第189話 再来
『Yes Master Zephanna Meteonella、Target Lock. …………Disrad』
遂に『Disrad』LockOnの刻。
Meteonellaの背中から4本の棘が勝手に飛び立ち、マーダを覆い尽くす理不尽。エルドラを消したのと同じ輝きがマーダを包む。
▷▷──ククッ……どうだマーダ。己が消される瞬間なる狭間の気分は?
──れ、レヴァーラッ!? ど、何処に居るッ!!
▷▷何とも笑えない冗談だな。貴様の中に居る──貴様が我を乗っ取ったのではないか。余りの出来事故、呆けてしまったのではあるまいな?
確かにレヴァーラの一字一句に違いは有り得ない。レヴァーラ当人の意識、確実にマーダが喰らい潰した。
──ではこのレヴァーラ・ガン・イルッゾは一体何だ?
ファウナ・デル・フォレスタがMeteonella承認の儀式を行った時のこと。
ファウナの手が触れたにも拘わらず『Reveala・Gun・Iluzzu.Authorize』の文字がメインモニターに流れたのがその答えだ。
ゼファンナ・ルゼ・フォレスタも既に確信してる通り、ファウナとレヴァーラが繋がった折。レヴァーラも愛する娘へ自身の欠片混じる何かを分け与えた。
Meteonellaの浮いた二本目の尻尾。これを操る女々しきレヴァが、ファウナに注いだ何かに潜む残留思念だ。
語るまでもなくレヴァーラの意識たるや紛れもなく女性である。故に女々しきという言葉で形容するのは怪しき記述だ。
さりとて生前のレヴァーラ……増してや溺愛したファウナに出会う以前の彼女なら──死ぬ間際に形見を残す感傷的なぞ無かった筈。
何しろ女性に生まれた幸福さえも残らず破り捨てるつもりだった存在。
今や女性らしさを前面に押し出したレヴァーラ操る黒い海蛇が、マーダを捉えて縛り首に処す。
一方、マーダの胸内で大方ほくそ笑んでる黒い女神。マーダ、確かに黒い女神の意識と能力を完璧に飲み込んだ。そう……嚙み砕かず丸飲みにした。
大体能力のみ手に入れ、奪った相手の魂だけ消すなど、御都合主義甚だしい。
フィルニアとてディーネ相手に『マーダにレヴァーラを混ぜた存在…』と仄めかした位なのだ。
やたら前置き長くなったが、マーダの内に秘めたる……と言うより見た目の姿的にはマーダそのものである太陽神ディスラドをようやく消し去る刻、訪れる。
Meteonellaの背中に生えた4本の巨大な棘達。マーダの周りを旋回しながらゼファンナの金色を散らして迫り征く。
「よ、よせッ! やッ、止めてくれぇッ!! ようやく手にしたこの力をォォッ!!」
マーダ、例え儚き時間なれど神名乗りした者として実にみすぼらしき醜態見せる。
当然聞く耳を持たない4本の棘達。魔道士姉妹の黄金色混じえた輝きをマーダに押し付ける。太陽の光量さえも超越してるかの如く、天罰を受ける彼には思えた。
以前金髪のディスラドが黒猫から受けた熱線帯びた光線とは異なる物だ。当時は暗転を用い、貢ぎの女を差し出し逃げ遂せた。
目下同じ手は通用しない。Target Lockされた覚醒者に逃げ延びる手立ては皆無。
とても静かで美麗なる審判。まるで神の啓示を受けた幸福極めた人間の生き様。
然し棘達からの照射終えると翼を失い、ただのディスラド姿に返った男。意識さえ喪失した上、頭から落下し始める。
このまま意識戻らず落ちようものなら、見るも無惨な投身自殺的、死体転がる無情な終焉が待ち受けている。
「──え……『閃光』!」
落ち逝く筈のマーダから明らかな懐かしくも凛々しき声轟く。髪色は金髪、身体も男な落伍者が吐いた台詞は紛うことなきレヴァーラそのもの。
「く、ククッ……やってくれたなファウナ、ゼファンナ」
「「──ッ!」」
名前呼ばれた二人の魔道士、緊張の色渦巻く。
翼を持たぬマーダ、緑の輝き思う存分拡散させ往く──。
一つは地面に届け、落ちる己を支える柱たる役目負わせる。そしてもう一つ……何故かもう一縷の輝きが、エドル神殿へ向かいオーロラの如く伸び往く。
『──あ、アレは破損したEL-Galesta!?』
メインカメラの照準を最大軸まで引き延ばしたマリアンダ機が捉えた絵柄。
デラロサ隊直属のEL-Galestaより軽量なその機体。各関節の接点箇所剥き出しなる金色のEL-Galestaを緑の光が引き寄せる。
「あ、あの機体。もう動けない筈ッ!?」
元・搭乗者、ゼファンナ・ルゼ・フォレスタの証言。芸術を爆発と履き違えたディスラドに、操縦席と制御系統を破壊された見た目だけの鉄屑なのだ。
「制御系が動かない? フフッ……ならば我そのものが代わりに為れば良かろうッ!」
フォルテザの空に拡散してたマーダ放つ閃光の煌めき。彼の元へすべからず帰って吸収された。
「嗚呼……そ、そんな。そんな事って……」
これまで数多の困難を潜り抜けたあのファウナが蒼い瞳見開き、愕然とした顔で首を幾度となく振る。
見た目だけは未だディスラドそのもの的存在だった──。
金髪が黒髪へ生まれ変わり長く伸び往き、あろうことか後ろで勝手に束ね始める異様なる様。衣服すらファウナに取って懐かしき黒い、何処までも黒き、あの戦闘服姿へ転換遂げる。
最後に閉じていた碧眼をカッと開けば翠眼が出現。
「──おっと、コレを損ねていたな」
まさに普段の冷笑。上げた口角の左端を指でなぞればマーダ嫌がる口元の余分さえも現れる。わざとらしい外連味染みた仕草。
本物の方は遺体をファウナが回収済だ。それにも拘わらず外見のみ完璧なレヴァーラ・ガン・イルッゾ見参。
だからファウナが首を必死に振るのだ。幽霊でも見つけた様な恐怖を胸に抱いて。
まるで死人使いが召喚したかの様な面構え。
操縦席ハッチの無いEL-Galestaに乗り込む刹那。背後のMeteonellaを見返る余裕。視線の先に在る者それは、黒猫の猫額の中で震える森の女神か。
パチンッ。
『太陽神殺し見事と言わせて貰おう。だが我は未だ終わってなどおらんッ!』
ホバリングを吹かし地面へ降り立つ装い新たなマーダ・ガン・イルッゾ専用機。見た目こそ金色ながら、黒いオーラを全身に纏う存在感。
自機の拡声器にまで閃光を垂れ流し、勝気溢れる異彩な声で元・味方を大いに煽る。
パチンッ。
『な、何故ッ!! どうしてそんな姿でぇッ!!』
ファウナ、同じくMeteonellaの無線を全回線で実に彼女らしからぬ大声の文句。
『──姿ァッ!? 自由に出来る意識が在るのだ。姿形なぞ所詮飾り。こんなモノ、如何様にでも出来るわ俗物』
肘を付いてニタリッと笑う反撃開始の狼煙代わりな『俗物』心理戦で小娘──増してや自分の娘に後れを取る訳には往かぬ。
太陽神と暗転は確かに魅力溢れていた。然しながら付け焼き刃で終わり迎える羽目に陥る。
一方、体幹強き踊り子の身体と力は実に長きに渡る付き合いである。馴染む躰用いて、第2ラウンドの鐘を鳴らした。




