表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/234

第32話 繰り返される哀しき怨嗟

 わざと自分に攻撃が向けられる様に仕向けた上で、輝きの刃(マディラス)による不意打ちを狙ったファウナ。


 失敗に終わったものの、己が力を鮮やかに示す、実に見事な先制であった。


「詠唱必須の魔導士の女が独りで何しにと思ったが、成程成程(なるほどなるほど)、そんな化け物(連れ)が居たって訳か」


 既に(たぎ)る刃を抜いているオルティスタが慎重に、パルメラ達との間合いを詰めつつ語りを入れる。力任せに飛び込みたいのは山々だが、(トラップ)を仕掛けているのも否定は出来ない。


「あんた何言うてるの? ジオは化け物と違うでぇ。獣人(じゅうじん)の化けた姿や。ま、せやけど……普段は白い子猫の方が多いけどなぁ」


「──獣人?」


 そんな相手を気にしている素振(そぶ)りすら見せず、燃える獅子の正体をあっさり明かすパルメラである。『獣人』という言葉に、獣人に近しいNo6(チェーン)が思わず反応した。


 もっともチェーン・マニシングは周知の通り、獣ではなく獣の形を成した機械に化ける次第だが、それを()()()と勝手に解釈したらしい。


「そうか……だがそんな事はどうでも良い。そんな獅子(ライオン)一頭連れて来た処で一体何になる?」


 ニヤリッと(わら)うオルティスタのこの(あお)りはもっともなのだが、これは考えが甘過ぎたとすぐ思い知る羽目になる。


「創造神ブラフマ、(なんじ)(かたち)、これに具現(ぐげん)すべし『異質なる創(チェザック)』」


 ()躊躇(ちゅうちょ)してるのを良いことにパルメラがサッサと次の詠唱を完遂(かんすい)させてしまった。けれど詠唱内容から察するに直接的な攻撃魔法でないと思えた。


 それは確かに正しい判断である。

 だがこれが、オルティスタの(あお)りに対するパルメラなりの答えであった。


 雲の様な煙がジオと呼ばれた獅子に取り込まれる。するとチェーン・マニシングが化けている白狼並みの巨大化を果たし、しかもあろうことかその両隣の煙達すら同じ姿を成したのだ。


 ──し、しまった!


 敵の出方を(うかが)うなどと悠長(ゆうちょう)していた自分をファウナは、後悔せざる得なかった。


「ウフフッ……これでもウチの方が不利って言い切れるんか?」


 巨大なキマイラ的な化け物を3匹も(したが)えたパルメラが、早くも勝ち誇り顔で(まく)し立てる。普通の獅子の大きさですらファウナの輝きの刃(マディラス)を弾き返した。


 それが15m級と化し、増してや3体も(そろ)ったとなれば、ファウナ達の数による優位性などゼロに等しい。


「チェーン・マニシング! 貴女にあの内1匹だけの相手を頼むッ!」


「──なっ、何で下の奴(No7)に僕が従わなきゃなんないんだッ!?」


 こうなったら上下なんて関係ない。誰をどう使おうとも負ける訳はいかない、フィルニアが(うった)い掛けた。


「それは貴女にしか出来ない仕事だからですッ!!」


 それは何の忖度(そんたく)もないフィルニアの本音の叫びだ。何しろ見た目からして、その巨大キマイラ共の相手が真っ向(つと)まるのは、チェーン以外に考えられない。


 だがこれを聴いたNo8(ディーネ)が思う。


 ──何て(うま)いことを言うの、フィル()()()! これじゃプライド高いNo6(チェーン)の断る(理由)が全くないわっ!


「チィッ! 仕方ねえなァァッ、フィルニアッ! これでお前借り一つだかんなァッ!!」


「ガァァァァッ!!」


 15m級同士の噛み合いによる激しくぶつかる音が木霊(こだま)する。その異常さに言葉を失うフィルニアとディーネ。やはり小細工抜きでNo6(チェーン)の力は偉大だと舌を巻いた。


 これでジオという巨大獅子の1体は、どうにか抑えられそうだ。

 しかし未だ2体の強大たる()を前に押し出した上で、神聖術士パルメラ・ジオ・アリスタは、好き勝手に魔法を唱えることが出来るのだ。


「──『森の刃(ラデスタ)森の刃(ラデスタ)』」


「おっと!」


 ファウナがジオ達とパルメラを少しでも分断しようと、アノニモ襲撃の(おり)にも使った鋼の葉(ラデスタ)幾重(いくえ)も飛ばす。

 ジオ達とパルメラの間に飛ばすだけでは足らず、パルメラ当人にも頭の上に降り注いだ。


 これには(わず)かだが宙に浮いていたパルメラも避けるべく、下方へ身体を移動した。地上に映る影色が濃くなる。


「──チィィッ!」


「バレバレやで、アノニモちゃん!」


 此処で黒色のダガー2本を(たずさ)えたNo9が、パルメラの影から出現しその綺麗な顔をかち上げで狙って征く。だが冷たい笑みを浮かべるパルメラに寸での処で避けられてしまった。


 今更の説明だが、パルメラとて空を自由に駆けられる様だ。けれどだからこそ、アノニモの攻撃を(からだ)()らすだけで避けても問題ないのに、再び宙へと舞い上がった。


 そこへ回避不可避の森の刃が再び襲い来る。これには流石のパルメラですら驚いた。ファウナは詠唱処か魔法の名前さえ告げてないのだ。


 カキンッカキンッカキンッ!


 小さな刃物と化した無数の木の葉がパルメラに刺さるかと思いきや、何か硬い物に当たる音と共に、まるでビリヤード球の様に複雑な動きで全て弾き飛ばされてしまった。


「な……?」


「ふぅ、危ない事してくれるわぁ……抜け目のない(ファウナ・デル)魔法少女(フォレスタ)、よくもエルドラ様から(さず)かった守りの星屑(ほしくず)を、こうも易々(やすやす)と使わせてくれたなぁ」


 終始余裕めいていたパルメラの声色に明らかな重苦しさが加わる。今の守りをアノニモの際に、披露(ひろう)しても良かった筈だ。


 敢えてそれをしなかったのは怠慢(たいまん)もあるかも知れぬが、我が子の如く無償の愛を注いでいるエルドラから貰った大切な物を使いたくはなかったという振れ幅の方が大きい。


「火の神アグニ……」


 怒りに任せた詠唱をしようとする刹那、背後から音もなく飛んで現れたラディアンヌ。腰の捻りを咥えた上段蹴りでパルメラの腹を狙い撃つ。


 パルメラの言う星屑とやらが弾いた鋼の葉(ラデスタ)軌跡(きせき)を瞬時に理解し、その間隙(かんげき)を縫った攻撃を放ったのだ。


「グゥッ!?」


 遂に腹を蹴られて吐血しつつ、くの字と化したパルメラだが、この武術家から受けたダメージよりも、より不可解な観点に頭を(めぐ)らせていた。


 ──あの魔法少女とこの武術家、途中から()()()やった!? あの小娘(ガキ)ワザと最初は魔法名を言い、しかも後から来た此奴等の出す音すら偽物(フェイク)やったん?


 以前自分と同じ穴の狢(ヴァロウズ)に居た最下層(No10)、青いポニテ姿が脳裏に浮かぶ。この魔法少女と残りの2人、音無しのジレリノから既に力を貰っていたのだ。


 それを何らかの手段で聴いたNo7(フィルニア)No8(ディーネ)が足音などを鳴らして、後から来た3人の音をそれなりに作った訳だ。


 ──いっちょまえに、やってくれたわ。下っ端(したっぱ)共の(くせ)に。


 やられて落下しながらもパラメラは、キッチリ()()()()()()()


「──己が魂の(ほむら)、その憎悪で全てを焼き尽くせ……」


 ──まだ詠唱を続けていた!? 私に使えるの()()ッ! 


 ……パサリッ。


 落ち往くパルメラの背中を己が背中が受け止めたジオ。倒れたままのパルメラの不浄の左掌が、此方に向けられているのをファウナだけは見逃さなかった。


 ──ヘルズ・フィアー、森を焼き尽くす罪の炎よ。その大焦熱(だいしょうねつ)を今()えて此処に示せ……。


 歯を喰いしばったファウナが心中で、即座(そくざ)に詠唱を終える。彼女とてゼロ詠唱という訳でない。初めて()()するなら猶更(なおさら)なのだ。


 今から約150年後──森の女神の魔導を引き継いだ者が竜同士の戦争を起こし、さらにそこから150年後。


 パルメラと同じ位置(No4)漆黒(しっこく)の女魔導士が居て、同じ爆炎を好んで操り、この島国を席巻(せっけん)するのを2人は知らない。


 ──しかし(かな)しきかな、人は同じ過ちを繰り返す生き物。寄ってこれらは必然なのだ。


「──『憤怒の焔(ベルッゾ・アグニ)』!!」

「──『(ロッソ)の爆炎(・フィアンマ)』!!」


 ファウナがワザと声を荒げて叫んでみせた。この行動に小細工(理屈)なんか要らないのだ。


 ファウナとパルメラ──二人の意地(魔導)が今、苛烈(かれつ)に衝突する。

 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ