第192話 勝算
破損し稼働出来なくなったゼファンナ・ルゼ・フォレスタ専用機をレヴァーラの姿に転じたマーダが、閃光で呼び寄せた。
さらに武器の代わりを求め、太陽神で在った頃の自分が破壊したフォルテザの街並みから、金属片を搔き集め刃のない鈍さえ構築出来た。
──然しこれらを成せた力の源とは一体何か?
またしても人工知性体を秘めた星の屑へ説明が繋がる。回収したゼファンナのEL-Galesta。加えて搔き集めた金属片。
レヴァーラからマーダが強奪した閃光。もう何度目の解説だろうか。
元来閃光とは、誰の意識も奪っていない初期マーダの意識を形成した純度100%な人工知性と、リディーナが戦闘服の内に仕込んだ別の人工知性体との共鳴によって生じた力だ。
──と言いつつこの能力、最初に発現させた意識はレヴァーラなのか、或いはマーダなのか、かなり怪しい危うい。
然し現状、レヴァーラの意識をマーダが食い潰した時点で考察する意味はない。それよりも地球上、何処にでも存在し得る星屑達と接触可能だという事実が判明した1点に話は尽きる。
ゼファンナ機の残骸と壊滅したフォルテザ市街より発掘した金属片。
この何れにも例の星屑達が、塵や埃の様に降り積もっていても不思議ではない。因って砂鉄収集出来る強力磁石の様に引き寄せも完遂出来た。
ならば答えは呆れるほど既に出ている──。
エルドラ・フィス・スケイルと、彼からその力を愛と共に恵んで貰えた旧姓、パルメラ・ジオ・アリスタだけが扱う事を赦されていた高純度の星屑達。
これらを閃光にてマーダ・ガン・イルッゾがモノに出来ても何ら不思議でない理屈が通ってしまった。
尤も星屑使いの真祖。エルドラと同じく、押し寄せる津波が如く下界を一挙洗い流す天罰染みた真似事は恐らく出来まい。
アレはエルドラが自然体としてして持ってた能力に寄る処が大なり。
青い惑星のありとあらゆる事象や状況を見透かせる彼だからこそ、緑色のガラス玉を星に見立て神紛いな御業を体現出来た。
なれど忌むべき最後の敵が星屑共を手足に出来ると気付いた現状が非情に厄介なのだ。
「──こ、これはかなり面白くないかも」
ゼファンナの雲行き怪しい顔色。何故なら先程、自分自身が見せびらかした閃光の可能性。褐色の魔女が針のムシロの如く、無数に叩き付けた戦神の刃。
これらを金色の閃光で操舵するのを見せ付けたのが、このゼファンナなのだ。
だから己も同じ閃光を用い、ありとあらゆる物をぶつける真っ向勝負をする事になる。
ゼファンナとマーダ、二人の耐久力が勝負の鍵となるのは明白。姉ゼファンナ、こればかりは正直かなり危うい。
「ええぃッ! 何迷ってんのよ私ぃッ! 格好悪いし、らしく無さ過ぎぃッ!」
大体悩んでる傍から緑の輝き帯びる星屑達がMeteonella向け、流星群の無数ぶりで飛来し迫る。
「──『戦乙女』!!」
大層戸惑う姉の背中で、可愛い妹から底上げの声、凛々しく轟く。
半ば強引とはいえ昂らずにいられぬ姉。妹ファウナ、姉と同じ顔をしている割に人の心根すら強靭な根っこへ変え得る、術本来の効力以上を引き出す方法を熟知している。
『格好良い処私に見せてねッ! ねッ! ゼファンナお姉ちゃん!』
愛らしさちゃんと狡猾野郎が肩並べて仲良く同棲しているファウナのやり口。
またも『逝ってらっしゃいッ!』『ええっ、逝って来るわッ!』な見送りの始まり。驕り昂りやすい姉を、愛犬の様に使い倒す何とも狡い妹の図式。
「ア"ア"ッ! やってやろうじゃんッ!!」
まんまと乗せられるゼファンナ……だいぶ憐れなのだが、これが自身の至福たる故、最早抗う気さえ起きないのだ。
ゼファンナ、金色の閃光を用いて戦神の刃が構築した剣達を勝手に引き抜く二番煎じ。それらでMeteonellaの周囲を包み、マーダ操る星屑達を弾く盾代わりとした。
「──『白き月の守り手』! ──『森の刃』!」
「チィッ!」
姉に機体の操縦を預け、自分はMeteonellaの防御力強化と、マーダ機に対し牽制代わりな森の刃を散らす。
葉っぱに殺る気を削がれたマーダが思わず舌打ち。Meteonellaの機動性と森の女神に寄る魔導仕込みの多段攻撃。これは手慣れた閃光を以ってしても相当手こずりそうだ。
「ごめんなさい姉さん……でも必ず勝てるわ。だから少しだけ辛抱して欲しいの」
かなり低いトーンで姉に謝罪する妹。台詞に予言めいた妖しい含みを持たせる。
「──ッ? NoProgram、お姉ちゃんに全部任せない」
敵味方に割れてた頃から、妹より発せられるこの手の言葉は必ず当たる。──いや、実際総てそうかと問われれば正直何とも言い難い。
されどこの口振り、またもや何か仕掛けてるのは確定事項。後は実姉である自分が勝利へ誘う。ふくよかな胸を叩いてゼファンナは気持ち良く応じた。
◇◇
一方、特撮ヒーロー相手に突如群がる悪の組織率いる戦闘員的な連中を、無限に相手取ってる気分なデラロサ隊各機。
どれだけ倒しても湧き出て来る実に困り果てた歴史の偉大なる先輩達。狩り甲斐なき虚しい争い。
古代動物達を召喚したパルメラ・ジオ・スケイル本人は、涼しい顔で息子の背に乗り髪かき上げながら静観している。まさに触れ合い動物園の美人園長さながらの適当な対応。
「──当たれッ!」
バシュッ! バシュッ!
そんな動物達と一番率先して遊んでるのがEL-Galesta史上最も燃費の良い水色の機体を操るディーネ様だ。
背負ったボンベの水蒸気から水を生み出し、超水圧銃を時代遅れ甚だしき恐竜共を撃ち抜き見事撃退。
さらに余剰の水分を絶滅の層で割られた地面へ垂れ流す。嘗てのシチリア島は、活火山を擁した土地で在った。
金髪のディスラドがエトナ火山毎、吹き飛ばしたとはいえ、未だ大量のマグマが地底深くを流れているのだ。これにディーネが呼び水を掛け、水蒸気爆発を呼ぶ二段構えの頼もしき姿。
然もこの戦いに於いてディーネ機と搭乗者は或る意味1機だけ遊んでいた。
これは結果論に過ぎないのだが温存出来てた存在である。『此処でやらなくて僕はいつ何処でやるのさ』No8の甲高い声少女染みた声音が聞こえてきそうだ。
『僕の能力は敵の中に在る水分だけ自由に出来るイメージなんだ』
10ヶ月前、当人の弱音が最早懐かしくすら思えてくる。ディーネ機による獅子奮迅な働きのお陰で動物達の御相手は如何にかなりつつある。
けれども元を絶たない限り、この負の連鎖が止まる事は決して在り得ない。
それは判り切った事実なのだが、俺達の信ずる女神は褐色の魔女とその息子。両者の息の根を止める行動を望んでない。デラロサ隊長の頭痛、未だ暫く続きそうだ。




