第186話 Meteonella TakeOff!!
ヴァロウズNo7、風のフィルニア。決死覚悟で太陽神マーダの太陽風帯びる剣圧を機体の回生システムへ吸収することに成功した。
その際、決死の内に目覚めた閃光。燃え盛る赤色の輝きと共に吸収遂げた太陽風の力を一挙解放。空にて神を気取るマーダの背後を取ってからの機体による激しい頭突き。
落ちるマーダをさらに追撃しながら機体で体当たりしつつ地面へ共に落下。
心中めいたやり口に観てる仲間達が騒然とする中、ディスラドから継いだ能力、暗転をマーダが土壇場で用い命辛辛脱出遂げる。
フィルニアの安否を皆が案ずる。全身の至る箇所に骨折を負う重傷。戦闘不能に陥りながらも、命に別状はなかった。
そんな最中、フィルニアが風の精霊術による興奮冷めやらぬ一言『太陽風が止まる瞬間』地球代表の風使い、どうやら太陽側代表の弱点を見つけた模様。
だからこそ地面へ押し付けられたマーダは、暗転に頼らざるを負えなかったらしい。
◇◇
フィルニアがマーダとの争いで森の女神の決心固める時間稼ぎをしている最中の出来事である。
ファウナ、Meteonellaの標的にする相手を決める故、込み上げる涙と争いながら苦心続ける。
溺愛したレヴァーラとの想い出詰まるMeteonellaの力を使い、レヴァーラの意識と能力を消す皮肉。
死んだ人間は決して帰らぬ。だから気に病んでも仕方ない行為。
されどまるでトドメ刺すよな事柄を易々受け容れられぬもどかしさ。
レヴァーラの事を想う旅。自分が死ぬ番でもないのに、走馬灯の如く甘く切ない初恋の情景が次々浮かんで消え失せる。
『──ファウナ、今俺の機体に皆の声が届いている。録音してある、聴いてみるか?』
アル・ガ・デラロサ隊長から神妙なる無線の声がファウナに届く。格納庫の外ではフィルニアが決死の覚悟で戦っている。見なくても痛い程判り切っているつもりだ。
他の仲間達とて己が女神を死守すべく懸命なのは重々承知。下手すると子供の我儘で大事な仲間を黄泉送りしかねないのだ。
デラロサ、此方とて『聴いてみるか?』この提案、出すのが苦しい。既に悩み尽くしてるファウナを余計苦しめる箍になるやも知れない。
『……う、うん聞かせて』
ファウナとてデラロサの葛藤を理解しているつもりだ。然しそれでも、この10ヶ月間。言葉悪いが正直レヴァーラの次いでで好きになった連中の声音を聞きたくなった。
『そ、そうか。じゃ、じゃあ再生するぞ……』
僅か躊躇した後、デラロサが独りづつ皆のメッセンジャーになるのを決意した。
『ファウナ……さぞかし辛いだろうな。兎に角お前自身が後悔しなけりゃ俺はそれで良い』
ファウナの人生に於いて最も頼もしき姉貴分、オルティスタの女性らしからぬ雄々しき言葉。
『ファウナ様、どうか自分のお気持ちに真っ直ぐでいて下さい。私何が有っても貴女の味方です』
いつもファウナの一番近くで想ってくれてるラディアンヌ。優しみ過ぎて嗚咽溢れる。
『僕、ファウナのお陰で此処の皆が好きになれた。後は全部僕に任せな』
此処の人間で僕人称を使うのは二人だけ。No6チェーン・マニシング、恐らく少女姿に戻った上での言動。不意な礼を受け少し面食らうが、何だか心温まる。
『ファウナちゃん、僕友達として君の事。大、大だーい好きっ! だから絶対応援するよ! あ、それからね。フィルニアが地下冷蔵庫のメモ見て『ファウナは護りの女神だ』って滅茶苦茶泣いてた!』
もう独りの僕、一個上のお姉ちゃん、ディーネからだ。フィルニアの暴露話を笑い交えた声で伝えた。
フィルニア・ウィニゲスタの想いは風共々既に聞き及んでいる。彼女は直接自分へ伝えたかったに違いないと勝手に結論付けた。
『……な、何か照れるね。……お前の姉貴、斬って悪かた』
片言で不器用。何を伝えれば良いか悩んだ挙句の果て、関連薄いオルティスタを斬った嘗ての自分を悔いる。実は心根優しき暗殺者、アノニモ。
『お、お前には色々恥ずかしいとこ見せちまった。墓場まで持って行けよな、後は何も文句ねえよ』
以前、レヴァーラ配下として着いてゆく自分の人生設計に於ける悩みを打ち明けた罠使いジレリノ。
音無しの癖して、ちっとも音無しくないジレリノ。台詞の末尾に総て肯定するのをかなり恥ずかしめに告げる面白味。思わず笑い泣いたファウナ。
『──す、好きにしろ、貴様だけが使える機体だ』
ぶっきら棒だが恥じらいが透けて見える男の一言。やはりファウナの為す事全てを認めるレグラズ・アルブレン、切れ者の声が何だか可愛く思えた。
『ファウナさん……わ、私の所為でアビニシャンが。貴女へ何かを伝える資格。私なんかある気がしません。ただ……貴女のお陰で此処、居心地良い場所……』
言葉に詰まっているのか音声だけなのに見て取れるマリアンダ・デラロサ。
だいぶ気持ち揺らいでるのか、伝心の言葉危うい。『ファウナのお陰で戦場とは異なる幸せ得られた』そんな感じに受け止められた。
ピッ。再生媒体を止めた音。
『以上、どいつも此奴もお前が大好き過ぎんな。俺は人殺しをし過ぎた……』
メッセンジャーの役割を終え、自分の番にて急にはにかむ32歳のアル・ガ・デラロサ。
『だから女神の加護ってのは良く判らん。だがな、お前の為したい事を押したい気持ちは皆と……す、済まねえ、今言えんの此処までだ。勘弁してくれ』
妻と同様、大尉だの隊長だなんて肩書かなぐり捨てた本音。これ以上この場で語ると『格好つかねえものが溢れる』感じ伝わるアルの不器用。
ファウナ・デル・フォレスタ、全てを聞き終えやはり涙止まらぬ。悲しみや後悔等、後ろめたさな成分失せた涙。
幸せの量が過剰故、受け止める心の器が追い付く気がまるでしないファウナなのだ。
「み、皆……や、優し過ぎるよ。わ、私なんかが、どっ…うして、こ…んな、に…」
込み上げる幸福が誇大過ぎて、言葉にならないファウナの胸中。
『皆優し過ぎるよ。私なんかが、どうしてこんなに愛を貰えるの?』
言いたい台詞。だけど言えない台詞。
レヴァーラ・ガン・イルッゾという孤独な女性を愛しただけの自分。好きなことをしただけの10ヶ月。礼や愛を語られる事をした覚えがないから言葉に詰まって仕方がない。
ギュッ。
「ね、姉さん……」
またしても自分より大きな胸に抱かれる。姉ゼファンナ、今度は妹を前から抱き締め涙雨を独占する気満々。森の女神からの恵みをすべからず自身に収めるのだ。
「姉さん、私判らないの! 私好きに振舞っただけだわ! 皆からこんなに愛を貰っても一体、ど、どうしたら良いのか……」
ファウナ、ゼファンナのふくよかな胸に抱かれたままの姿で、少し自分より身長高い姉を見上げる甘え。
ボフッ!
自ら抱いた妹の躰を両手で突き飛ばす姉の変遷。
「ぜ、ゼファンナ姉さ……」
「バッカじゃないのアンタッ! いい加減皆の声、届いてない訳ぇッ!? 貴女の好きにやれば良いって言ってくれてんじゃないのよッ!!」
驚き蒼い瞳を大きく見開くファウナ相手にゼファンナの蒼い両目が鋭く睨みを効かす。
「────ッ!」
「外ではフィルニアって人が命張って貴女の時間を造っているわッ! ──でも、もう限界。これ以上放っといてたら大切な仲間がもっと死ぬのよッ!! 母さんみたいにぃッ!!」
次はゼファンナ、涙堪えて妹相手に必死な投げ掛け。
瞬間、頬を思い切り叩かれたが如く、眉顰め顔色変え往くファウナ。
コクリッ。
「ごめん姉さん、征こうッ!」
「謝る相手を間違えんなッ! この天然ボケッ! ──ったく貴女が子供の頃から書いてる魔導を信じ抜きなさい。でなきゃ私浮かばれなくてよ」
謝るファウナ相手に怒鳴り散らすゼファンナなのだが、ようやく溶けた妹の枷見てほくそ笑む。そして一目散、微塵も迷わずMeteonellaの前席に飛び込んだ。
──ようやく良い顔になったじゃない、それでこそこの私の妹っ!
「──『蜘蛛の糸』! ハッチ強制解放ッ!」
「Yes、Master・Zephanna」
ゼファンナもファウナと等しく見えない糸をMeteonellaの電子回路に直結し、即座に臨戦態勢を整える。
外では丁度、フィルニア機とマーダが地面へ落下した想像絶する争いの終幕を迎えた処だ。
Meteonellaの背中に生えた4本の雄大なる棘。途端に分離し、地上へ通ずる天井を熱線で斬り裂く。
地上より瓦礫や樹々など様々な物が格納庫へ落ち往く様子。言葉通りの強制解放。
「「Meteonellaァァッ!! TakeOff!!」」
ウオォォォォォンッ!!
ファウナとゼファンナの熱き血潮沸き立つ。二人同じ顔で目つきも凛々しい。これに呼応したMeteonella、覚醒の咆哮呼び覚ます。
──母さん、レヴァーラ。必ず最後まで戦い抜いて見せるわ。だから見ててね、強かった貴女の娘達の戦いぶりをッ!
「征くわッ! ディスラドを消すッ!」
森の女神、遂に腹が決まった瞬間。それを聞いて背中で笑う姉ゼファンナ。『そうよね』といった処か。




