第182話 Eccentric・Radienne
Meteonellaを目指して突き進むファウナ・デル・フォレスタとゼファンナ・ルゼ・フォレスタの二人。
その黒猫を死守すべく全機発進の命令を発したアル・ガ・デラロサ隊長。
最強の敵であるマーダが最初に目を付けた相手。フォルテザのメインストリートで光学迷彩と蜘蛛の糸による罠を張り巡らし、余裕ぶってたNo10ジレリノである。
太陽風を帯びた大剣相手に、特別製のワイヤーアンカーと小銃で挑む苦戦を強いられるジレリノ機。そこへ駆け付けたるは、嘗ての標的、呼吸術の武術家、ラディアンヌ・マゼダリッサだ。
専用機の操縦席にて肺呼吸を止めたラディアンヌ。肺呼吸による身体の緩慢さを抑えるマゼダリッサ家。一子相伝の御業をよもや人型兵器で再現するのか。
ラディアンヌ機、生身のマーダと間合いを取ると、あろうことか機体の右手をクイクイッと寄せる仕草を見せつける挑発行為。
黄緑色の機体周辺、何やら不穏なる空気渦巻く。周囲の建物や街頭・信号等がチラチラし始め、やがて機能を完全に停止した。
まるで代わりにラディアンヌ機が通電したかの如く、バチバチッと弾け始める。周囲の電力をラディアンヌ機が奪い去った様な絵面。
肺を解さず皮膚細胞から直接酸素を供給した途方もなき彼女のやり口。
次はEL-Galestaの動力源、電力を周囲施設から直接機体へ取り込む在り様を示す。これは最早疑いようのなき結実。本当に機体の動力源を取り込む行為をやってのけた。
「──ほぅ……面白きッ!!」
後の先──後出しの優位を捨てたマーダが敢えて挑発に乗り、ラディアンヌ機目掛け、一挙襲い掛かる。太陽神の圧倒的力で捻じ伏せる気満々な動作。
ブンッ!
納刀適わぬ派手な大剣をラディアンヌ機へ向け大きく振るのだ。逆説的に語れば剣術と言うには余りに雑。踊り子の体幹活かした剣技の方が余程流麗と言えよう。
さりとて理不尽かつ圧倒的な、太陽風を帯びた剣圧がラディアンヌ機を襲来するのだ。
「──我、風と共に在り」
以前、No5チェーン・マニシングと初対決の折に見せた躰を綿毛の様にフワリッと攻撃をいなした動き。アレすら機体でお披露目したのだ。
「──ッ!?」
マーダとてラディアンヌ機に避けられる様は折込み済。なれど避けたその場より相手が失せる。12mもある巨人の動きを視覚で追えない。流石に驚きを隠せやしない。
パリィ!
「グハッ!?」
マーダ、巨大な硬い拳に殴られ不覚にも吹き飛ばされる。またしても目で追えなかったラディアンヌ機の攻撃。
左手の拳で情け無用で殴打された。マーダが察知出来たのは、電気帯びる微量の音のみに留まる。
──さっきの不意打ちと言いロボットの拳で殴られたのに動けるだなんて!?
会心を繰り出したラディアンヌの方が驚愕を強いられる。太陽風の防御が在るとはいえマーダ、異常過ぎるタフネスぶりだ。
ラディアンヌ、機体に過剰な電力を流し、一時的だが稼働速度を底上げしている。森の魔法『戦乙女』の効力すら凌ぐ鬼神の動きだ。
「──な、何アレ!? あんなの私想定してないのに?」
格納庫より戦況を観察しているリディーナ、思わず泡吹く。設計者の仕様を超えた速度でEL-Galestaが稼働している異例の事態。
パリィ!
「グボァ!」
次は鋼鉄の肘を叩き込まれ無様な叫びを上げざるを得ない太陽神。『ひょっとしてこれいけるのでは?』期待抱かずにいられぬ周囲の仲間達。
然し仕掛けてるラディアンヌ当人が困惑なる表情。
先程ゼファンナ機のワイヤー付きアンカーを生身で受けて減らず口を叩いたディスラドよりも気色が悪い。何しろ機体の重みとGを同時に載せた肘打ち。
吹き飛ばしたまでは良かったものの、何事も無かったの如く立ち上がり、首を鳴らすマーダなのだ。到底効いているなどと楽観視出来やしない。
「今のも避けるか……やってくれる。ならばッ!」
マーダ、同じ片手持ちによる剣の振り回しなのだが、今度は手数が圧倒的に増加する。数多の太陽風混じるかまいたちの如き剣圧。ラディアンヌ機へ降り注ぐ。
これは避けずに両掌を広げ、全て弾いて見せるラディアンヌ機の余裕ぶり。
『手数を増加した分、威力が半減以下では牽制にすらなりません』
ラディアンヌ機、斜に構えて敵を威嚇する仕草。然も大層ご丁寧に機体の拡声器で態々警鐘を鳴らす。
「──ちょ、ファウナ。貴女のお姉様、アレ幾ら何でも強過ぎない!?」
ゼファンナが指差しながら興奮と狼狽えを両立させ得る。何しろマゼダリッサ家、呼吸術の奥義とタメ張った経験者である。
「全く……本当呆れる程の強さだわ。魔法の底上げだなんてあれなら不要ね」
双子の妹も今さらラディアンヌの凄味を実感。冷汗まで垂らしている。但しこの冷汗、ラディアンヌの強さと神に転じた敵への恐怖が同居していた。
ラディアンヌ機の独り無双におどけてみせる双子の魔法少女。遂に目指す格納庫へ迫る勢い。然し呑気するつもりは粉微塵もないのだ。
特にファウナに至ってはそれが顕著だ。太陽神に成る以前のディスラドと幾度も殺り合い、今やその中身と化したマーダとも死闘を演じた経験値が在る。
そんなマーダが手ずから選んだ最初の身体。決してラディを小馬鹿にしてる訳ではない。然しこのまま終わる程、甘い相手で在る訳ないのだ。
無事Meteonella専用格納庫に辿り着いた双子の魔導士。
傷だらけの専用機へ別れを告げ、黒猫の猫額に飛び移る。ファウナに取っては最早懐かしさすら覚える前後複座式の操縦席。
それぞれに掌を載せる静脈認証が存在する。言わずもがなだが通例なら前がレヴァーラ、後ろがファウナだ。
ファウナ、何の迷いも生じず前の静脈認証へ左掌を広げて載せる。本来なら無駄な行為。
されどフロントメインモニターに『Reveala・Gun・Iluzzu.Authorize』の文字が確かに浮かんだ。
「さ、ゼファンナ姉さん、前に座って……それから今度は貴女の番よ」
「はぁッ!?」
全く以って要領得ないゼファンナ。恐る恐る右掌を載せようとした処へ妹の悪戯。半ば無理矢理ファウナが姉の掌を押し付けた。
『Zephanna・Ruze・Foresta.………………Authorize』
「え……嘘ン。What happened?」
まるでモニターが暫く考え事をした様な間を置いてから、上書き認証がアッサリ成功したのだ。
訳求めるゼファンナを他所にファウナは、自分の認証を何食わぬ顔で実行に移す。
『Fauna・Del・Foresta.Authorize……Completed.…………Meteonella Startup OK!』
心配顔の姉を置き去りにしてサクリッとMeteonellaが起動を果たす。例の命通わす様な蒼い瞳がバシュッと光を帯びる。
加えて機械と言うより、電子機器を思わせる静かなる起動音。
「──ウォォォォォンッ!!」
「うっわッ!?」
何故だか起動し始めた黒猫へ初搭乗のゼファンナである。あたふたしてたら次なる洗礼。生物を思わせる何とも雄々しい雄叫び。
ゼファンナは独り、目が回りそうだ。心拍もまるで落ち着かない様子。かなり哀れだ。
「ちょ、ちょっとファウナちゃんッ! しっかり説明なさいッ!」
ゼファンナ堪らず後部座席の冷静な妹へ質問の嵐を浴びせ掛ける。
「──『蜘蛛の糸』……Master Zephanna。後で必ず説明するからEnzoを宜しく」
相も変らぬ知れ顔で煌めく蜘蛛の糸によるMeteonellaとの直結を淡々と進めるファウナ。
然も姉に『閃光をやりなさい』と言い放つではないか。確かにめてにゃん、黒い飼い主の閃光で叩き起こさないとお家を出ない。
「──ッ? フフッ……良いのね? I'll just do it」
ゼファンナ的に、何とそちらは無問題らしい。途端ニヤけて舌舐めずりした。




