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第206話 気が回り過ぎな輩

 蒼服ファウナに(うな)され、宙を舞う黒服ゼファンナ・ルゼ・フォレスタをライフルのスコープで凝視(ぎょうし)したアル・ガ・デラロサ。


 余りにも小さな輝き故、アル独りでは気付けなかった力の正体。


 レヴァーラと身も心さえも1個体と為れた事で手に入れた閃光(エンツォ)

 それをド派手に展開せず、ここぞの場面だけ発揮する強か(したたか)ぶりは正しくファウナ。


 黒服のゼファンナは、ファウナと確かに()()。恐らくマーダのAIProgram(プログラム)すら好きに操る完璧な女神へ進化を()げた。


 ──アレならまだカーリーの方が余程可愛げあったぜクソがッ!


 輝きの刃(マディラス)を技名すら告げず引き出せた真の理屈。

 人の演算能力を遥か(はるか)凌駕(りょうが)するAIを駆使(くし)する事で成し得た技術的革新(かくしん)。蒼服ファウナが魔導書はおろか、腕時計端末すら持ってるにも関わらず、黒服ゼファンナがそれら無用で魔導を繰り出す。


 もう彼女に魔導書は不要。

 総ての詠唱(えいしょう)術式(じゅつしき)人智(じんち)超越(ちょうえつ)した頭脳にINPUTされている。データベースの様に引き出しも自由自在。


『カーリーの方が余程可愛げあった』


 デラロサの愚痴(ぐち)頷ける(うなずける)進化極めたファウナの最終形態。デラロサでなくとも文句の一つも言いたくなる現状が宙を闊歩(かっぽ)してるのだ。


「──『牙炎(がえん)』!」


 オルティスタが太股(ふともも)のホルダーに格納してた余分のナイフを3500℃まで引き上げ、黒服ゼファンナに向け放る。そこへ無音状態の水圧銃を浴びせ掛けるディーネ機。


 カーリー戦で見せた水蒸気爆発を黒服へ仕掛ける()()()()牽制(けんせい)位には使えると思い試行した。


「それ、さっき見てたわ。同じ手使うとか随分(ずいぶん)()められたものね」


 微動(びどう)だにせず無数の森の刃(ラデスタ)を降らせ、水がナイフに掛かる前に弾き飛ばす黒服ゼファンナ。またもや呪文(スペル)名を告げぬ(しら)けた態度。


「──ふんッ!」


 加えて右手を一振りしただけの有無言わさぬ突然の雷神(カドル)


 黒服ゼファンナから地上へ向け雷の道筋が瞬時に()()()()絶望の(さま)見せ付ける。『人間相手に小細工無用』を体現(たいげん)した。怯む(ひるむ)森の女神(ファウナ)陣営。


「──フンッ、弱いッ! 弱過ぎるわ人間共ッ!」


 黒服ゼファンナ、鼻息荒く腕組み、スーツの脚も交差させる。見えないソファーへ腰を下ろし、踏ん反りかえって地上の全てを見下す仕草。 


「フフッ……マーダさえ抑え込んだ私は正しく真の女神ッ! 以後ゼファンナ・ガン・イルッゾを名乗りこの世界を我が()べる!! 世界中の人間共ッ! 精々(せいぜい)足掻(あが)いて踊りなさいッ!!」


 ゼファンナ・ガン・イルッゾと名を改めた黒いスーツの女。


 レヴァーラの名を継ぐ辺り『私が本物のファウナ』と自ら晒す(さらす)少女()みた恋愛感情が窺い(うかがい)知れる。本来なら『ファウナ・ガン・イルッゾ』と改めたいのが透けて見えた。


 黒服ゼファンナの宣言、これは森の女神(ファウナ)勢のみならず、世界(SNS)を敵に回す在り様。実母レヴァーラすら世界を敵に回さず現人神(あらひとがみ)(よそお)った。


 実母(マム)と共にファウナが築き上げた世界に対する信用さえも叩き潰す行動原理。


『理屈じゃない、貴女が好きです。全てを(ささ)げる覚悟です』


 母娘の情を知らないただの主従関係であった頃、ファウナがレヴァーラに告げた愛の告白。主従の誓いも愛すら裏切る狂気の宣言。


 ──一体(いってぇ)何やりてぇんだ御嬢(ファウナ)


 首を大いに捻る(ひねる)デラロサ。ファウナ自身が、罪深き黒の女神(レヴァーラ)へ世界的地位を与えるべく大いに苦悩した。頭の回る大人のデラロサ、良き理解者として振舞ったつもりである。


 マーダを名乗る()()()()()()()()が世界の悪役(ヒール)(てっ)する。

 それをやっつける正義の味方が()()()()()と森の女神の御使い(みつかい)である俺等……。


 ガタッ!

 ライフルがアルの手から滑り落ちる音。


「そ、そういう事かよぉぉ……。何処まで()()なんだ、あの()鹿()()……」


 荒れた銀髪を抱えその場に崩れるアルの戦意。この争い、途方(とほう)もない茶番劇だと全てを読み切る。


 ──()()()()()()()()()や、ファウナの姉貴達は気付いた上でやってんのかよォォ!?


 狂気のさらなる向こう側。あの嬢ちゃんは紛う(まごう)事なき真の女神、飛び切りなる自己犠牲の塊。

 この戦いはファウナに取って最後の晩餐(ばんさん)

 あの娘は笑って(はりつけ)(けい)(しょ)される道を自ら選んだ。


 実姉であるゼファンナが人間側に(くみ)してる。ファウナ・デル・フォレスタは望んでマーダという引き返せない道へ飛び込み、同じ顔、同じ目をした姉に総てを(たく)した。


 もう結果が見えてしまった戦争。()()()()()デラロサ、静かに戦線離脱(りだつ)。その場に膝を抱えて蹲る(うずくまる)。自分の見せ場? そんな欲は消し飛んだ。


「──『輝きの刃(マディラス)』!」


 黒服のゼファンナと蒼服ファウナ勢の激しい争いはなおも続く。黒服の輝きの刃(マディラス)と果し合いが出来るのは蒼服の輝きの刃(マディラス)だけだ。


 蒼服ファウナが黒服ゼファウナの剣を封じるべく御自ら先陣に立つ。森の魔導士同士でやり合っている最中、他の誰かが黒服を仕留める実に見たまま。捻りのない争い。


 それでも金色(Enzo)纏う黒服ゼファウナの強者ぶりが続く。


 輝きの刃(マディラス)使いとして一日の長がある黒服。

 光束(こうそく)の刃伸ばした杖を両手で握る蒼服。


 対する黒服、片手で悠々(ゆうゆう)(しら)けた(つら)構えで受け流す。その上空いた片手で自分に寄り憑く(つく)鬱陶(うっとう)しい蝿共(敵共)へ名乗り皆無の魔導を行使。


 圧倒的体術極めたラディアンヌでさえ手こずる黒服ゼファンナの冴え渡る動き。『我こそ真の女神』力の発現(はつげん)だけなら偽り(いつわり)(スキ)を全く見せない。


 蒼服のファウナ、気の合う仲間達と戦う楽しみを感ずる余裕は既に微塵(みじん)も残ってない。彼女は閃光(エンツォ)を使い過ぎて見た目以上に全身がいう事を利かない。


 対する黒服のゼファンナ、魔力(マナ)体力(フィジカル)精神力(メンタル)、全てに於いて底が見えない。


 強過ぎる女神の風格、EL-Galesta(エル・ガレスタ)? Meteonella(メテオネラ)

 そんな重過ぎる()は一切不要。手ぶらにスーツで仕事を片付けられる出来過ぎる女性(キャリア・ウーマン)


 焦る(あせる)蒼服のファウナ・デル・フォレスタ。

 この戦、やる前から勝敗は決しているのだ。然し黒い女神(レヴァーラ)の代行者へ転じた黒服を圧倒する(さま)を世界に()せる必要が有る。八百長(やおちょう)では説得力に欠けるのだ。


 同じ魔導を操る女同士の戦い。もっと拮抗(きっこう)するか、何なら数の優位で圧倒出来ると甘く見ていた。


 ──どうする? 原子の連鎖(ディスディ・ラトーン)は未だ詠唱必須。それに皆を巻き込む可能性が高過ぎる!


 真に強過ぎる敵陣地の女王(Queen)。駒回しに知力を裂く余裕がない味方の女王。多勢に無勢が全く機能しない相手がまさか愛する可愛い妹だなんて冗談(Joke)、全く以って笑えやしない。


「──嵐よ、我と共に在り」

「女は度胸! ゼファンナ()()()覚悟ッ!」


 背負ったボンベの水圧上昇。爆ぜる様に飛ぶディーネ機。

 何と風使いフィルニアが座席も無いのに同乗している。空で余裕ぶってる黒服ゼファンナへ一挙迫ると超水圧銃から嵐巻き込む怒涛(どとう)の放水。


 味方を巻き込みやしないか?

 そんな気遣いハナから捨て置く自由過ぎる一手。実際敵味方()()に風雨が刺す勢いで振り続く混沌(カオス)


 冷笑から顔を崩さなかった黒服のゼファンナ。お気に入りのスーツを台無し(びしょ濡れ)にされ、初めて見せる不服顔。止む無く一時後退、距離を置く。


「ガァルルゥッ!!」

「──チェーン!?」


 この隙を見計らい白狼チェーンがファウナ専用の椅子を背中に用意して蒼服のファウナを半ば無理矢理強奪(ごうだつ)する。

 蒼服のファウナに取って初めて騎乗(きじょう)するチェーンの背中。異様な乗り心地の良さ、驚かずにはいられない。


 バシューンッ! バシュッ! バシュッ!


 相も変わらず残弾数がまるで読めないチェーンのミサイルによる牽制(けんせい)砲撃。白煙撒き散らしながら戦場をさらに荒らす。黒服のゼファンナ、(たま)らずさらに後退。


「何ちんたらやってんだ()()()()()!! もっと()()に戦いやがれッ!!」


「自由……!? うんッ、そうだねッ!」


 白い狼から煽ら(あお)れるのも人生初。瞬間、疑問符浮かぶが直ぐに笑顔に返り、さも嬉し気に頷き(うなずき)返す。


 味方を()()()が何時の間にやら味方を()()()に挿げ変わっていた己に気付いた蒼服のファウナ。大切な本質を貰った気がする笑顔。


 ──ふふっ……。そうこなくっちゃ。()()()()は大層強い女だらけの楽しい()()……そうよね団長(レヴァ)


 ゼファンナ()()()()()()()()、周囲に見せぬ心根(こころね)だけの笑顔を見せた。

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