオルティスタである。『デカいのをでっかいお前に任せた』などと実に幼稚な言葉で押し付けられた。
──お前にだけはデカいって言われたくない!
まあ確かにこの戦場でチェーン・マニシング、ジオの次に大きな自分ではある。だがデカいという言葉に悪意めいた何かを感じ、思わず自身の胸元に視線を落とした。
ついこの間、最も矮小な身体を晒したチェーンにそうおちょくられ、何故か立つ瀬なしと感じて嗤うオルティスタである。
「判った判った……狼、お前に任す! ファウナも頼むぞ!」
力強く言い放ったオルティスタ、チェーンと入れ替わりで獅子狩りに鞍替えした。
「さあ此処に乗りやがれ小娘!」
白狼の首と銅の付け根辺り、何と随分立派な椅子が生えてきた。
「──え? こ、此処に私が?」
「急げよ早くッ! 大丈夫だ、振り落としなんかしねえよ」
サッサと座れとチェーンが急かす。確かにベルトでしっかりと固定されそうだし、その言葉に偽り無しだとは思う。
ただ座ったが最後、自由を奪われるんじゃないかと懸念するファウナ。疑念を抱きつつも言われるがまま着座してみる。
──えっ? 凄い、両脚が固定されたのに、こんな自由に立ち上がれるの?
足の裏に超強力磁石でもあるかの如く張り付いているのが理解出来た。これならチェーンの圧倒的な機動力を活かして自分も好きに戦えそうだ。
「ヨオッシャァァァッ!! いっくぜぇッ!」
──うっわ!
四足歩行の長所を存分に活かしチェーンが他を置き去りにする勢いで奔る。その際の圧で綺麗なファウナの顔が大きく歪む。
──風の精霊達よ、私に加護を……。
ファウナが心中で詠唱を捧げる。自身の前に風の精霊で生成した目には映らないキャノピーを拵えた。
大きく飛翔しパルメラ向けて一目散に襲い掛かる巨大な白狼。
──そら迂闊やわ!
下に位置するパルメラが、すかさず守りの星屑に刻んだ次発のインドラの矢を繰り出す。空中で向きを変える術無しとほくそ笑む。
ブワァー!!
「な、何やと!?」
チェーンの背中に生えていた鬣の様なもの。コレが瞬時に青い炎を噴き出してブースターと化した。宙で真横にスライドしたのだ。
「はぁっ!? 何今の動き、狡過ぎないっ!?」
古臭い二足歩行とマリーから揶揄されたグレイアードを乗機にしているアルが、顎が外れんばかりに口をアングリさせた。
加えてさらにパルメラとの距離を詰めてゆく。その背中には輝きの刃を翳したファウナが斬りつけようと上段に構えていた。
カキーンッ!
不発と終わったファウナの剣技。タイミングは完璧だったが、またしても守りの星屑に邪魔立てされた。
「クッソ! 次は外すなよっ!」
「……だ、だけどあの星々をどうにかしないとっ!」
チェーンに煽られたファウナであるが、パルメラの周囲を渦巻く星屑達が余りにも脅威過ぎる。
「チィッ! しゃあねぇなッ!」
あれだけ跳ね回っていた白狼が一転、地面に着地しガシッと爪を立てて踏ん張る。続けて狼の口を裂けんばかりに大きく開いた。中から黒光りする銃口が突き出して来る。
──な、何を!?
「──こ、今度は何をおっぱじめる気だ。あの狼ィッ!?」
乗騎しているファウナと地下の格納庫から観戦を続けているアル・ガ・デラロサに戦慄が走り抜ける。
先程まで撃ちまくっていた光線砲とて特異と言える威力であった。
──まだ……この上があると言うのか!?
ギュイーン……。何かを充填してるらしき物音が聴こえるのだが、博学のファウナとて、こればかりは理解の範疇外だ。
ズギューーーンッ!!!
これまでの倍はあろうかと思しき極太の光線が、たった独りの女性目掛けて理不尽にも撃ち出された。これを防ごうものなら余りにも異常が過ぎる。
なれどもし仮に貫いたとしても、それはそれで余りにも酷だと言えよう。
──結果、パルメラ・ジオ・アリスタの、影も形すらも喪失した。
「──ッ!?」
「や、殺った……のか!?」
その余りの眩しさに目を細めるファウナと、先程からモニターの画像に釘付けであるアルケスタとデラロサである。
「──惜しいなぁ……ファウナ・デル・フォレスタ。ウチの雲は至る処にあるんやで」
特徴的な訛りと共に、ファウナに突き付けられた輝きの刃。
チェーンによって消されたと思われたNo4は、創造神ブラフマが創りし幻影であった。加えて今のパルメラがファウナに突き立てようとしている蒼白い剣も同じ。
創造神ブラフマに作らせた輝きの刃なのだ。変幻自在が過ぎやしないか?
──や、殺られるッ!!
迂闊にも両目を閉じてしまったファウナ、完全なる戦意喪失。これまで女神候補生として自在の強さを誇ってきた彼女が見せる、ごくありふれた少女の恐怖だ。
「なっ! 何やとっ!?」
「──ふぅ……ごめんなさいファウナさん。戦闘服の装着に手こずって遅くなってしまいましたわ」
驚きの感情すら捨てたのではなかろうかと思われたパルメラの動きが膠着した。
ファウナの胸まであと数cm……そんな単位であったパルメラの繰り出した輝きの刃を手甲に装着した盾らしきもので押さえつけたのは、何とあのリディーナであった。
但し全身に装備しているものが普段とまるで異なっている。まるで彼女自身がロボットさながらの格好であった。銀は頭髪だけあったが此処に至りてほぼ全身に及ぶ。
全身を覆う超強化プラスチック製の武装。趣味が良いのか、はたまた悪いのやら……。普段の医師やエンジニアを気取る彼女からは想像もつかない姿だ。
「──ッ!?」
「まるで21世紀の……。す、好きでしょアル。ああいうの」
もう瞳孔が開きっぱなしの元上官をからかおうとしたマリーであったが、もう彼女とて訳が判らず口を噤んだ。
「ば、馬鹿を言うんじゃありませんッ!! お、俺は断然硬派なのッ!」
アルが狼狽えつつ告げる『硬派』とは? リディーナの真の姿を熟知しているレヴァーラ以外が魂すら抜けた様な顔で硬質化した。
「フフッ……ヴァロウズのNo0。閃光のリディーナ様、見…参」
No1すら凌ぐ壮絶さを秘めた0番目。リディーナが目を細めて高見の冷笑を浮かべるのである。




