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第185話 我、風と共に在り

 ファウナ・デル・フォレスタがMeteonella(メテオネラ)の力を用いて消すべき意識(相手)は『Marda(マーダ)』か或い(あるい)は『Revara(レヴァーラ)』なのか?


 何とも哀れな(あわれな)答えを出すべくファウナ、大いに悩む。


 その時間を稼いでやるべく立ち上がったのが、風使いフィルニア・ウィニゲスタと乗機のEL-Galesta(エル・ガレスタ)


 マーダ、フィルニアとの一騎討ちを確約した舌の根乾かぬ内に、フォルテザの街並みを太陽風帯びた剣圧で破壊しに掛かる非道。


 フィルニア機、両肩のエネルギー回生用フィンから神憑り(かみがかり)な剣圧を吸い込もうと試みる。


 ヒュンッ! ヒュンッヒュンッ!

 ガシンッ!!


「おぃっ()()()! 死に急いでんじゃねぇッ!」

「──確かに無茶が過ぎる()


 空迷彩のジレリノ機が機体に内包しているアンカー付きワイヤーを惜しまず投入。網の目の如く張り巡らしフィルニア機の背中を覆う(おおう)


 この争いに於いて敵を斬る千載一遇(せんざいいちぐう)を狙うべく、ずっと潜んでいた影使いアノニモまでも、黙って見ていられずフィルニア機の背後に漆黒(しっこく)の機体をニュッと現す。


 背中を押してやる手伝い、暗殺者(アサシン)に取って背中とは絶好な()()()()。此処で人助けだなんて人生初の試み。


 然し、此処までして尚、フィルニア機が押され続ける。最早(もはや)脱出以外の選択肢など有り得ないのか。ただ台風(ハリケーン)吹き荒れる最中(さなか)、外へ飛び出す馬鹿に成り果て兼ねない。


「──止めるッ! ウィニゲスタ(風の谷)の名に賭けてッ!!」


 言葉少なめだがフィルニア姫の熱き誓い。機体を通してアノニモへ熱き魂伝わる。


 さらに何やらこれまでのNo7(フィルニア)から感じた事無き強さ(危うさ)を覚えるアノニモ。


「ふぉぉぉぉぉッ!! ──『閃光(エンツォ)』!!」


「なっ?」


 フィルニア()、恐らく意識下で吐いた言葉ではない閃光(エンツォ)


 決死さ故、自然(ナチュラル)に出た台詞(セリフ)。赤き瞳がさらなる赤みを帯びてフィルニアらしい情熱滾る(たぎる)赤い旋風(輝き)を巻き起こす。


 アノニモ、暗殺者(アサシン)に取って大事な己の耳を疑う仕草。間違いない、No7が閃光(エンツォ)(きら)めきを(まと)いし瞬間である。


 暗殺者(アサシン)とは命揺らぎし時、他の誰より肌感覚で知れるものが存在し得る。殺る時なら絶好の機会、自身危ぶむ際もこれが過敏(かびん)でなければ仕事にならない(生命の危険に晒される)


 フィルニアの無私(むし)が過ぎる。それが気掛かりならないアノニモ。こういう鼻利きの良さは気持ち良くない。寄って閃光(エンツォ)発現(はつげん)さえ綱渡りな違和感覚える。


 バキッ!!


 遂に両肩のフィンが悲鳴を上げたフィルニア機。肩こそ捥げ(もげ)やしなかったものの、まともに機能するとは思えぬ甚大(じんだい)なる破損(ダメージ)を負った両腕。


 だがそれでも太陽神の構太刀(かまいたち)を止める事に成功したのだ。これにはやられたマーダは勿論、周囲の誰もが言葉を(いっ)する。


「──ゆ……ない」

「フィルニア?」

「赦さない……よくも()()()()()()なッ!!」


 最もフィルニア機の(そば)に居たアノニモですら聞き漏らしかけた風使いの憤る(いきどおる)声。その言い様、まるで地球の風司る(つかさどる)代表者が如き文句。


 バシューンッ!!


 まるで瞬間移動か、はたまた次元転移か。説明付かないフィルニア機の稲妻が如き瞬速(スピード)暗殺者(アサシン)は当然耳だけでなく視覚も人一倍研ぎ()まされている。


 ──にも(かかわ)らず電光石火過ぎる赤白の機体を見失う。然し征くべき先は自ず(おのず)と知れる。フィルニアの期待を裏切ったマーダの鼻面に決まっている。


 アノニモに限らず他の者達も確信の上、マーダの目前にフィルニア機が出現すると身勝手に思い込み、視線を空へ移す。


 甘かった、その場に居合わせ誰もが甘過ぎた……。


 確かに行き先はマーダに違いなかった。なれど目前でなく何と背中。()()()()()()()()()()。正に風姫、その名に疑いの余地皆無!


 然しフィルニアの本質は剣士である。両腕動かない剣士などものの数にならない──そんな常識を未だ引き()ってはこの争いの()()なぞ生涯(しょうがい)理解出来る訳がない。


 バキィッ!!


「グハァッ!?」


 ▷▷──()()()()()()()()


 白い顔を歪ませ(ゆがませ)地面に向かい吹き飛ぶマーダ、仰天(ぎょうてん)(さま)。両肩のフィンが回生した風の力(エネルギー)を逆噴出させ会心の頭突きを入れるフィルニア機。


 普段ラディアンヌが口癖(くちぐせ)で使う台詞。風の精霊術『言の葉』を態々(わざわざ)用いる誇大(こだい)な言い草。


 風の使い手から十八番(おはこ)奪う(うばう)如き言葉を取り戻した正しく(まさしく)自機を風と為した動き。フィルニア、風使いとして実は使いたくてならなかった。


 12mの巨体繰り出す(体重)載せた『痛過ぎる』で済まされない攻撃。普通なら肉体潰して圧死確定。やはりこの男、尋常(じんじょう)ならざる存在。


 吹き飛ばされつつも、自身を追い縋る(すがる)フィルニア機相手へ、両手剣(グレートソード)を準備している狡猾(こうかつ)ぶり。


 対するフィルニア機は無手の状態。全霊込めた頭突きこそ敵へぶつけた。されど流石に二度目を喰らってくれるとは毛程も思えぬ。


「そ、そんな状……たッ!?!?」


 だから()()と言うのだ。無私を貫き通すフィルニアだと、良い加減気付けなければ神だろうが足元を(すく)われるのだ。


 フィルニア機、頭突きの次はEL-Galesta(エル・ガレスタ)の全てを捧げたぶちかまし。


 機体が思うままに動かない? 


 じゃあ子供でも判る話をしようじゃないか。()()()()だよ、世界最()()()()()だ。そのまま敵と一緒に重力任せに落ちて一蓮托生(いちれんたくしょう)出来れば勝者に成れる。


 閃光(エンツォ)の輝きと言うよりフィルニア、魂そのものを火種した燃え盛る(さま)。彼女らしからぬ不器用なのだが、だからこそ美しい。


「グッ! こ、こんな馬鹿なッ!!」


 マーダ、如何(どう)にかフィルニア機の(かせ)から逃れようと必死に藻掻く(もがく)。けれど相手の規模が馬鹿らしい程、巨躯(きょく)が過ぎる。実に憐れな神、最期の(とき)訪れるか。


 グシャンッ!!


 物凄く(ものすごく)()()()()()音を奏で(かなで)て落下したフィルニア機とマーダの両者。


 レヴァーラ時代、自分で築いた街並みを自分(マーダ)が崩した先に落ち往く皮肉。遂に虚星(巨星)は堕ちたか?


 それより気掛かりなる事。


 あれ程燃え盛っていたフィルニアが生んだ閃光(エンツォ)に寄る()()の輝きが完全に失われている。閃光(エンツォ)が終わっただけで在って欲しいと懇願(こんがん)する仲間達。


「──フーッ! よ、よくもこんな女独りでッ!」


 恐るべきと言うべきか。或いは()()()が正しいのか。太陽神マーダは生きていた。全身から汗と血を混ぜたものを存分に()らしている。


 怒りと恐怖に震えているマーダ、歯の根が合わない。されど『恐怖を感じた』とは決して口にしない。吐いたが最後、敗北を認めた様なものと自ら感ずる。


 確かにマーダの気分も判る。天使化したディスラドがマーダへ転じる狭間の時、ファウナが撃った原子の連鎖(ディスディ・ラトーン)を避けたとはいえ生き延びたのだ。


 ()()()()()(かえる)の如く潰されかけ恐怖したのを認めるなど絶対容認出来やしないのだ。


「す、捨てた暗転(ヴァンシオネ)を使わせるとはッ!」


 これが、この台詞こそ『恐怖を感じた』の代わりに吐いた言葉である。そしてマーダが生き延びた説明なのだ。


 恐怖に我を忘れかけたマーダが地面に接触する寸前、暗転(ヴァンシオネ)を仕掛けた。

 フィルニア機と自分の位置を上下反転させることでEL-Galesta(エル・ガレスタ)の下敷きになるのをようやく避けた形。


 それにしてもフィルニア機から頭突きを喰らい、落ちた割には生きているのだ。充分異常過ぎる。あの状況下で太陽風を巧く使えたか怪しいものだ。


 一緒に落ちたフィルニア機、見るも無残な姿を晒す(さらす)。鉄筋コンクリート造りの建物が崩れた上に落ち、崩れた機体に鉄筋が突き刺さっている。


『ふぃ、フィルニアはどうした!?』

『ま、まさか……そんな()()()


 No10ジレリノとNo9アノニモの暗殺コンビ。仲間の命(あん)ずる稀有(けう)な状況。機体の拡声器(スピーカー)で絶望的な呼び掛け。


 ▷▷──か、勝手に殺すな……。ぜ、全身至る所、痛過ぎて動けないがな。だがな、これで判ったろう? 太陽風が止まる瞬間を。


 息も絶え絶え(たえだえ)なフィルニアからの精霊に寄る何とも痛々し気ながらも確信を得た応答。声を聞けたジレリノとアノニモの顔にいよいよらしくない安堵(あんど)の色が浮かんだ。

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