機体解説その①『ED01-R・グレイアード』
人型兵器グレイアードの解説をする前に、この世界軸に於ける戦争の在り方から語らねばならない。
──核兵器──
これを所有しチラつかせるだけの存在であるのは、20世紀より続いている。放射能汚染を恐れ、処分さえも困難なこの燃えないゴミを撃つことは22世紀に於いてもタブーとされる。
それでも人は互いの血で血を洗うことを辞めることは出来ない。但し戦乱に民間人を巻き込むやり方は実に宜しくないという結論へ今さら至り、少しづつ減少してゆく。
地球温暖化とどうにもならない人口減少の一途がその原因だ。
戦争で金儲け出来る割合が着実に減りつつある。むしろ罪もなき人々さえも巻き込むことで、株価も仕掛けた国の権威さえも地に落ち往くのだ。
それでも戦いを辞められない人間達。墜としたい局地だけを狙うやり方へと移行してゆく。いやむしろ退化したと言った方が正しい。
──局地戦──
他を巻き込む大型火力を殆ど使用せず、限定地域をのみを潰す小さな戦争。要は人が人の姿のまま争う白兵戦まで降りて往くのだ。人の世の歴史が繰り返されるとは良く言ったものだ。
では移動手段まで歩兵と化すか? そんな古典は在り得ない。此処で空から敵地を襲撃する空挺運用が見直された。但しパラシュート降下では迎撃されるのが関の山。
これでようやくパラシュート無しで降下後、そのまま作戦行動に移れる強化服の優位性が認められた。
── 強化服に於ける上陸作戦──
これはかなり有効なる手段とされた。けれどもどれだけ強化しようとも地上へ降下するまでは、地表からの攻撃が圧倒的優位。強化服毎吹き飛ばす攻撃を受ければどうにもならない。
地上側にしてみれば空中から飛来する邪魔な羽虫を墜とすだけ。寄って非戦闘員を巻き込む可能性は限りなくゼロに等しい。
ならば地表降下まで撃ち落とされない工夫。これが強固な乗機による降下に繋がって往く。
──装甲車などによる降下作戦──
大抵の小競り合いならこれでカタがつく。寄って未だにこれを主とする空挺部隊も数多い。強固な装甲車や或いはただの防弾装甲で落下、着地と同時に強化服による作戦行動。
これが一番コストも掛からず最善とされたが、一部の間で強化服の様な機体に乗り込み降下と同時に敵を降伏に追いやる戦術が議論される。
これには人型が有効という意見が生じた。特に武装した人型兵器による制圧はプロパガンダ的意味合いも含む。実用性だけなら3本脚か4本脚の方が遥かに運用しやすくコスパも良い。
巨人の様に大きな兵士が小さき者へ生き死にを問う。大抵の場合、これでカタが付くという、とんでもない子供騙し的発想である。
しかし兵器である以上、強化服の兵士よりも機動性・攻撃力共に優れて無ければとんだお笑い種。こうして空挺部隊に於ける人型兵器の汎用性を考慮した機体開発が始まるのである。
──人型汎用兵器。型式番号ED01-R 誕生について──
連合軍特殊空挺第一小隊を率いるアル・ガ・デラロサ大尉監修の元、開発されたのがこのED01-R。
試作段階の機体であるため、計3体しか製造されなかった。しかもその後の人型兵器への技術転用が殆ど無かった不遇の機体。
強いて挙げれば武器を機体に内蔵するのは狙撃された際、暴発の恐れがある。同じ理由で内燃機関も次世代機には転用するべからずという教訓のみを残した。
さらに語ればヴァロウズのNo8、水使いのディーネ戦に於いて、機体内を冷却する為のラジエターを沸騰させられ行動不能に陥るという酷評さえも付いて回った。
グレイアードという名称は搭乗者であるアル・ガ・デラロサが勝手に付けた呼称である。
型式 ED01-R
全高 7.75m(5.5m※)
乾燥重量 3280kg
動力方式 ガソリンエンジン/電気
搭乗人員数 1名
内蔵兵装 頭部20mmバルカン
※膝を折り畳んだ際の高さ
ED01-R独自の特徴──。
空挺輸送機への積載を前提としているため、小型かつ軽量化に重点を置いている。全高は輸送機のハッチより僅かに低い。
また強度を不要としている箇所には強化プラスチック素材を取り入れることで軽量化に貢献している。
グレイアードという呼称は、見た目通りの安直に寄る処が大きい。グレイの箇所と強化プラスチック部の白が迷彩的色合いを醸し出す。後は語呂も良いのでグレイアードとした。
然しながら特に迷彩を意識した訳ではなく、グレイもアードも実は無塗装なだけ。塗装分すら軽量化に振ったと開発陣は言い訳してるが詰まる処、試作機故の手抜きに過ぎない。
人型兵器として最大の悩み処、2本脚で活動出来るオートバランス機構の充実。勝手に倒れられては元も子もない。
オートバランスを思考錯誤した結果、通常の2本脚の生物と逆向きにも曲がる膝が採用された。この膝曲げの自由度により2本脚に於ける活動をプログラムによる制御でなく、機械的制御で向上出来た。
さらにこの特殊な膝曲げが開発当初想定してなかった副産物を生む。輸送時に脚部をコンパクトに折り畳めることで全高をより低くし、想定していた最大個数が3機から4機となった。
だがそもそも3機しか製造されなかった上、実戦配備に間に合ったのがたったの1機というこれまた不遇で意義を失った。
その後軍が正式採用を発表したEL97_LSTとの比較に於いて、どうしても見劣りする点が多いのは否定出来ない。
だが軽量かつコンパクトな機体をフルに活かせるパイロットで在れば、設計者が想定してた以上の実力を発揮出来る。アル・ガ・デラロサ大尉がそれを実証した。




