第183話 蒼い瞳が見つめる未来へ
ラディアンヌ・マゼダリッサ駆る黄緑色の機体と、神の御使いが如く白き翼を生やしたマーダとの一戦。
呼吸術を機体にまでも通して発揮出来るラディアンヌが一見優勢に見える争い。然し人型兵器に二度も本気でぶたれて何処吹く風なマーダである。
このままラディアンヌ無双……が続く程、戦局は甘くなかろう。
ズガガガッ!
パチンッ。
『──ラディアンヌ、余り出しゃばるんじゃねぇッ! どうやったのか知らんが魔導士姉妹が黒猫の起動を完遂したッ! 後はMeteonellaの守りを優先しろ』
アル・ガ・デラロサ隊長、EL-Galesta MarkⅡを飛行形態にて出撃。マーダとラディアンヌ機の間合いへ頭部30㎜バルカンを牽制代わりに撃ち込む。
──黒猫が起動した? レヴァーラが居ないのに?
『ラディアンヌ了解、下がりながら敵への牽制を続行します!』
デラロサ隊長から『守りに戻れ』と命令受けたラディアンヌだが、守戦とはいえ、この場は自分が先陣を切る独断専行を勝手に伝える。
攻撃こそ敵に有効打を与えてないが、機敏な動きで護りに徹するのなら最も速く、加えて敵の鼻面抑えられる自分が適任。これは自惚れでなく確信である。
『さあ、太陽神。私未だ貴方様から蚊ほどの傷すら受けてませんよ』
自分から攻め入る愚は流石に不可侵決めたラディアンヌ。
然し『私こそが境界線。超える気あるなら、先ずこの私を攻め落とすが良い』機体の両腕を組み、胸張り態度でマーダに示す。
「──随分舐め腐った真似をするッ!」
マーダ、一旦翼はためかせ宙へ馳せる。またもや太陽神が太陽を背にした格好。『太陽? アレは俺様の下僕だ』と言わんばかりの振る舞い見せる。
自ら放つ陽光の輝きを、恒星が後落しする神々しさ。さらに猛禽類が如く翼を畳み、ラディアンヌ機へ突出して征く。白い羽根が空へ舞い散る。
「うっ!?」
実にラディアンヌらしからぬ失態。陽光対策としてバイザー付ヘルメットを装着している。
だが2つの陽光へ視線を向けては事足りない。眩し過ぎてマーダの行方を見失った。
マーダ、豪胆にも太陽風の剣圧でなく、陽光滾る大剣をラディアンヌ機の操縦席目掛け、突きに寄る打ち下ろしを狙う仕草を見せる。
片手で軽々握れる両手剣を遂に両手で握り、自身の胸元へ引き付け嘴を差し出したかの如く突貫開始。剣と自身を一体化させ得る事で空気抵抗を減らす強かな目論見。
然も太陽風による追い風すら背中に浴びせる。マーダ、少々本気を垣間見せる瞬間の刻。
ズバッ!!
ブツンッ!!
「貴様ァ……No10の癖に神の邪魔をするとはァ……」
「──ジレリノッ!?」
「おぃッ手前! 助けに来んのはありがてぇが、勝手に死ぬんじゃねぇッ!!」
マーダの大剣がジレリノ機のアンカー付きワイヤーを斬り千切った音が木霊する。
電力増加で速度を上げてるラディアンヌ機だが、それでも避ける身動きへ転ずるのが一歩遅れる。敵が電光石火過ぎてラディアンヌに迷いが生じた。
ラディアンヌ、不覚にも命取られると感じた刹那。
嘗て自分を死の淵まで追い詰めた罠使いが文句を垂れる。魂の賭け合いをした相手、次は命を拾って貰う人生の転機。
ジレリノ機、ラディアンヌ機共々、ホバリング噴射で後方へ一時逃れる。何しろ相手は最凶が過ぎる駒。されど敵が飛車角なら囲うまでだ。
◇◇
「──ふふ……じゃあ行くわよ『閃光』!!」
一方、不思議にもレヴァーラ・ガン・イルッゾの承認抜きで動き始めたMeteonellaと乗機しているファウナとゼファンナ。
正確には既に存在しない人間をファウナが魔法の如く勝手に扱い承認したのだ。
妹、時間が無いのは本当なれど種明かしせず、閃光使いじゃない姉へ、何気なく閃光行使を要求した。
姉は姉でどうかしている。
さも満足気な面構えで本当に閃光を発動させる。如何にもゼファンナらしく、金色なる光の渦がオーロラの様に巻き起こり、巨大黒猫を漆黒から黄金へ転化させ往く。
「どうして私に(閃光が)扱えると思ったのかしらん?」
──私の美麗溢れ出る輝きを精々拝みなさい。私の可愛い妹。
ゼファンナ、自身の金髪を掻き上げ堂々見せびらかす仕草。承認の謎説きをゼファンナ当人が反故にしたかの様な振る舞い。
何故ファウナがレヴァーラとして振舞えたのか。正答聞かずとも頭の回転速いゼファンナの蒼き瞳は、もう道半ば見えてしまった。
「簡単……だって貰い物とはいえ既に姉さん、閃光を使い熟して見せたじゃない」
要はそういう理屈。
つい先程、ディスラドの暗転の所為で、レヴァーラの閃光とゼファンナへ付与していた戦乙女等の術が入れ替わった際。
ゼファンナ、貰い物であるにも関わらず閃光を成熟の域まで使い果たした。ならば自分で寝た子を起こすことなど造作もないとファウナは確信しただけ。
今のゼファンナが閃光を扱うにあたり、危惧すべきは精神でなく体力。
魔力と精神は共に幾らか、ファウナが回復させた。然し身体中の細胞達が悲鳴を上げているのは疑いようもない。
ゼファンナ・ルゼ・フォレスタは、そんな生地獄を可愛い妹に気取られない様、涼しき顔を決死の覚悟で演じているに過ぎない。
何故そうも自分の命に無知を装えるのであろうか。至極簡単な理由。
ファウナ・デル・フォレスタは、レヴァーラ・ガン・イルッゾを内に秘める覚悟があると知り得たからだ。
恐らく二人が繋がった時、ファウナが一方的にレヴァーラへ意識の形を渡したのみに留まらず、レヴァーラからも何かを得たのだ。
それがどんな継承なのか定かではない。されど自分達の実母が残した清濁総てを妹は受け容れる器になると決意したのを姉は悟った。
レヴァーラの行為──世辞にも正義のみとは言い難い。
『あれは中身が勝手にやった事』
そんな言い訳、凡人には通用しない。物事を推し量れるゼファンナみたいな天才ならば猶更であろう。
何とも悲しきかな……妹はその小さな躰で恐らく生涯、死去した母親の善悪全てを相続する羽目に陥る。
ならば姉である自分に出来る僅かなる贈り物。この命、例え果てようが妹の行為を全身全霊で応援するのだ。
一度は奪おうとした己が妹の人生。
天才過ぎる妹に嫉妬を抱き、短絡的に消そうと企てた我が身。こんな些細で罪滅ぼしが出来るだなんて思っちゃいない。
それでもファウナ・デル・フォレスタの蒼い瞳が見つめる先を微少で構わないから導けるのなら姉は充分幸福なのだ。




