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第23話 炎舞・『牙炎』

 何にでも為れる能力を意志を持った機械に化けると解釈したヴァロウズNo6のチェーン・マニシング。


 これが変身した白狼相手に、素手で一歩も引かぬ戦いを演じてみせた女武術家ラディアンヌ。


 チェーンは様子見というか日和見(ひよりみ)な心の間隙(かんげき)が在ったのだろう。

 そもそも同じヴァロウズのNo7、フィルニア相手に後れを取ったことなぞ一度たりともないのだ。


 これ以上相手の好きにはさせじとばかりに、即海中へ潜水して往く。

 しかし白なので真っ青なシチリアの海との対比で(はずかし)めを受けている程、良く目立っていた……その筈であった。


 ──消えた? い、いや確かに直ぐ下に居るのは間違いないのに。


 不覚にもラディアンヌが視覚情報としてのチェーンの存在を見失う。駆動音、波を()く音、これらの気配までは流石に消えていない。


「大方、青と白の中間色(青迷彩)辺りに体色を変えたか……」


「……オルティスタ」


 ──(ある)いはそれらも含めた上での光学迷彩!


 紅い長剣を握った()()オルティスタが()()ラディアンヌのさらに直上から緊張感を抜いていない声を掛けてゆく。


 血で血を洗う争いとは無関係だと思いたい深く美麗(びれい)なる()(にら)みつけている。気が付けばその目すら刃の放つ紅色を投影していた。


「ラディ……水中(この先)は俺に任せてくれ。再び此処()へ引き()り出したら後は頼むぞ」


「……はいっ」


 姉の指示を全面的に受け入れるラディアンヌ。──やはりイザという時、この人には理由に出来ない頼もしさを感じる。


 これまで長い間、ファウナと、己の背中を何の迷いもなく預けてきた相手なのだ。


 ズキューーーンッ!!


「……おっと」


 天にも届きそうな白波と共に放たれた銃撃。No10のジレリノが扱う光線銃が玩具に思える程の轟音(ごうおん)とその威力。


 海水を一気に蒸発させ、大橋の成れの果てを枯葉の様にアッサリ燃やし尽くす。光線銃(ビームガン)というより光線砲(ビームランチャー)だ。


 当然、人処か、何物にも向けて放って良い代物ではない。


 しかしこの結果にオルティスタがニヤリッと緩む。当然だ、自分の位置を自ら晒したのと同義だ。


 ──だがそれは此方とて同じだな……熱源、音源、感知センサーの(たぐい)がてんこ盛りに違いないぞ。


 海底からでも俺やラディはおろか、向こうで観ているファウナやあの三十路(レヴァーラ)ですら射程内……そこん処、勘定に入れて対処すべきだ自分(オルティスタ)


 そこでオルティスタは不意に遥か彼方の視線へと顔を向ける。その口の動きを見つけたフィルニアが「良いだろう」と返事した。


「ふぃ、フィルニア?」


「……聴こえるなファウナ嬢。意味は判らんが『流転(アルディビラ)』の用意をしておけとの達しだ。あの剣士からな」


 急にボソボソ喋り始めたのを見て驚くディーネを他所にフィルニアの特殊な会話がファウナの耳元へと伝達された。


 風の精霊術を使った会話。いずれファウナより『言の葉』と命名されし術式である。このやり取りをさも当然とばかりに受け取り「はい、判りましたフィルニア様」と返したファウナである。


 オルティスタは危険視したのだ。


 ファウナとレヴァーラすら索敵(さくてき)の範囲内なら、先程の轟音(ビーム)とて射程圏内だと警戒すべきだ。


 ──良し、これで準備は整ったな。


「上…等……っ!」


 ニタリッ笑いて滾る刃(ヒートソード)三日月刀(シミター)(こす)り付ける。ボッと三日月刀(シミター)からも火の手が上がり、その炎が翠緑(すいりょく)の目すらも燃やし始めた。


 この三日月刀(シミター)を収める(さや)には発火性の油が仕込んであるに違いない。


 そして潜水するのかと思いきや的外れの方向へ動き出す。海上に浮き沈みしている在りとあらゆる藻屑(デブリ)を燃やし斬り始めたのだ。


「炎舞・『輪燃(りんね)』ぇ!」


 オルティスタの余りにも流麗なるその動き。自らの軌跡と斬り裂いた(ごみ)の山の炎が次から次へと繋がって往く。


「クッ!? あのデカ女ッ、この僕を攪乱(かくらん)する気かッ!」


「ソラソラソラソラァァッ! ()()に隠れし天照大御神(アマテラス)よッ! 我の炎舞、とくと御照覧(ごしょうらん)あれぇッ!!」


 オルティスタの思惑通り……チェーン自ら創造した熱源センサーが真っ赤に燃える(染まる)。メッシーナ海峡上が、文字通りの火(まつ)りと化す。


 ズキューーーンッ!!


 バシュッ! バシュッ!


 未だ天岩戸(あまのいわと)へ御隠れのNo6(チェーン)。2射目の光線砲(ビームランチャー)、次はミサイルを矢継ぎ早に発射する。


「ど、ド派手な(まつ)()……」


 オルティスタを『対人の専門家(スペシャリスト)』と評価していたNo9、アノニモは肩紐がずれ落ちる気分になった。


 よもやこんな勇壮(ゆうそう)なる(うたげ)披露(ひろう)されるとは思いも寄らなかった。何かこう……もっと(ひそ)やかに決めると想像していた。


「クッソ! まるで手応(てごた)えが無いっ! さっきの女(女武術家)といい、このチェーン様が良い様にあしらわれているっ!?」


 チェーンの(はらわた)が煮えくりかえる。No7(フィルニア)を寄せ付けなかった自分が、ただの女二人相手に(たく)みにも操られている。差し詰め猛獣使いといった処か。


 パシャッ……。


 騒々(そうぞう)しい海上の()()。静かに海へと入る音をセンサーが感知した。


「キタァ……」


 冷ややかにチェーンが笑う。熱源にも(わず)かだが反応有り。ごく普通の人間の体温でも知覚している。どうやらヒートソードの熱源を消した上での入水らしい。


 ──その(はらわた)、喰らってやんよッ!!


 瞬時に獰猛(どうもう)なる(シャーク)に近い機械生命体へと姿を変えた。泳ぎの速度で敵う生き物などいる訳がない。あっと言う間にその距離を詰めゆく。


 ──来た!


 音はすれども姿は見えず。オルティスタの睨んだ通り、相手は光学迷彩で海に溶け込んでいた。それでも不自然な波の流れで察知は出来る。


 ガブッ!


「グゥッ!!」


 全身を丸飲みにされるのはどうにか(かわ)したオルティスタだが、その(もも)を喰われて大量の血を海へと流す。


「つ、遂に(とら)えたぞ女ァァッ!!」


 ──それは此方の台詞だッ!


 恐らく加減した上での()みつきに違いない。この巨大人喰い機械鮫が本気を出せば、腿を噛まれただけでも喰い千切られよう。


 ──事此処至り、またもチェーンはやらかした(手加減した)のだ。


 オルティスタの長剣が急激に染まって往く。赤を超えて黄色い輝きを帯びる。


 ──フンッ! 生き物使いの貴様だッ! 最期(トドメ)は直接だと思っていたよッ!


「な、何ィィッ!?」


 執拗い(しつこい)が海中での出来事だ。普通の人間なら潜水服もなしに言語は話せない。

 しかしオルティスタの表情が大いに物語るのを、嫌でもチェーンは聞かされるのだ。


 この(たぎ)る剣、使い手が1分と持たぬが、赤1500℃を優に超え、黄色3500℃まで、一気に加熱出来る代物なのだ。


 ──炎舞・『牙炎(がえん)』ッ!


 最早自身の脚が千切れても構わんとする勇気を以って、黄色い刃を相手の頭部と(おぼ)しき箇所へ仰け反りながら両手で突き刺した。


 ──きょ、(It's a )狂気ッ(Crazy)!!

「グッ!? い、痛いッ痛いッ!! な、何てことしやがんだ手前(テメェ)ェェッ!!!」


 もんどり打つ鮫のチェーン。オルティスタが振り落とされまいと、さらに容赦なく剣を喰い込ませてゆく。


 ──これは自由過ぎる自分に仕置きをするだけの行為ではなかったのか? 先程の武術家(ラディアンヌ)といい、着実に殺意が(みなぎ)っているではないか?


「狂気上等ッ! 人同士の戦いとは、ハナからイカレたものだッ!」


 (たま)らず海上へ浮こうとしている最中でこそあるが、未だ水の中であることに変わりはない。


 実際にはモガモガ何言ってんだ状態のオルティスタだが、やはりその顔つきから台詞が(おの)ずと伝わった。


 ザバァッ!!


 またも白波を大いに立てて、俎板(まないた)(こい)ならぬ、海上でもんどり打つ巨大鮫が飛び出した。


 それを敢えて自分より上空へ上がるまで手を出さないラディアンヌ。海上スレスレの位置で待機していた。


「ハァァァァッ!!!」


「グボァッ!!?」


 重力任せに落下する真下に入り、またしても右手掌底を天に向かって繰り出した。鮫は下腹を(したた)かに殴打(おうだ)され、くの字で大量に吐血した。


 再び天高く舞い上がる鮫であったが、気が付けば再び空から降って来たのは、白装束の少女に変わっていた。


 ラディアンヌが慌ててそれを受け止める。彼女の両腕の内に気を失った少女が、ダラリとその身を預けるのであった。


 ──これがチェーン・マニシング本来の姿なのか? (のぞ)き込むラディアンヌとオルティスタに知る(すべ)はない。

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