第191話 去来
──戦争は数。
これを前面に押し出し二人と一頭の敵勢を、圧倒しようと企んだアル・ガ・デラロサ大尉。
たった1つの魔術に寄る混乱を強いられ思わず閉口した。
褐色の魔女が呼び出した過去の遺産達は、術者の移行を汲んだりする利口者などでは決してない。
だが、それこそ寧ろこの魔女の狙いだ。
術者当人すら読めない動きを勝手に行う古代動物の群れ、群れ、群れ。
全長でEL-Galestaを遥かに上回るブラキオサウルス。破壊されたフォルテザ市街に存在しない餌求め、巨体で好きに振舞う。
日本の特撮映画を彷彿させるT・レックスは、食い物ではないEL-Galestaの動きに反応し無駄に襲い掛かる。身長がEL97式改と嚙合い過ぎる。
人型兵器の拳を用いて立ち向かうラディアンヌ機。ロボットに殴られる怪獣の図柄に大層戸惑うデラロサ隊長。配信端末の中でしか視聴してない現実。当然興奮している場合ではない。
こんな馬鹿げた連中相手に貴重な武器弾薬とバッテリーを消費させられる虚しさ。されど適切な指示が出来ないもどかしさ漂う顔色。
この間、パルメラ・ジオ・スケイルがこの世界軸に現界させたばかりの不死鳥を思わせる始祖の鳥達も身勝手に宙を舞うが、ジレリノ機が仕掛けたワイヤートラップに絡み取られ絶滅に還る。
けれどもこれで黒い女神に転嫁したマーダ機に対抗する筈であった貴重な罠を次々潰されて往く辛み。
最早敵味方依存しない大混乱。数の優位が歴史の前に虚しく失せた。
「──『戦神の刃』!」
パルメラ、またしても蒼い電撃帯びる剣達を無数に召喚する。それらをMeteonella、それに相対する金色なEL-Galestaの周囲にびっしりと隙間なく突き立てた。
「──ッ!?」
背中に戦慄走るゼファンナ・ルゼ・フォレスタ。
実際お目に掛かったことなどないが、さながらプロレスの鉄条網デスマッチ。然も御丁寧にも電撃仕込みのレスリング。夢なら覚めて欲しいと願う図式。
「ちょっとアンタッ! もぅ良い加減に覚悟決めなさいッ! でないと本当に死ぬわよッ!!」
見た目だけ復活したレヴァーラに未だ茫然自失している妹の肩を容赦なく揺するゼファンナ。
いっその事『──Palmera・Geo・Scale Targetlock』と往きたいゼファンナの本音。
然し心根優しい妹が、自分と折り重なる母子の命を消せる訳ない。寄って眼前に迫り来るマーダ機を猫爪で引っ搔き倒す以外に道がないのだ。
ガシンッ!!
『来ないなら潰すまでだッ!』
歪な出来損ないの剣を叩き付けるマーダ機の情け無用な攻撃。
黒猫には搭乗者達を守り抜く本能が備わっているらしい。前脚を勝手に伸ばしてそれを防いだ。然しこれでは埒が明かない。相手を倒さなければ前進も後退すらもままならない。
▷▷──情けない……それでもレヴァーラ・ガン・イルッゾの娘か貴様?
痛々しきファウナの蒼い大きな瞳がさらに見開く。
彼女の心だけに届けられた実母からの伝言。襲い来る見た目ばかりの偽物でなく、彼女の内には本物の欠片が根付いてるのだ。
そして今もなお、Meteonella第二の尻尾を操り転がす。敢えてMeteonellaを守る動きへ転じないのは、娘を自立させる為のやせ我慢だ。
「──ごめん姉さんッ、私戦うわ此奴とッ!」
ファウナ、先ず姉に謝罪し両目を閉じてMeteonellaの電子系統へ集中の意志を伝達する。Meteonellaを接続する蜘蛛の糸が意志伝達で煌めき放つ。
「──ったく中々煮え切らないんだから……じゃあ征くわよッ!」
ようやくやる気を出してくれた妹に溜息一つ。黒猫は閃光使いと森の女神が一対でないとまともに機能しない機体。それはゼファンナ&ファウナ姉妹とて同じ事。
ペロリッ。
まるで獲物を狙う肉食動物が如く舌舐め擦りする姉ゼファンナの癖。
太陽神退治は実質、Meteonellaとファウナだけで熟した様なもの。ひりつく争いをこの黒猫で試してみたい欲求吹き出す。二度目は訪れないと思っているのだ。
ウオォォォォォンッ!!
おとなしく座ってただけのMeteonellaが、四本の脚で大地踏みしめ新たなる目覚め迎える。首を上げ口を開いて雄叫び上げる獣と化す。
さらに強靭なる長い後ろ脚だけで立ち、前脚二本は両腕と為す。小賢しいマーダ機に対し鋭き爪に寄る串刺しを狙う。
「──グッ!? これ程とはッ!」
機械を超越した動きの良さ。口惜しや……唇噛み締める怒りをマーダが見せる。
此方は閃光と戦火の火種で底上げしてるのに、それすら上回る敵の機敏さ。
レヴァーラだった際の記憶が嫌でも脳裏渦巻く。Meteonellaは元・相棒が丹精込めて造り上げたスクラッチモデル。軍の量産機なぞ鼻先で嗤う性能だと知り尽くしている悔しさ。
その上、Meteonella第二の尻尾までもが牽制の突貫繰り出す。マーダ、明らかなジリ貧状態。このままだと確実に此方が負ける。
なれどこれ以上、褐色の魔女からこれ以上の施しを受ける気など皆無。動物園の客引きはパルメラに一任したのだ。自分のやりたい闘争を邪魔立てされぬ為に。
──来るのだ、我の血統ッ!
再び地面へ閃光帯びる緑色の輝きを拡散させる。荒れ果てた街並みから怪しき分子が浮かび、それらが集合して無数の綺羅星を宙に生み出す。
「な、何よアレはッ!?」
「──ま、まさかッ!?」
ゼファンナ、『なんて綺麗な光景なの』などと天然めいた呆けなどしない。
ファウナは咄嗟に気付いた。文字面通り痛い程。アレに限りなく近い物から散々な辛酸を舐めさせられた10ヶ月分とは到底思えない地獄の歴史。
恐竜達と争いながらラディアンヌもその光景に気付いて背筋の悪寒を覚える。ラディアンヌは機体毎、アレに良く似た星屑達に殺されかけた過去が去来したのだ。
命を削る研鑽繰り返した女武術家が如何にも抑え切れない恐怖の怯え。本当に何出来ずに死ぬ間際までやられた心傷。
旧姓、パルメラ・ジオ・アリスタが守りの星屑と呼称している生命秘めた存在。出来たばかりのフォルテザ市街を不意に襲ったNo3天斬の紛い物の群れ。
そして何より星屑使いの真祖、元・ヴァロウズNo1の実力者。エルドラ・フィス・スケイルが光速の内に撃ち滅ぼした数多の軍事基地。
「──お、おぃ……嘘だろ?」
飛行形態で旋回していたデラロサ機のメインカメラと各センサー類も、マーダ操る綺羅星を確認出来た。二度と見たくないのに理不尽にも感知したのだ。
元・同僚達を天上煌めく星々に変えてしまった出来の悪いホラー映画の如く、嫌になるまで見せ付けられた。
No1の能力を飲み込んだ筈の無いマーダが、フォルテザに打ち捨てられたその星屑達を閃光の力を借り、似た地獄絵図を再現するべく総力を結集した。




