Final episode 『Fauna・Dell・Foresta』B PART
──150 years later.
名ばかりの連合国は威厳も財力も全てを失い、見る影もない。
西暦という名の暦さえ虚しく流れた荒んだ地球。
科学的文明を殆ど失った人類。150年前の圧倒的間引きは人の世を衰退させた。連合国軍の黒幕、ガディン・ストーナーの悪事は、名前共々歴史の記憶から失せつつある。
記憶媒体が人の頭脳しかない世界だ。言伝を頼るにしても肝心要な人間が矮小過ぎてはどうにもならない。
不幸過ぎる代価を元手に地球温暖化が奇跡的にその勢力を減少しつつある。とは言え失せたオゾンが戻る程、寛容でない自然。
行き過ぎた文明の遺産。地球衛星軌道上に浮かぶ、廃れた人工衛星達だけがInternetの片割れを唯一残す。
然しながら潤沢なる便利さ無くても先人達の歴史紐解き、歴史の渦を繰り返し強かに人々は生き長らえている。
寂れた世界の最中、地中海に浮かぶ島国だけ豊かさを誇りに出来る繁栄を繋ぎ留める。フォルテザの石畳は世界の手本と化し、似た風景の街が大いに増えた。
ファウナ・デル・フォレスタは森の女神としては勿論、中々消えない自分を知るやラファンの森へ退きながらも、フォルテザとラファンのみならずアドノス全土の再構築に貢献。
加えて彼女らしい強かぶりも忘れていない。
『アドノス島には魔女が住む、だから決して近寄るなかれ』
姉ゼファンナの伝承を海を越えた世界へ伝え、周囲を海に囲まれる島国の平和を保つべく全霊を注いだ。
さらにフォルテザの地下に在る生きた死体安置所。
サイガン・ロットレンとその弟子である天才プログラマーが凍りの惰眠を貪る様を人知れず守り抜いた。動力源をどうにか確保すべく電力を切らさぬ様、最善を尽くした。
結果、フォルテザの街は電気という文明の灯火を絶やさず今日に至る。
──深い森にひっそり佇むツタに塗れた一軒家。
「……ねえマーダ、まぁだなの? 何時まで寝てるつもり?」
独り暮らしには誇大過ぎる家の、やはり大き過ぎる部屋。本を山と積んで並べた隙間、黒服で金髪の女性が誰かに語り掛ける不可思議な独り言を綴る。
何とファウナ・デル・フォレスタの意識は未だ消えず衰え知らず。
齢170……気が遠くなる年齢。されど見てくれだけなら、30代後半辺りで美麗際立つ容姿湛える。
意識自体はファウナの語り通りマーダがふて寝していると仮定して、女神当人の年齢を保てるのはどうした理屈か。
故障以外に寿命知らずなマーダの肉体。これが鍵なのかも知れない。加えてファウナ魔法の師匠と言うべきエルフ族の永久に限りなく等しき寿命。女神が無意識の内、創造したのやも知れぬ。
仲間達は当然、皆先立った。
よもや自分が誰にも葬送られぬ側になるとは夢にさえ見なかった。
独り孤独に墓守を続けつつ、マーダの目覚めをひたすら待った。
「あ、この写真ね。えと……。何で撮ったのかしら。私写真苦手なのよ」
ファウナ、マーダの心に居候しているレヴァーラからの声なき声を聴き、大層散らかってる机上に置いてた埃塗れな2Lサイズの写真立てを手に取る。
フォルテザ復興後、記念祭を企画した一コマを切り取った一枚切りの写真。
祭りの準備、デニム生地のオーバーオールを着たラフな姿のファウナがペンキで顔まで汚した姿を笑い飛ばす皆が撮られた幸せ溢れる写真。
「写真うつりが悪い? そう言う訳じゃないの。写真ってさ、それ自体良い想い出だとしてもよ。写り込んだ様々な出来事も一色淡に引き摺り出すから余り好きになれないの」
ただでさえ灯りの少ない暗がりの中、顔曇らすファウナ。この想い出自体に罪はない。然しエメラルダが写っていない。
エメラルダ──ゼファンナ・ルゼ・フォレスタは、5年程ファウナの従者として振舞った後、ラファンの森深くに行方を眩ます。そんな余計を思い出すとファウナは語る。
人生の大半を報われない場所で過ごす事を敢えて選択した実姉。やがて『森で緑髪の女神を見た』そんな伝承を育むに至る。森の魔導書は真なる伝説へ転じた。
ファウナと心の中に潜む者共との独り声劇が真実なる言の葉を紡ぎ出す。
「レヴァ、ねえ判るでしょ? マーダってば本当は起きてるのよ」
己の心を底まで手探り、女神の嫋やかなるベッドで嘘寝を決め込むマーダを実母と共に嘲る。
「え、フフッ……。そうね、私と二人きりで居られる刻を愉しんでる困った男だわ。全く……」
真実に語れる相手が居るのか不明なれどファウナは完璧に演じ切る。
「でもね、この間嬉しい出来事があったのよ。森の女神の継承者が出来たの。然もね、とっても可愛い銀髪の男の子! ファウナ神に従属する暗黒神!」
手を叩いて喜びを表す女神。息子が出来たかの様。余程嬉しかったらしい。
「……それにしても不思議なものだわ。まさか本当に本物の女神になっちゃうだなんて……。うふふ」
ファウナは森人達から精霊術を語られた3歳の折、空を舞踊りながら剣を奮う踊り子様に心躍らされた。ただの臆病な少女に過ぎないと今でも想う。
自分の描いた落書きを飽くなき好奇心で毎日読み漁り楽しむ少年。よもや自分が心躍らせる側に回れるとは思わなんだ。
「マーダ、良い加減目を覚ましたら? 散々私のこと150年もの間、研究し尽くした変態さん。今なら貴方独りでも魔法の真似事位きっと出来るわ……ね、レヴァ……」
次第に薄れ往く意識の中、最初で最後な恋慕の相手を緩みながら呟くファウナ最期の悦楽。此処から新たなる数奇な物語が始まるのだ。
ファウナ・デル・フォレスタの人生。
他人が知れば狡いと蔑むだろうか?
確かに彼女は幼少期より描いた落書きめいた魔導書と17歳の折、逆鱗に触れられ魔導に目覚めた異端児である。
然し己の弱さを知り、
敗北に傷付き涙し、
それらを乗り越え真実の強さを為した。
彼女の人生に於ける努力の裏側。
友達、家族、恋人……。
真実を知る者など悲しきかな、何処にも居ない。
これを孤独と捉えれば明るい未来は決して訪れやしない。
ならば己を信じ、愛し、労れる術を握ろう。
これぞ人間の処世術。
きっと彼女はそれを為し得た。
護りの女神が自由に任せ世界を誘う……。
──マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章- 終演──
……To Be Continued 『神竜戦争 儚き愛の狭間に…心優しき暗黒神の青年と愛する少女達の物語 』
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